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 つまりは、たいていこんなのは、行き当たりばったりの作り話に決まっているんだけど。でも、市民が大勢いる受付ホールで、あんなこといっちゃった子を、そのまま帰すわけにもいかないし。

 そんなこんなで、ヤマザキ刑事は、それで、彼女を刑事課の取調室まで連れてきたんだ。刑事課は、ちょっとした騒ぎ。なんせ、女子高生が「人を殺した」といって自首してきたんだから。

 みんな、取調室のモニターが気になって、仕事にならなかったみたい。


「はい、どぞー。ここが、ザ・取調室。そこに掛けてね」とヤマザキ。

「はい。へえ、ドラマと一緒ですね。やっぱり、こう、犯人の顔にライトあてたりするんですか? カツ丼食べさせてくれたり、椅子けっとばしたり」

「そうそう『お前がやったんだろ!』って胸ぐらつかんで『先輩、それヤバいっすよ』って止められたりって、んなわけないでしょ。ドラマじゃないんだから、ってか最近じゃドラマだってしないよそんなの。それショーワ、昭和のドラマだからね」

「カッコいいからね。ショーワの刑事。大好き」

「それでね。これ、正式な取り調べじゃないから。念のため、お嬢ちゃんの話を聞くってだけだから。リラックスして。お茶もコーヒーも好きなだけ飲んでいいから。あ、コーヒーくそ不味いけどね。それと任意だから。気が向いたら帰ってもらっていいからね」と、ヤマザキ。「あ、それと、一応、記録はするよ」

「はい! わかりました。記録は大事ですから」と、彼女は元気に答え、行儀よくきれいな姿勢で座った。

 若手のわりと意識高い系刑事、ツムラシゲユキ 二十九歳が、記録係をかねて同席してる。

「まず、名前と生年月日、住所、電話番号を教えてもらおうかな」

「名前は、ホシノヒカル十七歳」女の子は、そのまま生年月日と住所、電話番号をいった。ツムラは、パソコンにホシノヒカルの個人情報を打ち込んでみた。もちろん、補導の履歴や犯罪被害者、その親族にも、その名はなかった。

「で? ヒカルちゃんってばその、人殺ししちゃったんだっけ?」

「そうなのです。なんと三人も殺しちゃった連続殺人鬼なのです! 完全犯罪なのです!」

「そっかー。完全犯罪かあ。それじゃあ、ちゃんと聞かなきゃな、話。ところでところでヒカルちゃんは、なんで、自首してきたの? おかしいじゃん。完全犯罪なのに、自首してくるって、おかしいじゃん」

「ええとですね。最初は、殺人が無事成功しただけで満足だったんだよ。そうなんだけど、なんか、最近『ヒカルこんなにすごいこと、しちゃったんだよ』って、誰かにいいたくていいたくてたまんなくなっちゃって。それなら刑事さんに話そうかなって」

「そうか。ヒカルちゃん、それって、褒められたくなったのかな。いやいや、ヤマザキもさ、褒められて伸びるタイプだから、わっかるんだよな」

「はい、そうです。ヒカルちゃんすごーいって、いわれたくて」

「なるほど、それ系ね。わかったわかった。でもさ。俺に話したところでさ。そんなこといわないと思うなー。『ヒカルちゃん、すごーい』とか、いわないいわない。だって、こう見えてもほら、ヤマザキは曼珠署のエースだもの。安くないもの。な、ツムラ」

「はい、曼珠署のエースですよ。ヤマザキ刑事は安くないんですよ」

「いいますよ。絶対にいいますよ。最後まで話を聞いたら絶対にいいますってば。ホント、めちゃくちゃ頭使ったし。手間も時間もかけたし。高校生殺人オリンピックがあったら、ダントツで金メダル獲れちゃうくらいなんですから!」

「うむ。聞かなきゃダメなのかな、それ」

「はい。刑事として生まれたなら、聞かなきゃダメです!」

「いや、べつにヤマザキ、ボーン・トゥ・ビー・デカってわけじゃないんだけどね。で、長いの? その話」

「まあまあ、ですかね」

「まあまあか。長いとほら、ヤマザキ集中力保たないから。歳だから。しかもすぐ飽きるから。できるだけ手短にしてよ」

「はい。努力はしてみます」

「しょうがねーな。ヒカルちゃんがそういうんだったら、しょうがねーよな。な、ツムラ」

「あ、はい。しようがないですね。ヒカルさんがそういうのでしたらしようがないです」と、ツムラ。

「じゃあさ、話してみてよ。ちゃんと聞くからさ」

「やったー。思い切ってここまできてよかったです!」

 つまりは、たいていこんなのは、行き当たりばったりの作り話に決まっているんだけど。でも、市民が大勢いる受付ホールで、あんなこといっちゃった子を、そのまま帰すわけにもいかないし。

