第3話
タケミナカタは困惑した。
彼を指し導くものがいなくなったのだ。
指し導くものがいなければどこにいくことになるのかわかったものではないではないか。
「そんなことはさせないぞ」
誰にむけて発した言葉か自分でもわからずにタケミナカタはわめいた。
「そんなことは許さないぞ」
「誰を許さぬというのです」
女の声が聞こえ、タケミナカタは辺りを見渡した。
「誰かそこにいるのか」
「わたしはここにおります」
女の声はするのだが、姿は見えぬ。
「姿を見せてくれぬか」
タケミナカタは姿なき声に願った。
「それは、かなわぬこと。わたしがここにおりますのに、姿を見ぬのはあなたのせい」
「私が声を聞くに、姿を見せぬのはそなたのせいだ」
タケミナカタは言い返した。
「そのように言えば私の咎になってしまいます。言葉をお謹みくださいませ」
「ならば姿を見せよ。すべてはそれから」
「あなたはそういうお方なのですか」
「そなたがそういう人だというのなら、そうなのだろう」
タケミナカタは女の姿を見ようとして、合の手のように答えた。
「ならば聞きましょう、姿が見えないものから始まるものはないと?」
「姿を見えぬということは存在を確かめられぬということ。夢か現か疑わざるを得まい」
タケミナカタは断言し、自らの言葉により姿を見せるものがないかと辺りを見渡した。辺りにはタケミナカタのほかには誰もいなかった。しかし、声は聞こえた。
「ならば私はあなたの夢の中に住まうものなのでしょう。次の夢にてお会いしましょう。ごきげんよう」
「待て。待つのだ」
タケミナカタは慌てて叫んだが、もう返事はかえってこなかった。
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