ユーレイとUFO・発覚の章
「ごちそうさまでした!」
弁当は藍の野菜炒めも含めて綺麗になくなり、一同は近くの自動販売機でジュースを買って一息いれることにした。
佑真とあきら、ルシールはコーラを飲み、藍は冷たいお茶、恵梨香はあまり見たことのない、よくわからないがやたらとドロリとしていて甘そうなミックスジュースを飲んでいる。
「さて、ここからが本番だよみんな!」
恵梨香はミックスジュースを飲みながらびしりと空を指差す。
その場にいる全員が続けて夜空を見る。
「私たちの今日の目的!UFOを見つけること!何か怪しい光や動き方をするもの、逆に不自然に暗くなっている場所とかにも気を付けて空を調べてね!」
「そんな場所あるんスか!」
「あったら、いいなって思う!なんたってUFOだもん、簡単には見つからないテクノロジーとかあるかもしれないし!」
食事と飲み物ですっかり元気を取り戻したのか、恵梨香の目の輝きは最高潮に達していた。
佑真はコーラを飲みながら夜空に光る星に適当に目星をつけて観察してみる。
星が降ってきそうな夜空、とはまさにこのことだろうと感じた。
空気が澄み切っているからか、多少は空に近いからなのか、いつもより星が綺麗に見える。
「恵梨香さん、UFOを見つけるコツみたいなのってあったりするのかしら?」
「コツ?そうだなあ……」
藍の疑問に恵梨香がうーむと唸りながら空を見上げる。
そのまま恵梨香はぶつぶつと独り言を呟き始める。
「チャネリング……は、そうそう簡単にできるものじゃないし、呪文……これはちょっと私の考えでは……もしくはやっぱり道具……んん、でも大がかりなものは今日は用意できなかったし、それ以外に今日できる見つけるコツ……」
「あ、ご、ごめんなさい恵梨香、自分で探してみることにするわ」
藍は困惑したようにそう言って話題を打ち切った。
一方であきらは反対側でルシールと共に空を見ていた。
「ルシール、UFOってどういう風に現れるもんなんスかねー」
「んー、拙者よくわからないでござるけどー、何もないところからピューって急に現れるイメージでござるかなー」
「ワープってやつッスか……やっぱ速いんッスかね、UFOって。走って追いつけるもんじゃないんスかね」
「そうでござるな……いや、でもきっと忍者なら……」
とりとめのない会話を交わしながら、空を眺める二人。
その時、あきらが何かに気付いた。
「あっ!!」
「ど、どうしたの!?UFO出た!?」
恵梨香があきらの声に慌ててそちらのほうへ向かい空を見上げる。
あきらは空ではなく、山の下の方を指差した。
「いやほら、あんなとこに川があるッスよ!あっちの方今度走ってみようかなー!」
「……そ、そっか……」
恵梨香は複雑そうな表情であきらに返した。
そんな会話をしている頃、佑真とレイコはまた別の方向を観察する。
レイコは空高く飛び上がり、遠くまで見渡しては佑真の元に戻ってくる。
そんな折、佑真はレイコに話しかける。
「なあレイコ、お前はUFOっていると思うか?」
「だから言ったじゃないですか、美少女宇宙人は鉄板ネタですよ?」
「そういうんじゃなくてさ」
佑真は頭をさすって、レイコにもう一度聞く。
「……まあ、いてもおかしくないんじゃないですか?私だって幽霊ですし。UFOとか宇宙人とかあっても全然おかしくないと思いますよ」
「そうか……」
「どうしたんですか?」
「……」
佑真はやたらと恥ずかしそうに頭をさする。
「言っても笑わないか?」
「えぇーずるいですよその言い方、気になりますし、うっかり笑っちゃったら怒られるじゃないですかー」
「……」
「冗談ですよぉ、笑いませんから言ってください、ほらほら」
拗ねる佑真をあやすように、レイコはにやにやとしながら言う。
もうすでに笑っているじゃないか、と心の中でツッコみつつも佑真はそのまま言うことにした。
