ユーレイとUFO
「UFOが出たんだよ!!!」
放課後の時刻、突然の恵梨香の発言に佑真と藍、そしてレイコも目を丸くする。
恵梨香はその童顔の原因であるくりんとした瞳をきらきらと輝かせながら熱く語りはじめた。
「あのね、UFOがね!このあたりにね!!現れたんだよ!!これはもう、オカルト研究会としては行くしかないんじゃないかな!!」
つまり、先日から
最近学校内で色々あったせいでなかなかオカルト研究会の活動ができていなかったため、恵梨香はとても張り切っていた。
「そうね……UFOを探すということは夜に出歩くことになるのかしら?」
「そう……なるかな?」
「なるんじゃないか?」
藍は生徒手帳を取り出すと、鋭い目で校則をチェックし始める。
その目は、見た人にクールな印象を与えるが、彼女が誰よりも他人を心配しているからこそ校則を守ろうとしていることをここにいる面々は知っていた。
しばらくページをぺらぺらとめくった後、藍は頷いた。
「うん、活動としてちゃんと届け出を出しておけばとりあえずは大丈夫みたい。ある程度活動の証拠の提示が必要になるけれど」
「証拠?」
「夜遊びしていたわけではなく、ちゃんと活動をしていたという証拠よ。写真とかでいいんじゃないかしら?……勿論私がいる以上は夜遊びなんてさせるつもりはないけれど」
もちろんするつもりはないとわかっていて、あえてくぎを刺しているのだろう。
もしくは藍流のジョークなのかもしれない。彼女のジョークはいまいち笑えないものが多いのだが。
「まあ、そうだな。オカルト研究会って言っておきながら今まで大した活動もできてなかったし。いいじゃないんか、UFO探し」
佑真も藍も乗り気であることが恵梨香は非常に嬉しかったらしく、その目をいつもよりもさらにきらきらと輝かせながら顔をほころばせていた。
「じゃあ、とりあえずUFOの発見を目標にして、類型のUFO目撃談との照合にUFOが現れてから起こった事件との関連……ねえねえもし宇宙人と会話出来たらどうする!?私はね、とりあえず友達になって、それで聞いてみたいことがたくさんあってね、地球にきた目的と今までの宇宙人、UFO騒動との関連。キャトルミューティレーションの真偽にも迫りたいし、あ、やっぱりナスカの地上絵は外せないよね?そのあたりの有名どころは絶対に抑えるとして……地球人の中にはすでに一定数の宇宙人が紛れ込んでるっていう説もあって、そのあたりのことも是非聞いてみたいし、それにね」
「あ、ああ、わかった。わかったよ恵梨香さん」
佑真は、前に恵梨香に対してうっかり幽霊についての知見を訪ねた時もこのくらいの熱量で帰ってきたことを思い出す。
始まりは幽霊の絵本からであったものの、そこから調べていくにつれ、宇宙人や未確認生物などにも興味を持っていったのだと言う。
いずれそれらの、現在は正体不明とされているもの達とすべて友人になるのが彼女の夢であるらしい。
「私は、そうね。宇宙人が本当にいたとしたら……誰かさんみたいに風紀を乱すつもりはないか、気になるかしらね?」
「おおっと、風紀を乱すものがいると、ほほうほほう。一体誰でしょうかねえ佑真さん」
「お前だよレイコ」
レイコはてへっと大袈裟な動きで誤魔化した。
その白く長い髪は大きく動いても乱れるどころか、ほとんど動くことはない。
彼女が一般の法則から外れた存在……幽霊であるということを、ふとした時に意識させるものであった。
「しかし宇宙人ですかぁー、私としてはほら、やっぱり美少女宇宙人ですよ。もう鉄板ですよ鉄板。宇宙人をハーレムに加えたら拍が付きますよ佑真さん!」
「いらねえよそんな拍」
「レイコちゃんいい着眼点だね!宇宙人にも人型からいわゆるグレイみたいなタイプ、タコ型宇宙人なんかはイメージとしてもメジャーなところだし、獣みたいなタイプとか、植物みたいなタイプがいる可能性もあるなんていう考えも」
「レイコさんのせいでまた恵梨香さんに火をつけてしまったわね?」
そう言って藍は非情に愉快そうに微笑む。
あまり大きく笑いはせず、口元を少しだけ隠す上品な笑い方だ。
「佑真くんは?宇宙人ってどんなイメージ?」
「俺……?んんー……」
