真のオタクとは何ぞや

 晴れて俺と愛上君は本当に友達となった。


 恥ずかしいセリフを恥ずかしいセリフで返した愛上君は恥ずかしそうに微笑み、それにつられて俺も恥ずかしくなり顔をうつむかせた。


 しかし、ここで物語は終わらない、何故なら……


「僕の自己紹介が済んでませんよ!」


 荒ぶる獣のごとく吠えるボクっ娘メイドは目の前で起きた青春群青に敵意むき出しだった。


「一年二組相崎マドカです、よろしくです」


 と、シンプルに自己紹介を終わらせた彼女の苗字に注目してほしい。


 相崎。リツカと同じである。

 いやしかし、同じ名字の人物など学校にいくらかいる訳で、


「あ、言い忘れましたがそこの相崎リツカとは親戚です」

「「は、はああああああああああ!?」」


 叫んだのは俺とラノベ作家様、以後渡瀬。

 となりの愛上君は特に気にした様子なく、「ふーんそうだったのか」と言った表情をしていた、リツカは変わらず無表情だった。


「いやいや待て、聞いてないぞリツカ!」

「そうよ! 聞いてないわよマドカ!」


「聞かれてないので」「……聞かれて無いので」


 二人のメイドは淡々とそう答えた。

 何ならリツカは欠伸まで欠いている。


「なんなんだこの展開は……」


 俺はこの展開に体を震わせる。

 そして隣の渡瀬は、


「そうね、素晴らし過ぎる展開よ!」


 はい? 隣の女は何を言っているのだろう。


「ハァ、ハァ、その後まさか私とタクヤが許嫁とかそんな展開は無いわよね?」

「残念ながら無いですね」

「……そ、そう、まあいいわ」


 何でそこで残念がるのかが不思議でならない。


「……もし貴方がタクヤ様の許嫁ならば私が抹殺します」

「ねえタクヤ、貴方のメイド目が本気なんだけど!」


 そんな騒がしい喧騒に包まれながら俺はふと気がついた、


 ……そう驚くほどのことじゃ無くね? と。

 実は二人が姉妹でした、ならば驚いたりするものの、親戚というならば充分にあり得る話だ。


 そうと決まれば話は早い、


「愛上君、あの三人はほっといていいだろう、さあ帰ろう」


 俺は唯一無二の友達と友情を深めるべく荷物を持って愛上君を手招きする。


「え、いいの? メイドさんほっといて」

「構わない、めんどくさいしな」


 そして俺たちは騒がしい教室を後にした。



 *******



 帰宅途中で愛上君が本屋に寄りたいと言い出したので俺はそれを了承し、現在俺達は学校から程近い本屋に来ている。


 愛上君は店内に入るや否、すぐさま特定のコーナー目掛けて一直線に向かっていった。

 言わずもがな、ラノベコーナーである。


「良かった、今日発売の新刊まだ残ってた!」


 愛上君は新刊コーナーの一番目立つ場所に置かれたソレを手に取って目を輝かせていた。


「愛上君、それは面白いのか?」


 俺は目を輝かせる愛上君を邪魔する事に少し罪悪感を募らせながらそう問う、すると愛上君は待ってましたと言わんばかりの表情でこちらを満面の笑みで振り返る。

 その顔はほのかに上気していた。


「この本はね、この間赤城君におススメした本のライバルとも言われている今話題のラノベなんだ」

「ふーん、片瀬の本のライバルねぇ」


 ライバルと言われるのなら相当面白いのだろう、片瀬の本は誠に不本意ながらすこぶる面白いのだから。


 そんな事を思いながら俺もその本を買おうか迷っていると、愛上君が何やら考え事をしていた、そして恐る恐る俺へと語りかける。


「ねぇ、片瀬の本って、もしかして……」


 あれ、もしかすると今俺はまずい事を言ったんじゃ……。

 まぁ、こんな事別に隠すような事でも無いのだが。


 しかし、片瀬に断りも無くバラすのも気が引けたので俺は誤魔化す事にした。


「ん? いやただの勘違いだったようだ、気にしないでくれ」

「そ、そっか……なんだてっきり片瀬さんが僕の……」


 その後の愛上君の言葉は聞こえなかった、この時の俺は、もしかすると愛上君を何処かで見くびっていたのかもしれ無い。

 彼が抱える秘密と、その大きさに。



 ********



 愛上君と別れ無事家に帰宅した俺を真っ先に迎えたのはいつも通り愛想のかけらも見当たらない我が家のメイド、相崎リツカだった。


 どうやら俺と愛上君が本屋に寄っているうちに先に帰宅したらしい。


「……お帰りなさいませ、タクヤ様」

「なんだかお帰りと言う言葉を久し振りに聞いた気がする」


 最近ではリツカと共に家を出て、一緒に帰宅しているのだから尚更久し振りに聞いた気がした。

 俺はそう言うと靴を脱ぎ着替えるために玄関から自室へと急ぐ、その途中で、


「……時にタクヤ様、真のオタクとやらには近ずけましたか?」


 そんな、前にも一度聞いた事のある言葉が聞こえた。


「いや、……」


 あぁ、そうだったな。


「……何をしているんだ、俺は」


 そんな答えとも言えない言葉を吐き出して俺は何かから逃げ出すように自室へと駆け込んだ。


 尚、その日の夕食は俺が作った味気ないパスタだった。




















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