手紙

 家につくなり、俺は自室のベットにバタりと倒れ込んで、早速本屋で買ったラノベを読み始める。

 あらかたの内容は愛上君から聞いてはいるが、こうして読むのは初めてである。


「ふむ、ラノベというものもいいものだな」


 俺は、久しぶりに時間も忘れて読書に集中していた。

 これ程集中して、読書したのはいつぶりだろう。気がつくと、部屋の窓の外はすっかり暗くなり、読み始めてから大分時間がたっている事が分かる。


「いけないな、夕食の時間だ」


 俺はいつの間にか読み終わっていたラノベを枕元に起き、制服から部屋着に着替えてリツカのいるリビングへと向かった。


「……タクヤ様、愛上君の勧めていた本はいかがでしたか?」

「そうだな、あれはあれでいいものだな、明日続きを買うことにする」


 俺がそう言うと、リツカはクスクスと笑い、その後テーブルに今夜の夕食を並べる。

 さて、今夜の夕食は長くなりそうだな。

 ん、何故かって? それは見れば分かることだろう。

 俺の目の前には、世にも奇妙な真っ黒料理が並べられていた。


「リツカ……」

「……はい? 何でしょうか?」

「明日から飯は俺が作ることにする」

「……すいませんでした」


 その後、真っ黒料理は当然ゴミ箱行きになり、今夜の夕食はレトルト食品で済ませることにした。

 俺はもう二度とリツカをキッチンにたたせまいと誓ったのである。


「それとリツカ」

「……はい? 何でしょうか?」

「一つ頼まれごとをしてくれるか? 少し気になることがあってな」



 ××××××××××



 さて、どうしたものか、今俺の机の中には一通の手紙が入っている、と言っても断じてラブレターなどではない事がわかる、何故なら、手紙にはご丁寧に脅迫状と書かれているからだ。

 中身を見てみると、内容は……


 私と部活をしなければ、あなたがお金持ちの息子という事をばらすわ!


 謎の黒髪美少女より。


「さて、どうしたものか……」


 俺は珍しく頭を抱え、落胆していた。


「どうしたの? 赤城君」

「愛上君か、驚かせないでくれ」


 俺は手紙をサッと机の中にしまい、横からひょこっと出てきた愛上君と目を合わせる。


「ごめん、でも赤城君が悩んでそうな顔してるから」

「ふむ、顔に出ていたか、これは失態だな」


 俺は嘘を付くことが出来ない人間だが、この事だけは言えない。

 俺は、愛上君に別に大した事じゃない、と伝え、チラリと謎の黒髪美少女様の席に視線を向ける。

 どうやら相変わらず、本を読んでいるようで、こちらの視線に気づいていないようだ。

 全く、脅迫状なんて物騒なものを送り付けて置いて自分は静かに本を読むなど、白々しい女だ。


「あ、そう言えばあの本、とても面白かったぞ」

「ホントに! いやー嬉しいな」

「早速今日の放課後に続きを買おうと思う」


 俺がそう言うと、愛上君はバツが悪そうな表情で俺をみる。

 どうしたのだろうか?


「いや、実はね、この本、まだ続きが出ていないんだ、それも大分前から……」

「そうなのか、それは残念だ、続きが気になるのだが……」

「だよね、僕もずっと続きが読みたくてさ」


 これは本当に残念だな、作者は何をしている、さっさと続きを書かないか!

 俺はキッ、と恨めしそうに机を見つめる。


「……それでは、今日違うオススメの本を紹介してくれないか?」

「うん! 了解だよ」


 仕方ない、今回は諦めることにしよう。

 っと、手紙の件も何とかしなければな……




 その後も、何とか退屈な授業を切り抜け、ようやく放課後の時間だ、昨日と同じく、校門の前で愛上君とリツカを待っている。


「リツカさんって綺麗だよね」

「どうした、藪から棒に」


 確かにリツカは見た目もよく、モテる方だと思うのだか、まさかこうも早く一人の男を骨抜きにするとはな。


「でも、リツカさんって赤城君の彼女何だよね?」

「ん? リツカはそう言うのではないぞ?」

「え!? そうなの! 僕てっきり二人は付き合ってるものだと……」


 ふむ、リツカの言う通り、二人で歩いているとカップルに見えるというのは本当の事らしいな、これからは人前では距離を取ることにしよう。


「それは誤解だな、訂正してくれ」

「あ、うん、分かった」


 そうしていると、リツカからメールが入った。

 内容はクラス委員に抜擢され、仕事があるので行けそうにない、との事だった。


「リツカは今日来れないそうだ、んむ、仕方ないな、今日はやめにしよう」

「別にリツカさんがいなくても本屋には行けるんじゃ……」

「リツカがいなくてはつまらないだろう?」


 俺は当然のように愛上くんにそう告げる。


「そ、そっか、……赤城君はリツカさんのこと……」


 愛上君が最後にボソボソと言った言葉は聞こえなかったが、とりあえず今日はなしだな。ならば……


「そういう事だから、俺も教室に少し用を済ませてから帰る、愛上君は先に帰るといい」

「う、うん、じゃあまた明日!」

「あぁ、また明日」


 愛上君の背中が見えなくなることを確認した後、俺は、多分奴がいるであろう教室に向かうことにした。

 事の真相を確かめなくてはな……


 


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