佑真は少しだけ考える。
正直なところ、宇宙人についてなんて考えたこともなかった。
だがひとつだけ、ふと思いついたイメージがあった。
「昔何か……絵本で読んだ気もするな。宇宙人が……なんだったかな。地球におつかいしに来る話だったっけ……?」
「あ!それ私も読んだ!多分幽霊の絵本と作者同じ人だよそれ!」
恵梨香が嬉しそうに声を出した。
その時、レイコが一瞬だけ驚いたように声を出していたことに藍が気付いた。
「レイコさんも知っているの?その絵本」
「えっ!?あ、はい!私こう見えて読書家ですのでね!絵本も当然射程範囲ですよ!」
「本当に意外だけど、こいつ結構本読んでるんだよな……」
その証拠に、この間のウィンドウショッピングで買った本はまだ一月も経っていないにも関わらず、既に読み切ってしまったらしく曰く「二週目」に突入しているらしい。
今は恵梨香や藍にもたまに本を借りるが(あきらはほとんど本を持っていなかった)、それを持ち歩くはめになる佑真は若干複雑な心境であった。
「で、なんだっけ……ああ、宇宙人の絵本な。まあ内容はほとんど覚えてないんだけどな。なんせすごい小さいころに読んだっきりだし……」
「あの絵本も宇宙人の子がかわいくていいんだよー。私あの絵本も好きだなー」
「へえ……私は読んだことは多分ないけど、少し気になるわね」
佑真は思い出す。
非常に退屈していたあの時、絵本を読んでもらった時の事。
絵本の内容はほとんど覚えていなくても、なんとなくとても嬉しかったということは覚えている。
「あ!そうだ!!私ってばいいこと思いついちゃいましたよ!!」
佑真の感傷をレイコの声がぶち壊した。
レイコは満面の笑みで堂々と声をあげた。
「この活動の記録をまとめて、大々的に張り出してもらって、そうして入部希望者を募りましょうよ!」
「……」
レイコの発言に、三人は思わず沈黙した。
不穏な反応に困惑したように、レイコは三人の顔をきょろきょろと見る。
「……あ、あれ?だめでした?」
「い、いえ……なんというか……普通にいい考えで驚いているというか……」
「また変な事言い出すもんだと思ってたから……」
「佑真さんも藍さんもひどい!!」
レイコはわざとらしく、よよよと泣く真似をする。
「で、でも本当にいい考えだよレイコちゃん!すごいよ!」
「そうでしょう?やっぱり恵梨香さんは優しいですね……!」
「恵梨香さんもさっき絶句してたろ……」
佑真の指摘に恵梨香はしーっというジェスチャーをした。
「いいんですーっ、私を気遣ってくれる優しさが恵梨香さんにあるからいいんですー!」
「悪かったわ、ごめんなさい」
なおも愉快そうに微笑む藍は、一応の謝罪をする。
レイコはぷーいとそっぽを向くような態度をとった。
「まあ、何はともあれやることは決まったな。あとはいつ、何をやるか、だけど」
「今度の休みでいいんじゃない?予定が大丈夫なのであれば」
「私は大丈夫!ねえ、どうせならUFOがよく見えるように場所に行くのはどうかな!」
「それなら、近くにちょうどいいハイキングコースがあるはずよ」
その後の調整や持ち物の予定もスムーズに決まり、夜外出の申し込みは藍が担当することになった。
既に待ちきれないといった様子である恵梨香、あまり表には出さないが内心非常に楽しみにしている藍とその日は別れ、佑真とレイコは帰路についた。
夕暮れ時のその道すがら、佑真は家に帰ってラーメンでも食べようなどと考えながら歩く。
「……ねえ、佑真さん」
その時、レイコは不意に佑真に呟いた。
佑真は振り返りもせずに適当に返事をし、しかしレイコの声には耳を傾けた。
「なんか、なんの相談もなかったんですけど、私も行っていいんですかね?」
「はあ?」
レイコの突然の疑問に佑真が疑問符を浮かべる。
「……私、オカルト研究会どころか、学校の人間ですらないわけじゃないですか」
「今更何言ってんだよ」
「そ、それは、その、そうなんですけど……」
レイコはもじもじと妙な態度を繰り返している。
佑真は自分の頭を軽くさすってレイコに向き直る。
「どうしたんだよ?らしくもない」
「……そ、そうですよね。わかってます……」