「……例の絵本な。宇宙人は帰っちゃうんだよ。おつかいに来ただけだったけど友達が出来てさ、でもそれでも帰るんだ。俺はそれがすごく寂しかった記憶があるんだ」
「……」
「なんだろうな、だからさ……もし宇宙人に会えても結局帰っちまうんじゃないかって、すごく短い付き合いになっちまうんじゃないかって、なんか、そう考えたら。もし本物がいたとして、会うのが怖いっていうか……」
「……むふっ」
「やっぱり笑ったな!!!」
思わずふきだしたレイコに佑真が顔を真っ赤にする。
レイコは心底楽しそうな表情で、必死に笑いをこらえる。
その表情はどこか優しく、いつものレイコとは違う顔であった。
「ご、ごめんなさい佑真さん、違うんですよ。なんていうか、その……すごく、佑真さん……ふふっ、ごめんなさい、うまく言えないや……」
「ああくそ、やっぱり言わなければよかった……」
「佑真さん佑真さん、その、真面目に、真面目におかえししますから……」
レイコはふわりと佑真の近くに寄り添う。
佑真をなでるように、レイコは手を佑真の頭にやる。
「……あの絵本はですね。必ずまた会える、という終わり方をするんですよ」
レイコは佑真に、優しくそう囁く。
ゆっくりと、なだめるように。
「例え宇宙に帰っても、必ずまた会いにくるから。永遠の別れではないんだから。佑真さんはうろ覚えなのかもしれないけど、そう言って彼らは笑顔で別れるんですよ」
「……そう、か」
「そうです。だから佑真さん。心配ないんです。別れる時が来ても、必ずまた会えるんです」
「……」
諭すようにそう語り掛けるレイコに佑真は安らぎを覚えた。
しかし、ふと我に返った佑真は首を横に振ってレイコから離れた。
佑真は所在無さげに頭をさすり、上手く言葉にできない感情に翻弄されていた。
「なんでお前に慰められなきゃ……いや……ああもう……っ」
「もう佑真さんったらぁ、意外とかわいいところあるんですねぇうふふ」
「うるさい!」
佑真は照れ隠しに星をきょろきょろと落ち着きなく眺めていった。
レイコはその様子を見て、おかしそうにくすりと微笑んだ。
「ユーマ殿、なんかさっきから一人でじたばたしてるようにみえるでござるな」
「あー、うーん、そうかも」
レイコが見える恵梨香にも、会話の内容はよく聞き取れず、ただ何かいつものように翻弄されているのだろうと考えた。
その隣で、藍が空を写真に撮っていた。
「あれ、藍ちゃん、写真撮ってるの?」
「ええ。ほら、いったでしょ?活動をちゃんとしているっていう証拠が必要なのよ」
「あ、そうだったね……私も撮っておこうかな……あっ!」
恵梨香は携帯を取り出そうとして、うっかり携帯を取り落としてしまった。
それはちょうどルシールの足元へ滑っていく。
「もう、恵梨香殿、気を付けないとだめでござるよ?下に落ちなかったからよかったものの……」
「え、えへへ、ごめんね」
ルシールは恵梨香の携帯を拾い、何気なくそれを見る。
そして、それを見た時、ルシールの目の色が変わった。
「ぴゃぎゃああぁああぁああぁああッ!!!?」
絹を裂くような、というには少々間抜けな、そんな悲鳴があたりに響き渡った。
佑真とレイコは慌てて声の元へ向かう。
そこには心配そうに見守る恵梨香、藍に、一足先に駆け付けたあきら、そして腰を抜かしたルシールがそこにいた。
恵梨香は携帯を持ちながらうろたえている。
「なんだなんだ、いったいどうした?大丈夫か!」
「あ、あ、う、ううああ……!」
「そ、それが……私の携帯を見て急に……」
「ユーマぁ!!助けてぇーっ!!」
ルシールは佑真にぎゅっと抱き着いてくる。
彼女の柔らかい体と金色の髪がふわりと佑真に密着する。
恵梨香と藍はその様子を見て、一瞬だけびくりと反応した。
抱き着かれた佑真はルシールをなだめながらそっと尋ねた。
「どうしたんだルシールさん?」
「そ、そ、そ、え、えり、恵梨香の、け、携帯、しゃ、写真……!」
「写真?」
ルシールは半泣きになりながらも恵梨香の携帯を必死に指差す。
