ユーレイとUFO・お弁当の章

 UFOを探し、その活動で校内宣伝活動を行うことにしたオカルト研究会。

 オカルト研究会である佑真、恵梨香、藍。研究会ではないもののついてくることになったあきら、ルシール。そしてレイコを加えた六名はハイキングコースを登っていた。


「一番乗りーッス!」

「あきらさん!一人で先走らないの!」


 山道を軽々と超えるあきらを、藍が止めようと声をかける。

 そのやや後ろから佑真、恵梨香、ルシール、レイコが続く。

 ルシールは軽々と登っていくが、佑真と恵梨香はやや疲労していた。


「ユーマ殿?恵梨香殿?もう疲れたでござるか?」

「い、いや……登り慣れてないと結構きついってこれ……」

「ひー……ひー……」

「だ、大丈夫か恵梨香さん……?」

「だ、だいじょぉぶ……宇宙人に会うんだからぁ……」


 くりんとした目をぐるぐると回している恵梨香に、ルシールが水筒を差し出す。

 恵梨香はきょとんとしてルシールを見た。


「あんまり無理しちゃだめよ、恵梨香?」

「あ、ありがとう……えへへ」


 恵梨香とルシールは笑いあって手を取り合った。

 その様子を佑真は微笑ましく見つめる。


「まったく佑真さんってば意外と貧弱なんですから!私なんてほら!この通りまだピンピンしてますよ!」

「……お前、疲れとかってあるの?」

「ないことはないですけど、飛んでるくらいでは疲れないですね」

「こいつ……」


 レイコを苦々しく見つめながら、佑真もなんとか歩き続ける。

 すっかりあたりは暗くなり、懐中電灯で足元を照らしはじめる。

 そして。あきらを何とか制した藍が先導し、度々点呼を取りながら道を進んでいった。


「にしても、UFOって本当に出るんスかね?」

「そうねえ……これで出なかったら、山を登るだけになってしまうわね」


 あきらの疑問に藍が冗談めかして言う。

 それを聞いて慌てたのは恵梨香だ。


「そ、そんなぁ!ここまで来てUFO見つけられなかったら困るよー……!」

「山登るだけでもいいじゃないッスか!頂上の眺めは結構気持ちいいッスよ?」

「フォローになってなくないですかそれ?」

「姉御にツッコまれた……!」


 妙に嬉しそうなあきらはもちろん、恵梨香もそのやりとりに思わず笑みをこぼす。

 そのようなやりとりを経て、何度目かの休憩を取りつつもなんとかゴール地点までたどり着く。

 佑真、恵梨香、藍の三人はへとへとになっていた。


「や、やっぱり……簡単なコースとはいえ、山は結構きついのね……」

「流石に……結構来るな……」


 一方で恵梨香はといえば。


「とうとう着いたね!!UFO!UFO見えるかな!UFO!!」


 疲れが一周回ったのか、それともUFOへの期待からなのか、頂上に着いた途端に一気にテンションが高くなっていた。

 ルシールがそんな恵梨香を一度抑える。


「まあまあ恵梨香殿、いざという時の為にしっかり休んでおいたほうがいいでござるよ」

「う、うん……そうだよね……」

「ウチも流石に腹減ったッスねー」


 あきらが座り込んで自分のお腹をおさえる。


「それじゃあ、まずは食事にしましょう。みんなお弁当はちゃんと持ってきてあるわよね?」

「待ってましたッス!」


 野外の休憩スペースに備え付けられた木製のテーブルに、藍がテーブルクロスを敷く。

 そして、各々が弁当を取り出していく。


「いただきます!」


 そして食事がはじまると、まずはお互いの弁当を比べ始める。


「恵梨香殿の弁当、かわいいでござるね!」

「あ、ありがとう……!といっても、私が作ったんじゃなくてお母さんが作ってくれたんだけど……」


 恵梨香の弁当は半円型のグラタンを中心に、野菜などで飾りつけされた円盤UFOの形を象った弁当だ。

 一方でルシールの弁当はハムやチーズ、ポテトやアボカドなどが挟んであるサンドイッチだった。


「あきらさん……そのお弁当、お肉ばっかりじゃない」

「そうッスよ?肉食べないと元気でないッスよー!」


 藍の弁当は野菜炒めと生姜焼き、お米がバランスよく詰められている。

 一方であきらの弁当はからあげと米しか入っていなかった。


「佑真くんは、何を持ってきたの?」

「俺はこれ」


 佑真は、テーブルの上にカップラーメンをどんと置いた。

 夜の山の静けさが一帯を支配した。

 レイコが頭を抱える。


「……佑真くん……あなた普段からこんな食生活をしているんじゃないでしょうね?」

