5:ゴブリン討伐隊への参戦 1/2

「それじゃぁ、ケイ、私達は先に出るよ。帰還予定は二日後だが、状況次第では三日か四日経つこともある。仮に明後日帰らなかったとしてもあまり心配しないで欲しい」

「はい。わかりました。その間に俺もレベル上げ頑張りますから。二人とも、気をつけて」

「……ケイも気をつけて。危ないところに行ったらダメ。仲間が見つからなかったら、家でおとなしくしてればいい」

「ハハ。俺としてはそうならないことを祈ってるよ」

「うむ。では行こうか、キア」

「うん」

「行ってらっしゃい。怪我しないようにね」


 ティティスとキアが急な階段を上っていくのを見送ってから、慧介は一度家の中へと戻った。


 二人は今日から二泊三日の行軍で遺跡に魔導具マジック・アイテムを探しに行く。


 グラウス草原の先、ゴーム大森林の奥地には三つの古代遺跡が点在しており、そのうちの一つ、”風の遺跡ヴルガ”がここ最近二人が赴いている猟場だったのである。


 慧介が譲り受けた魔剣グアダーナもそこから二人が持ち帰ったものだ。


 慧介は自分の装備をもう一度チェックし、玄関にしっかり施錠したのを確認してから冒険者ギルドへ向かった。


 ホーソーン島外縁を走る環状道路を歩きながら今後のことを考える。


 昨日は運良くフランジールという〈シールダー〉と知り合いになり、一日でかなりの敬虔値を稼ぐことができた。

 しかし、あんなおいしいクエストはそうそう転がっていないだろう。

 昨夜キアとティティスにその話をしたときも、ケイはとても運がいいと評されたものである。


(う~ん……。二、三ヶ月限定のパーティーとかあるもんなのかな)


 目下のところの心配は仲間が順当に見つかるかどうかだった。

 出がけにキアにも言われたが、仲間が一人も見つからないという可能性は大いにあり得る。

 慧介が考えていた以上に、〈シールダー〉というものは必要とされていないらしいのだ。


(一日限りとかの超短期パーティーのほうが募集は多いけど、毎日毎日加入できるパーティー探すのはしんどいよなぁ……。かといって長期で組むようなパーティーに入っちゃうと、キア達と一緒にダンジョン行けるようになったときに面倒だし。俺のレベルが15になるまで、なんて都合のいい条件でパーティーに入れてくれるような人、そうそういないだろうなぁ……)


 悩みながらも足は自然と進み、いつの間にやらギルドにたどり着いている。

 今日も朝早くから多くの冒険者で賑わっていた。


(さて、なんかいい募集はないかな……)


 慧介は人混みをかき分けるようにして進み、仲間を募集する掲示板の前に立った。


 見ているのは昨日と同じで、一日、あるいはクエスト一回限りの臨時パーティーの募集コーナーである。

 こういう即席パーティーを組んだ結果、馬が合って本格的にパーティーを組むことになる、という成り行きが初心者パーティーにはけっこう多い。最初から長期で付き合う仲間を探そうとしてもなかなか見つかるものではない。


(う~~ん……やっぱり募集してるのは人気のある職ばっかり――――んっ!?)


 上から順に目を通していると、ある貼り紙が視界に飛び込んできて慧介は我が目を疑った。

 掲示板の一角に、〈シールダー〉を募集するという貼り紙が確かにあったのだ。


「――ま、まじかっ!?」


 慧介は慌ててひったくるようにその紙を取った。

 何度も確認してみるが、間違いなく〈シールダー〉を募集している。しかも”急募”と書いてある。


 募集要件は、


職業クラスが〈シールダー〉であること。(※〈ナイト〉でも一応可。要相談)

・レベルが最低でも5あること。(※〈ナイト〉の場合は最低でも7以上)

・最低限【挑発トーント】を習得しており、一定時間敵を引きつけることができる人


 となっている。


 募集しているのは四人組のパーティーで、〈ファイター〉と〈メイジ〉が二人ずつ。平均レベルは7程度で慧介より高いがそんなに離れているわけでもない。

 ちなみにクエスト内容はゴブリン討伐である。


(おぉぉぉぉぉっ! もしかして俺ってめっちゃラッキー!? これは早速行かねば!)


 慧介は緊張しつつも喜び勇んで四人組パーティーを探した。

 急がなければ折角の仕事を〈ナイト〉に持って行かれるかもしれない。


 掲示板に新しいクエストの掲示を貼っていたギルド職員に尋ねてみると、あそこにいるのがそうだよと居場所を教えてくれた。


 高鳴る胸を抑えながら歩み寄る。


 テーブル席に座って水か何かを飲んでいる二人の若者がいた。

 年の頃は慧介と同じくらい、少年と言っていいのか、それとも青年と呼ぶべきなのか迷う年頃である。


 一人は少しくすんだ色の赤毛をした凜々しい顔立ちの男。もう一人は柔らかな金髪がサラリと流れる優しげな瞳の男。その装備から二人とも〈ファイター〉であると思われた。ちなみにどちらも文句なしのイケメンである。


 赤毛のほうは少し憮然とした表情で何やら愚痴を言っているらしく、金髪のほうが苦笑しつつもそれをなだめているように見えた。


(お~なんかすごいイケメンだなぁ。こういうときになんとなく気後れしちゃうのってなんなんだろな。なんか緊張してきた……。いやいや、んなこと言ってる場合じゃない。早速声を掛けねば。えーっと、まずは挨拶から言ったほうがいいかな……)