指差した先の携帯の裏側には、先日撮った全員でプリシールが貼られていた。
「し、し、心霊写真んんんッ!!!」
「えっ」
そのプリントシールに写っているのは恵梨香、藍、あきら。
そう、そしてレイコである。
「幽霊が、幽霊が写ってるー!!!」
「ちょ、ちょっと落ち着いてルシールさん!」
しかし、その写真はレイコが見える者以外にはただのプリシールでしかなく、心霊写真に見えるようなものではなかったはずだ。
その写真を見た栄一の反応から、それは実証済みであった。
「き、気のせいじゃないかな?ただのプリントシールに見えるけど」
「どうみてもはっきり幽霊が写ってるじゃない!」
「え、えーっと……」
佑真は何を言ったものか、非常に困惑した。
確かに佑真にも、この写真の幽霊がしっかり見えてしまっているのだから。
その間に、レイコがプリントシールを眺めてひとりぼやく。
「でもいくら幽霊だからってこんなにかわいく映ってる私にいくらなんでも怖がりすぎじゃあないですかねぇ」
「えっ」
「へっ?」
ルシールのその瞳は、間違いなくレイコを捉えていた。
一瞬の静寂の後、ルシールの恐怖の叫び声が山の一帯に響いた。
その後しばらく、取り乱したルシールをなだめるのに時間を費やすことになったのは言うまでもない。
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「つ、つまり、みんな見えてたわけ!?ワタシだけ見えてなかったわけ!?」
「ま、まあ、そういうことになるかな……その、騙していたわけじゃなかったんだけど、ごめん……」
「……う、い、いいわよ、別に、誰が悪いとかじゃ、ないわけだし……」
落ち着いたルシールは、なんとかレイコが視界に入っても取り乱さない程度には平静を保っていた。
それでもルシールは非常に身をこわばらせながらレイコをちらちらと見ていた。
レイコは少しだけ寂しげにルシールから距離を取る。
「えっと……ごめんねルシールちゃん、でも、レイコちゃんは決して悪い子じゃないんだよ……?」
「恵梨香、幽霊を無理矢理勧めたりしないって言ったわよね……!?」
「あ、あうう……ごめん……」
「ていうか、ルシールなんかキャラ変わってないッスか?」
「あきらさん、今言うことじゃないでしょ」
あきらの無邪気な質問に藍がツッコミをいれる。
ルシールは何度か深呼吸して、恵梨香に問いただす。
「……その、恵梨香……あの幽霊、本当に怖くない?」
「全然怖くないし、優しいよ」
「呪ってきたりしない?」
「そんなことしてるの見たことないよ」
ルシールはむむむ、とレイコを睨む。
そして再び深呼吸をして、覚悟を決める。
「は、話してみるわ、アレと……何かあったらユーマ、助けてね!!」
「お、おう……」
おっかなびっくり、といった様子で腰が引けながらもレイコの元へとルシールは近づいていく。
レイコもやや緊張しながら、向こうから接触してくるのを待った。
二人が対面してからもしばらくの間、沈黙は続くが、とうとうルシールが口を開いた。
「……そ、その、は、はじめましてレイコ」
「ええと、はじめまして」
「ひいっ!!……こ、こほん……あ、あなたは……悪い幽霊じゃ、ない、わけ?」
「……その、何をもって悪いと定義するのかはわかりませんが……少なくとも私は……」
レイコはその先の言葉が出ず、黙ってしまう。
再び二人の間を沈黙が支配する。
「……こいつは、悪い幽霊じゃない。俺が保証するよ」
「ユーマ……」
「佑真さん……」
佑真は、二人の間に入ってレイコのフォローをする。
いつかの約束を、すれ違っている二人を、仲良くさせるために。
佑真は気付けば、自然と動いていた。
「確かにこいつは幽霊だし、わがままだし、変だし、たびたびセクハラするし、たまに暴走するし、とんでもないやつだけど……でも、俺は知ってる。いくらこいつが否定しても俺は言える」
