始まり
教室につき、扉の隙間から中を覗くと、昨日と同じく彼女は俺の席に座り、本を読んでいる。
読んでいる本も、昨日と全く同じものだ。
俺は扉を開けて彼女に声をかける。
「さて、君が手紙の送り主だろう? どういうつもりか話してもらおう」
俺がそう言うと彼女は本をパタリと閉じ、俺の席に座ったまま体をこちらに向ける。
「手紙の内容の通りよ、私と部活をしなさい? さもなければあなたの秘密をばらすわ」
「なるほど、その前に、三つほど聞いてもいいだろうか?」
「えぇ、どうぞ?」
彼女は微笑みながらそう言った。
赤色の瞳がぎらりと光り睨まれたような気がした。しかし、ここで引き下がる理由にもいかない。
「まず一つ目、俺がお金持ちの息子だということに何故気づいた?」
俺がそう問うと、彼女は当たり前のように答えた。
「私のメイドに頼んで調べてもらったのよ」
メイドというのは、一般の家庭が雇えるものではない、即ち、彼女の言うことが正しければ彼女も割と富裕層の育ちであるということなのだろう。
「……なるほど、では次に、何故部活動とやらを俺と一緒にしたいんだ?」
その問いに、彼女は本の表紙の男を指さしてこう言った。
「この本の主人公にあなたが似ているから」
確かに、この本の主人公は少なからず俺に似ている。
顔は普通で中肉中背、オマケに口調までも似ている。
「それじゃあ最後に、この本の作者、君だろ?」
俺は半ば確信してそう彼女に告げた。
その後、俺のその問いに彼女は少し驚いた様な表情をしていた。
「よく分かったわね? 理由を聞いても?」
「ただの感だ、別に確証があった訳でもない……」
そう、この件に関しては、なぜ分かった? の問いに俺は真面目に答えることが出来ない、本当にただの感なのだ、彼女がそうなのではないか? と思っていただけなのだ……
「と、言えたら格好が付くのだろうが、この件に関しては俺のメイドに調べさせた」
「なるほど、探っていたのはお互い様な訳ね」
俺のメイド、相崎 リツカは料理を除いて完璧だ、家事から事務作業など、なんでもこなせる。
正しくメイドの鏡である、しかし、それは向こうのメイドも同じのようだ。
「それで、もう一度聞くが、何故俺と部活動がしたい?」
俺がそう言うと彼女はわなわなと震え始めた。そして小さな声で呟く。
「……けないの、」
「なんだって?」
俺がそう聞き返すと彼女はおもむろに立ち上がり、俺の方へと体を向ける。
「……ラノベの一巻の続きが書けないの!」
「それで?」
俺はただただぶっきらぼうに言葉を返す。
その反応に彼女は少し顔を歪めたが、それでも彼女は気にせず話し始める。
「だから……主人公に似てるあなたと一緒にこの小説と同じく部活を作ったら、何かいい案が浮かぶと思って……」
「なるほど、それでいいたいことは全部か?」
自分でも性格が悪いな、とは思うけれど、こればかりは彼女自身の問題だ。俺が自ら手を差し伸べることなど出来ない。
「お願い、貴方と一緒にいたら何かいい案が浮かびそうなの、だから……」
それはこれまでずっとクールキャラを貫いていた、彼女の素の、本気のお願いだった。
そして、数秒教室に静寂が訪れる。
「……仕方ないな、俺も貴方の書くラノベの続きを早く読みたいので、仕方なく手伝ってやるとしよう」
仕方ない、これも真のオタクに近づく為だ。彼女の脅迫に乗せられてやろうではないか。
「ちなみに、この本のタイトルの由来は?」
俺はふと思った疑問を投げかける。
と言うのも、このラノベのタイトル『オタク部』と言ういかにも俺にピッタリそうな名前にビビっと来たからだ。
「特に理由は無いわ、パッと思いついたからそれにしただけよ」
随分と適当なのだな、ラノベ作家と言うのは大体こんななのか?
「……なるほど、それと一つ、昨日言っていた俺と貴方が似ていると言うことはどういう事だ?」
「その言葉通りよ」
「なるほど、つまり貴方も俺と同じく、金に群がるハエ共よ、くたばりやがれ。……と言う考えの持ち主だと?」
「……ちょっと貴方根が腐りすぎじゃない?」
「余計なお世話だ、妄想少女」
何はともあれ、どうやらこれから面倒臭い事になりそうだ、果たして俺に平穏な高校生活など送れるのだろうか?
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