メイドVSメイド 後編

 意識が戻るとそこは保健室だった。


「……知らない天井」


 死ぬ前に一度言って見たかった言葉の一つを口に出して少し顔をニマリととさせる、恐らく、今の俺の表情は情けない程だらし無い表情だっただろう、しかしここは保健室、特に誰が居るはずも……


「……なんだコレは」


 俺は隣に感じる肌の温もりと、その温もりを提供してくれて居る人物を見てそう言った。


「あら、起きたのねタクヤ。……ウフフ、昨夜の貴方は」

「いや、そう言うのは求めてない」


 隣で不敵に微笑む黒髪ロングのラノベ作家の言葉を途中で遮り俺は冷静にツッコミを入れた。

 とにかく言わせて欲しい、……お前か。


「連れないわね……」

「一応聞いておくがコレは『取材』なのだろう?」


 ラノベ作家に限らず『作家』と言う人種は取材をするのが普通らしい。よくテレビでも取材という言葉を耳にするが、ここで言う取材と言うものは何となく違う気がするのは俺だけだろうか?


 いや、情報を収集する、と言う点では同じなのだろうが。


「勿論そうよ、私が取材以外でタクヤと一緒に寝るわけがないじゃ無い、期待を裏切るようで悪いけれど」

「安心しろ、俺だってお前が『タクヤと一緒に寝たかったの♡』何て言い出したら今度は深い眠りに落ちる自信がある」

「タクヤと一緒に寝たかったの♡」


 ウゥ、鳥肌が立ってしまった。


「……そんな心の底から拒絶するような表情をされると女として負けた気になるわ」


 既に負けてるだろ、お前。なんて言ったら怒られそうなのでやめておこう。

 なにはともあれ無事意識を回復させた俺であったが、……さて、どうしたもんか。


「ちなみに今何時なんだ?」


 自分が一体どれほど意識を失っていたかを知るために未だ俺の横で不敵に笑うラノベ作家様に現時刻を問う。


「今は午後一時ちょっと過ぎぐらいね、つまりは昼休みよ」

「……成る程」

「どうかしたのかしら? 何だか顔が真っ青だけれど」

「そ、そうか? た、多分まだ具合が悪いんだと……」


 俺が歯切れ悪くそんな事を言うと、ラノベ作家様の表情が下品な笑を浮かべて俺の肩をガシッと掴んだ。


「いいネタの匂いがするわ!!」


 そう言い放ちラノベ作家様はどこからとも無く取り出したタブレットを構えて俺の顔をジッと見つめる。


 ……クソ、何なんだコイツ。


「さぁ言いなさい!」


 ハイエナの様な瞳で見つめるラノベ作家様の姿はもはや少女では無くなっていた。

 例えるなら、そうだな。


 ……少女を襲う変態のオッサン?


「い、いや、言わないぞ! これだけは決して!」

「いや、貴方は言うわ、何ならを校内にぶちまけてでもね!」


 ば、バレていたのか!!


 いや? なら何故知っているのにわざわざ俺の口から再度聞き出そうとしてくる。


「な、何のことだか検討もつかないな?」

「フッ、隠しても無駄よ赤城タクヤ。全てはから聞いているわ」

「……」


 言うしか無いのか、


「あぁ、分かったさ、言ってやるよ。」

「ほう? 遂に覚悟を決めたのね、いいわ、その決意した表情。主人公にピッタリだわ」


 そして俺は生唾を飲み込んで咳払いをする。

 何かの迷いを捨てるが如く。

 目の前には下卑た表情の女、正直言って不愉快にも程があるが仕方ない。


「……今日の」


 だから俺は最後の抵抗とばかりに結論だけを述べることにした。


「今日の?」

「今日の、今日のパンツはカラフルな縞パン!!」


 ガラリ、


「……た、タクヤ様?」

「あ、貴方!」

「……流石にびっくりしたわ」


 何だ、俺なにかおかしな事を言ったか?

 と言うかタイミング良くリツカとラノベ作家様のメイドも登場したし。


「……まさか、タクヤが、女性物の下着を付ける変態だったなんて」

「……タクヤ様とお揃い、」

「変態過ぎです……」


「ま、まて! 何故俺が変態扱いされなければならない! 俺はただ今日のパンツの色をだな!」

「もういいわ! 止めて頂戴。私が悪かったわ、いくら私でもタクヤの性癖を本のネタには使わないから」

「なんの話だ!?」

「それとカマをかけて悪かったわ!」

「このアマァ!!」


 何だか盛大に誤解されている気がする。と言うかされている、俺はただリツカのパンツの色を答えただけなのに。


「……とんだ変態ご主人様ですね、流石のボクもビックリです」

「……タクヤ様の侮辱は許しません」

「しかもメイドもメイドですよ! メイド専門学校の同級生として悲しいですよボクは!」


 しかも何だかメイド同士喧嘩を始めるし、


「……私、もういくわね」


 しかもラノベ作家様は儚げに俺を見つめて保健室を出ていくし、


「……でも私の方が優秀、そっちはポンコツ」

「ムキィィ!! 大事なのはそのあとですよ! 何をどうすればメイドのスカートに頭を突っ込む主人が出来るんですか!」

「……これはコミュニケーションです、そんな事も分からないのであれば、やはりそっちより私の方が優れています」


「貴方見たいなポンコツメイドがボクより優れているはずが無いだろう!」

「……何を言いますかこのボクっ娘メイド、今時そんなキャラ流行りませんよ」



 ××××××××



 ……過去回想終了。


 さて、とにかく言わせて欲しい、


「……俺の今日のパンツは赤色だ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る