ユーレイと体育館
晴れて正式な研究会となったオカルト研究会。
そこで佑真、恵梨香、藍の三人は改めて集まり、今後の相談をすることになっていた。
「おい、おいおいおい佑真!」
「な、なんだよ……」
「いや、むしろ俺が何が言いたいのか、わかってるだろお前?」
詰め寄る栄一から佑真は目をそらす。
佑真としてはこの状況をなんとかしてごまかしたいと考えていたが、それはどう考えても無理だろうというものだ。
佑真の机に恵梨香と藍が集まっているこの状況では。
「いや、これはそのだな、オカルト研究会だからさ……」
「くそぉ……この裏切り者め……ッ!お前は味方だと思っていたのに!!」
「志島くんもオカルト研究会に入ってもいいんだよ!」
恵梨香の申し出に、栄一は少しだけ考えてから首を横に振る。
「……いや、女の子目当てとか、そんな不純な目的で入るっていうのは俺のプライドが許さん。俺はこいつとは違う」
「女の子目当てじゃねーからな!俺も!!」
その様子を見た藍はまたくすくすと笑う。
藍は先日の一件から、風紀委員としての厳しさはまだ残っているものの、前のような刺々しい態度はずいぶんと消えていた。
「……というか、なんで俺の机に集まるんだよ……三堂さんの机でいいんじゃないの……?」
「私の机って真ん中のほうだからみんなで集まるとごちゃってしちゃうし……」
確かに佑真の机のほうが、窓際の角なので誰かの邪魔にはなりにくい。
しかし他に行く場所もないとはいえ、やはり少し目立つ。
なにより一つ、佑真にとって頭を悩ませることがあった。
「いやあ佑真さん、ハーレム計画もなかなかに順調に進んでいますねぇ!」
そう、レイコがドヤ顔でやたらと絡んでくることである。
今の状態はレイコにとって非常に理想的らしかった。
レイコはハーレムを作るという夢を恵梨香や藍の前でも全く隠そうとしていない。
その度に藍に微笑まれているが本人はどこ吹く風である。
栄一の手前反応するわけにもいかない佑真は必死で別の話題を探した。
「……そういえば、あの、赤来さん?は、どうしてるんだろう」
「おお、早速別の女の子の話を!佑真さんもなかなかわかってきましたね!」
レイコの存在は無視して、佑真は藍に聞く。
先日知り合った赤来あきらも、今ではレイコが見える人間の一人である。
藍が言うには、あきらはオカルト研究会には入らないということだったらしいがそもそも佑真は学校で彼女を見たことがあまりなかった。
「……せっかくだから、会いに行ってみる?」
「……場所、知ってるのか?」
「ええ」
佑真には改めてレイコのことについて話しておきたい気持ちがあった。
恵梨香は、レイコが見える存在としてオカルト研究会に諦められない存在でもあるらしい。
部活として、正式な活動の為にも貴重な人材であると息巻いている。
「それじゃあ、会いに行きましょうか。今日も多分あそこにいるはずだし」
「あ、その……ちょっと待ってくれないか」
藍を呼び止めたのは栄一だ。
栄一を見ると、どこか申し訳なさそうな顔をしている。
不思議そうな顔で藍は栄一の言葉を待った。
「その……なんていうか、俺、藍さんのことよく知らないで佑真や恵梨香さんに適当な話しちまって……本当に、すまなかった!」
栄一が頭を下げた事に対して、藍は少し驚いた。
藍だけではなく、レイコや恵梨香も少し驚いていたが、佑真はなんとなくわかっていたような表情でその様を見守った。
「大丈夫、私も少し意地になっていた部分もあったし……あんまり気にしないで」
「そう言ってもらえると助かるよ。じゃあ、オカルト研究会頑張ってな」
栄一に見送られて教室を出る三人とレイコ。
途中の廊下で、藍は栄一の事を話題に出した。
「彼、律儀ね。私は何を言われていたかなんて知らなかったのに」
「そういうやつなんだよ。あいつ。あれで結構そういうとこ真面目でさ」
「志島くんとは中学から一緒だって言ってたよね」
「ああ、学校で始めて話しかけてくれたのがあいつでさ……」
佑真が話をしかけたところで、レイコが会話に混ざってくる。
「それより藍さん、いったいどこに向かっているんですか?あきらさんはどこにいるんですか?」
「え?ええ、体育館よ」
「どうしたのレイコちゃん?なんか不機嫌?」
恵梨香がレイコの微妙な違和感に感づいてそう尋ねる。
レイコは少しだけびくっとしたように見えたが、いつもの調子で答えてきた。
「私!気付いてしまったんですよ!」
「な、何がだよ」
「私、まだあきらさんにレイコチェックしてないんです!!」
「……レイコチェック?」
その不穏な単語に藍の目がきらりと光った。
流石、風紀を乱すものへの気配は敏感である。
レイコは一瞬たじろいだが、なおも話をつづけた。
「いいえ!これは私の義務です!使命です!私がやらねば誰がやる!!私は絶対に成し遂げて見せますよ!!!」
「レイコちゃんったら……」
恵梨香はその様子を苦笑しながら眺める。