 そんなこんなで、ヤマザキ刑事は、それで、彼女を刑事課の取調室まで連れてきたんだ。刑事課は、ちょっとした騒ぎ。なんせ、女子高生が「人を殺した」といって自首してきたんだから。

 みんな、取調室のモニターが気になって、仕事にならなかったみたい。


「はい、どぞー。ここが、ザ・取調室。そこに掛けてね」とヤマザキ。

「はい。へえ、ドラマと一緒ですね。やっぱり、こう、犯人の顔にライトあてたりするんですか? カツ丼食べさせてくれたり、椅子けっとばしたり」

「そうそう『お前がやったんだろ!』って胸ぐらつかんで『先輩、それヤバいっすよ』って止められたりって、んなわけないでしょ。ドラマじゃないんだから、ってか最近じゃドラマだってしないよそんなの。それショーワ、昭和のドラマだからね」

「カッコいいからね。ショーワの刑事。大好き」

「それでね。これ、正式な取り調べじゃないから。念のため、お嬢ちゃんの話を聞くってだけだから。リラックスして。お茶もコーヒーも好きなだけ飲んでいいから。あ、コーヒーくそ不味いけどね。それと任意だから。気が向いたら帰ってもらっていいからね」と、ヤマザキ。「あ、それと、一応、記録はするよ」

「はい! わかりました。記録は大事ですから」と、彼女は元気に答え、行儀よくきれいな姿勢で座った。

 若手のわりと意識高い系刑事、ツムラシゲユキ 二十九歳が、記録係をかねて同席してる。

「まず、名前と生年月日、住所、電話番号を教えてもらおうかな」

「名前は、ホシノヒカル十七歳」女の子は、そのまま生年月日と住所、電話番号をいった。ツムラは、パソコンにホシノヒカルの個人情報を打ち込んでみた。もちろん、補導の履歴や犯罪被害者、その親族にも、その名はなかった。

「で? ヒカルちゃんってばその、人殺ししちゃったんだっけ?」

「そうなのです。なんと三人も殺しちゃった連続殺人鬼なのです! 完全犯罪なのです!」

「そっかー。完全犯罪かあ。それじゃあ、ちゃんと聞かなきゃな、話。ところでところでヒカルちゃんは、なんで、自首してきたの? おかしいじゃん。完全犯罪なのに、自首してくるって、おかしいじゃん」

「ええとですね。最初は、殺人が無事成功しただけで満足だったんだよ。そうなんだけど、なんか、最近『ヒカルこんなにすごいこと、しちゃったんだよ』って、誰かにいいたくていいたくてたまんなくなっちゃって。それなら刑事さんに話そうかなって」

「そうか。ヒカルちゃん、それって、褒められたくなったのかな。いやいや、ヤマザキもさ、褒められて伸びるタイプだから、わっかるんだよな」

「はい、そうです。ヒカルちゃんすごーいって、いわれたくて」

「なるほど、それ系ね。わかったわかった。でもさ。俺に話したところでさ。そんなこといわないと思うなー。『ヒカルちゃん、すごーい』とか、いわないいわない。だって、こう見えてもほら、ヤマザキは曼珠署のエースだもの。安くないもの。な、ツムラ」

「はい、曼珠署のエースですよ。ヤマザキ刑事は安くないんですよ」

「いいますよ。絶対にいいますよ。最後まで話を聞いたら絶対にいいますってば。ホント、めちゃくちゃ頭使ったし。手間も時間もかけたし。高校生殺人オリンピックがあったら、ダントツで金メダル獲れちゃうくらいなんですから!」

「うむ。聞かなきゃダメなのかな、それ」

「はい。刑事として生まれたなら、聞かなきゃダメです!」

「いや、べつにヤマザキ、ボーン・トゥ・ビー・デカってわけじゃないんだけどね。で、長いの? その話」

「まあまあ、ですかね」

「まあまあか。長いとほら、ヤマザキ集中力保たないから。歳だから。しかもすぐ飽きるから。できるだけ手短にしてよ」

「はい。努力はしてみます」

「しょうがねーな。ヒカルちゃんがそういうんだったら、しょうがねーよな。な、ツムラ」

「あ、はい。しようがないですね。ヒカルさんがそういうのでしたらしようがないです」と、ツムラ。

「じゃあさ、話してみてよ。ちゃんと聞くからさ」

「やったー。思い切ってここまできてよかったです!」

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