レイコはしゅんと気落ちしたように目を伏せる。
佑真は再び頭を軽くさすり、歩き出す。
そしてややぶっきらぼうにレイコに向かって言った。
「……いいんじゃないのか?」
「そう、ですかね?」
「……俺もそうだけど、恵梨香さんや藍さん、あきらさんやルシールさんがみんな仲良くやれているのは、なんだかんだお前のおかげだろ?」
「……!」
レイコはふっと顔をあげた。
佑真は恥ずかしさを隠すようになおさら頭をさする。
頭をさするのは、佑真の癖であった。
「お前がいなきゃ、恵梨香さんも寂しがるだろ。っていうか、すでについてくる想定なんだよ」
「……」
「だから……その、何を気にしてるかしらねえけど、いいんじゃねえの。来ればさ」
「……えへへ」
レイコは嬉しそうに笑うと、佑真の周りを鬱陶しくふわふわと飛び回る。
「まあ、そこまで言われちゃ行かないわけにいかないですからね!私も絶対ついていきますよ!」
「おー?別に来なくてもいいんだぞー?」
「まったまたー、佑真さんが一番寂しいんでしょー!?」
「それはない」
そんな会話をし続けて、佑真とレイコは再び帰路につきはじめるのであった。
落ちかけている夕日が、レイコには何故かいつもよりもまぶしく感じた。
「……ありがとう、佑真さん」
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当日、佑真とレイコが共に帰った時と同じように夕暮れ時。
山のふもとで佑真とレイコを待っていたのは、恵梨香と藍と……そしてさらに、あきらとルシールがそこにいた。
「佑真!それに姉御……」
「こほん!」
あきらは藍の咳払いに慌てて取り繕う。
中性的な服装と髪型にやや不釣り合いの胸が誤魔化すための大きな動きに連動するように揺れた。
「……佑真!よッス!」
「……?」
ルシールは不思議そうな顔をするが、改めて佑真に丁寧にお辞儀をする。
「あ、あれ?なんで二人がここに……?」
「恵梨香さんが話して、連れてきちゃったみたいね……何のために研究会活動として申請したと……」
「だ、だって、みんなと一緒のほうが楽しいと思ったから……」
「今更追い返すわけにもいかないし……はあ……」
「藍は相変わらず頭が固いっスねー!」
頭を抱えた藍の方をあきらがぽんと叩いた。
どうやらまた恵梨香の後先考えない悪い癖が出たらしい。
「志島くんも誘ったんだけどどうしても来れないんだって……残念だねー」
「そ、そうか……」
この状況は絶対に栄一に恨まれるな。今度ラーメンでもおごってご機嫌をとろう、と佑真は思いつつ、あきらとルシールに向かい合う。
「赤来さんはともかく、ルシールさんは平気なのか?オカルト研究会の活動だけど……」
「……なんの話かわからないでござるけどぉ、宇宙人とは会ってみたいでござるよ!」
ルシールはわざとらしいござる口調で幽霊が苦手なことを徹底的に誤魔化してくる。
そしてぽっと顔を赤らめて、金色のツインテールをくるくるといじりながら佑真にそっとにじり寄ってきた。
「それに、ユーマが行くなら拙者も行こうかなーって……」
「いつのまに面白い関係になっているみたいね?佑真くん?」
藍がにこりと威圧的な笑顔を繰り出してくる。
何故自分が威圧されなければならないんだと思いながらも、佑真はにぎやかな状況に苦笑いを浮かべた。
「……ほら、変な事考えなくてもよかっただろ?」
「ふふ、本当ですね」
「え?なんの話?」
そっと言葉を交わす佑真とレイコに、恵梨香が不思議そうな顔をする。
佑真とレイコは二人でなんでもないと返した。
「それじゃあ、行きましょうかみんな。そこまできつい道ではないはずだけど、はぐれないようにね、疲れたらすぐ言うように、あと怪我には気を付けて、生き物や植物に下手に手を出したりしないように……」
「UFO見つけるぞー!」
「おー!!」
藍の長い忠告をぶった切った恵梨香の指揮に全員が声をあげる。
藍は、ちょっと!といいながらも楽しげに笑うのだった。
こうして、オカルト研究会+αのUFO捜索は始まった。
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