「まさかして、カップ麺しか食べられないくらい生活に困ってるんッスか!?」

「ええ!?そうなの佑真くん!?大丈夫!?」

「ユーマ殿、料理できないなら拙者が作りにいってあげるでござるよ?」


 各々が心配そうに佑真に詰め寄る。

 しかし佑真は、首を横に振る。


「勘違いしないでくれ。俺は一応自炊だってしているし、別に金に困ってるわけでもない。俺はただ、山の上でラーメンが食いたいだけだ!!」


 佑真は力強くはっきりと言い切った。

 何を隠そう、実は佑真は大のラーメン好きなのであった。

 実はバイト先もラーメン屋である。


「……佑真さん、本当にしょっちゅうラーメン食べてるんですよね……」


 レイコが呆れたようにつぶやく。


「……はあ、なるほどね。でもまあいいわ。こんなこともあろうかと……!」


 藍はタッパーを取り出し、テーブルの中心にドンと置いた。

 それを開けると中には大量の野菜炒めが入っている。


「あきらさんと佑真くんは特に食べること。いいわね」


 いつもの威圧的な笑顔をあきらと佑真に向けてそう言った。

 二人は従うしかなく、野菜炒めに手を付ける。


「あ、でも美味しいッスよこれ……」

「ラーメンの上に乗せても美味そうだな……藍さんが作ったのか?」

「一応ね。といっても私も簡単な料理しか作れないんだけど……本当はサラダのほうが食べやすいかと思ったんだけど痛むとよくないし、軽く炒めただけだけどこれならシェアできるかなって思って」


 藍は少しだけ恥ずかしそうにそう言った。

 その様子に恵梨香は素直に感心する。


「藍さんそんなこと考えてるんだあ、すごいなあ」

「無駄になる可能性もあったから、本当にどうしようか悩んだんだけどね」

「でもまあ、ありがたくいただきます。ありがとう藍さん」


 佑真も礼を言って、食事に手を付ける。

 うむ、やはり山の上で食べるラーメンとしてはこれがベストだったな、と一人心の中で思う。


「ユーマ殿っ、拙者のサンドイッチも手作りでござるよ、食べて食べて!」

「お、おう……ありがとうルシールさん」

「むむむ……」


 恵梨香がルシールに若干悔しそうな表情を向ける。

 レイコがそこにすっと現れ、恵梨香に耳打ちをする。

 途端に恵梨香は顔を真っ赤にしてうろたえはじめた。


「あ、あ、あ、あーんとかは無理だよぉ!!」

「どうしたでござるか恵梨香殿は急に」

「あー……」


 この中ではレイコの姿が見えないのはルシールだけであるが、そのルシールは幽霊を苦手としている。

 そもそもどういう条件でレイコが見えるようになるのか、その理由もよくわかっていない。

 佑真はレイコを手招きして、こっそりと話しかける。


「レイコ、お前あんまり変な事吹き込むんじゃない」

「てへぺろっ」


 レイコの反応にいらっとする佑真。

 すると、あきらが佑真にこっそりと尋ねた。


「……佑真佑真、姉御って、ご飯食べないんッスか?」

「え?ああ……そうだな、食べてるとこ見たことないし、食べないんじゃないか?」

「……そうなんスか……なんつーか、やっぱちょっとそれって寂しいんじゃないッスかね、姉御……」


 佑真はふとレイコを見る。

 レイコが食事の時間に悲しいそぶりをしたことは一度もないが、確かに彼女だって食事をしたい気持ちくらいはあるのかもしれない。

 今までそんなことを思いもしなかった佑真は、少しだけ自分を恥じた。


「……なんていうか、赤来さんも意外と気が付くよな。そんなこと思いもしなかったよ」

「いやあ、まあ、ウチはほら、姉御の事をリスペクトしてるッスから……ていうか、前から思ってたんッスけど赤来さんってなんか気持ち悪いからあきらでいいッスよあきらで」


 あきらは照れ顔から一転、不満そうな顔でそう言った。

 表情がころころと変わる少女である。


「……そうか?じゃあ、あきらさん」


 そういうとあきらはなおさら不満そうな顔で口を尖らせた。


「あーきーらーでー!」

「……じゃ、じゃあ、あきら」

「うッス!」


 あきらはようやく嬉しそうに破顔した。

 満足そうにからあげをばくりと頬張って


「あ、あれ?私がすごい恥ずかしかったことを平然と……!?」

「あきら……意外とやり手でござるな……!」


 それを見た恵梨香とルシールは、何故か妙な敗北感を覚えるのだった。

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