佑真はレイコの無言の抗議を無視して、一息ついて話を続ける。
「……それでも、こいつはいつも、誰かの為になろうとしているんだ」
「……!」
レイコは、ただその場にうなだれるようにふわりと降りる。
それが、まだ長いとは言えない期間の中で、佑真がレイコと共に過ごして抱いた、嘘偽りない印象だった。
「ルシールさん、すぐには無理かもしれないけどさ……少しずつでも、こいつと仲良くしていってやれないかな?」
「……」
ルシールは怒ったような顔をして、レイコの事を睨んでいる。
逆効果だっただろうか、と佑真が後悔したときだった。
「……ユーマがそこまで言うなら、ワタシ信じるわ」
「……ルシールさん……」
「まだちょっと怖いけど……レイコ、あなたと普通に接することが出来るように、ワタシ努力してみるわ」
「……よかった」
恵梨香が遠巻きにそうつぶやく。
レイコは嬉しそうにルシールの元へと、すいっと近寄って友好の意を示そうとした。
しかし、その時ルシールの目がキッと鋭くなる。
「でも、レイコ!ワタシ、あなたにユーマは渡さないわよ!!」
「へっ!?」
「ユーマにハーレムを作るともちかけておいて、自分が正妻のポジションに収まろうとしているんでしょう!!」
「えっ、ふえっ!?ち、違いますよ!私は私の為に、佑真さんと一緒にですね……!」
佑真は突然の展開にただただあっけにとられるしかなかった。
一方でレイコはルシールの指摘にうろたえながら否定する。
それでもルシールの勢いは止まらなかった。
「そんなの口実に決まってるわ!!……レイコ、ユーマの正妻の座は、ワタシがいただくわ!今日から、あなたとワタシはライバルよ!!」
ルシールはレイコにぐっと近づく。
それは歴史的な宣戦布告であった。
「恵梨香!あなたもうかうかしていたら、レイコにユーマを奪われちゃうわよ!」
「え、ええっ!?」
「一時休戦よ恵梨香!対レイコへの作戦を練りましょう!!」
突然話を振られた恵梨香は顔を真っ赤にして困惑した。
ルシールはそのまま恵梨香の手を引いていってしまう。
そしてその最中、ルシールは心の中で様々な思いを巡らせた。
(いつからこんなに本気になっちゃったのかしら……!しかもよりによって最大のライバルが幽霊だなんて……どんな運命のめぐりあわせなのよ!ワタシの人生幽霊に振り回されっぱなしじゃない!!幽霊めーっ!!!)
そんな考えを知る由もない佑真とレイコは、ただその場に取り残される形となった。
「……な、なんでこうなるんですか!私はルシールさんと健全に仲良くなりたかっただけなんですけど!?」
「お、俺が知るかよ!」
「……ま、よかったんじゃない?ある意味ではしっかり和解はできたじゃない」
佑真の元に、にこりと微笑んだ藍がやってくる。
それは、威圧的な方の笑顔を携えた藍であった。
「佑真くんは、本当にハーレムを作るつもりなのね?」
「い、いや、俺はそんなつもりはだな……!」
「へえ、そう」
藍は佑真に対して威圧的な微笑みを崩さない。
一方その横で、あきらがレイコに駆け寄ってきた。
「姉御!だ、大丈夫ッスよ!ウチは姉御の味方ッス!」
「あきらさん……!」
あきらは少しだけもじもじと恥ずかしそうに佑真を見ながら、レイコに向かって呟いた。
「その、う、ウチは、その、ゆ、佑真は……まあ、その、なんなんで……姉御が正妻になれるように応援するッスから!!」
「ち、違いますってーっ!!」
レイコはそう言ってぴゅいっと空へと飛んでいってしまった。
佑真がずるいとレイコに向かって言ったが、レイコはそれを無視した。
そして満点の星空の下へとレイコはひとり、ただひとりでただよう。
「……ふふふ」
レイコは自重するように笑うと、少しだけ寂しそうにひとり呟いた。
「……私には、そんな資格はないんですよ」
……まだもう少しだけ、UFO探しの夜は続く。
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