 慧介が散々脳内会議を繰り返したのち、「あの~」となんとも控えめな声がけをしたのとほぼ同時、金髪の優男が慧介の姿を認めて突然立ち上がった。


「あっ! もしかして、君! 募集に来てくれた人!? いや~助かるよ! 僕はマルセイエフ。よろしくね! 君のクラスは〈ナイト〉かな? それとも〈シールダー〉? 僕らとしては〈シールダー〉だととても嬉しいんだけど!」

「えっ、ちょっ、あ、あの――」


 突然ずかずかと近づいて慧介の手を取りぶんぶん握手を交わすマルセイエフの勢いに押されて、慧介はしどろもどろになる。


 するとその様子を横で見ていた赤毛がゆっくりと腰を上げ、二人の間に手を差し入れてやんわり引き離してくれた。


「……おいおい、マルス。お前いきなりテンション高過ぎだって。早速引かれてんじゃねぇか」

「あぁ、ごめん! もうあまり時間がなさそうだったから嬉しくてつい……。ほんとにごめん。すまなかったね」

「あぁ、いえ、いいんです。ちょっとびっくりしただけですから。ハハ……」

「仲間が驚かせて悪かったな。俺はアレックスってんだ。で、お前は俺らの募集に来てくれたってことでいいのか?」

「は、はい。俺は赤司慧介です。クラスは〈シールダー〉で、レベルは5。【トーント】も覚えてます」

「おぉ、まじか! 助かったぜ! なにせもうほとんど時間がなかったからよ。……えっと? アカ……なんだっけ? 変わった名前だよな? どこの出身なんだ?」

「え……あぁ、えぇと、すごい遠いところで、多分ご存じないんじゃないかと……。名前はケイとでも呼んでもらえれば。みんなそう呼びますから」

「オーケー、ケイ。そんじゃま、ひとまずよろしくな!」

「はい。よろしくお願いします」

「やったね! それじゃパーティー結成ってことでいいんだね!」

「あぁ? おいおい、急ぎすぎだってマルス。まだこっちの説明が終わってねぇだろ? ちゃんと役割を確かめておかないと、後でやっぱり無理とか言われても困るだろうが」

「あぁ、そうか! 忘れてたよ」

「ったくよぉ……。お前は見た目のんびりしてるくせにせっかちなんだよな」

「ハハハ。ごめん、アレク」

「そんじゃ、ケイ。とりあえずそこに座ってくれ。詳しい話をしようぜ」

「はい」


 慧介が席につくのを待って、まず互いのギルド証を提示、確認を済ませる。


 アレックスとマルセイエフが言うには、慧介には仲間の〈メイジ〉二人の護衛を中心にやって欲しいということだった。


 アレックスとマルセイエフが取りこぼした敵を〈メイジ〉に近づけさせないようにし、魔法詠唱中無防備になる〈メイジ〉に向けられた攻撃を体を張ってでも阻止すること。それが慧介に与えられる役割である。


「まぁ、とりあえず今日行くクエストはゴブリン討伐にもう決まってんだよ。奴らはたいして攻撃力が高いわけじゃないし、〈シールダー〉のお前なら多少は直で受け止めても大丈夫だろ? それに、俺らだって敵の大群をお前んとこに素通りさせて任せるような馬鹿はしねぇからよ」

「えぇ、多分大丈夫だと思います。ゴブリンとは戦ったことないんではっきりとはわかりませんけど」

「あっ? まじで?」


 驚いたアレックスに質問されて、慧介はこれまでに自分が相対してきた魔物と習得しているスキルについて話した。

 それを聞いたアレックスはほっと胸をなで下ろす。


「――そっかそっか。コボルトを一人で倒したことあるってんなら、まぁ大丈夫だろ。ゴブリンとはどっこいどっこいだからな。むしろ【ソリッド・スタンス】をもう覚えてるってのは大したもんだぜ」

「いや、そんなことは……」


 慧介は感心したような顔のアレックスに曖昧な笑みを返した。

【ソリッド・スタンス】は金で買ったスキル、しかも支払いはキアとティティス持ちだからだ。


「よし! そんじゃ、こっちとしてはパーティー組むのに何も問題はねぇ。で、どうだ、ケイ? 俺らと組んでゴブリン討伐に参加するつもりはあるか?」

「はい。もちろんです!」

「よし! それじゃパーティー結成だ! 歓迎するぜ、ケイ! 今日はよろしくな!」

「よろしく、ケイ!」

「こちらこそ、よろしくお願いします! アレックスさん、マルセイエフさん」

「あぁ、アレクでいいぜ。つーか年も大して変わんねぇしよ、こっからは堅苦しいのはなしにしとこうぜ」

「そうだよ! 僕らはもうパーティーなんだからさ。僕のこともマルスって呼んで欲しいな!」

「……そっか。わかったよ。それじゃ今日はよろしくな! アレク、マルス!」


 慧介達三人はテーブル越しに固い握手を交わした。

 これにてめでたくパーティー結成と相成ったわけである。


(良さそうな人達でよかった……。俺ってほんとに強運なのかな)


 慧介は今日も無事に仕事にありつけたことに内心浮かれていたのだが、アレックスがちょっと気になることを言い出した。

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