佑真は呆れながらレイコに苦言を呈する。
「レイコ、なんだってお前はそういった方向にやたらと精力的なんだよ?」
「そりゃあ私は佑真さんとハーレムを作るためにここにいるんですから!佑真さんこそ目的を忘れてもらっては困りますよ!」
「俺はそれを許可した覚えは一度もないんだが!藍さん俺を睨まないで!!」
睨むというよりはただただ微笑んでいるだけの藍であるが、その笑顔が怖いというのは言うまでもないことである。
その横で恵梨香は顔を少しだけ俯かせて、こそりとつぶやいた。
「萩原くんのハーレムかあ……私も入れるのかなあ……」
「三堂さん何か言った?」
「うっ、ううん!なんにも言ってないよ!!」
慌てて取り繕う恵梨香に対して佑真は首をかしげた。
「まあとにかくですね!私としては!気になる女の子はがんがんチェックしてハーレム要因にしていきたいわけです!止めても無駄ですぜ藍パイセン!」
「だから、そのパイセンってなんなのよ?」
そうこうしているうちに体育館にたどり着き、藍が扉を開く。
そこでは多くの生徒が部活動に励んでいる。
目的であるあきらの居場所はすぐにわかった。
「っそぉーれいっ!!」
入ってすぐのバレーボールコートでジャージ姿のあきらが華麗にスマッシュを決めていた。
いきいきと動くその様は見た目の印象と違わず、体を動かすのが好きで仕方がないといった様子である。
「よーし休憩ッス……んあっ、恵梨香と藍と佑真!……と、幽れ……っ!」
藍は素早くあきらに詰め寄って威圧的に微笑んだ。
あきらは慌てて口を閉じる。
「……まあ、とはいえそのことで話があるのだけれど、少しいい?」
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「バレー部だったんだね、あきらちゃん」
「んにゃ、違うッスよ。ウチは部には入ってねーッス。今のは助っ人」
「助っ人?」
体育館の角に座り込み、一同は会話を交わす。
少々騒がしい体育館であれば多少周りに気を付けていれば話を聞かれることはない。
あきらは手をひらひらさせながら少し自慢げに話を進める。
「まぁ、アレッスよ、ウチってば結構運動部から頼られちゃってて、部員足りない時は助っ人するんスよ。だからまぁ、特定の部ってのには入ってないんスけど」
「だからオカルト研究会にも入らないっていうことか?」
「そーッス」
佑真の問いにあきらは頷く。
恵梨香はとても残念そうに床をいじくっているが、仕方がないといった様子であった。
「ほら、そもそもウチってオカルトあんまり得意じゃねーんスよね。今でも幽霊が本当に見えてるのちょっと信じられてないっていうか……」
「現実は受け入れねばなりませんよあきらさん!」
「やっべ、しゃべってるッス……!」
レイコの存在に慌てふためくあきら。
思えばこういう存在は意外と貴重な気もする。
「……ところでこの幽霊はなんでウチに近づいてきてるんスか?」
「大丈夫ですよ、ちょっとレイコチェックさせていただくだけですふひひひひ」
「ちょ、なんかこいつやばくないッスか!?」
「レイコさん、ちょっと」
藍がレイコを制止しようとするものの、幽霊であるレイコを止める術がない。
正確にはレイコは事後の説教は大人しく聞くのだが、その所業を改めようとはしないのだ。
「レイコちゃん!あんまりいたずらしちゃだめだよ!」
「藍さん、恵梨香さん。言ったでしょう……佑真さんの為なんです!!!」
「俺を巻き込むんじゃない!!」
「とにかく言われたくらいでやめるくらいならユーレイやってませんからね!大丈夫ですよあきらさん!ちょっとばかし体を調べさせていただくだけですから!!」
「ひいっ!来るなッス!!」
あきらは素早く立ち上がり、レイコから逃げ出す。
レイコはそれを追いかけていく。
運動部の人たちを躱しながら、軽快に体育館の扉を目指し走っていくあきら。
あきらもさすがに速いが、レイコはあらゆる障害物を無視するので流石に速い。
「ちょっとあきらさん!危ないからあんまり走らないで……!」
藍、それに佑真と恵梨香もそれを追いかけていくが、当然走らないために全く追いつけない。
「へへっ!幽霊なんかに追いつかれてたまるかッス!」
「えひひひ!すぐ追いついてレイコチェックの時間ですよーっ!!」
「あきらさん、前見て!」
「うえ、ぶえあっ!?」
「OH!?」
体育館の扉から外に出ようとしたあきらが、一人の少女にぶつかった。
幸い大した事はなかったらしく、佑真達が追いつくころには二人とも立ち上がっていた。
「あきらさん。だから走ってはいけないと、いいましたよね?」
「ひいっ……い、いや、だって、その……」
しゅんとするあきらに笑顔を向ける藍。
そして佑真は「お前もだからな?」という目線をレイコに向ける。
さすがのレイコも申し訳なさそうに自分の人差し指同士をつつきあわせていた。
「と、とにかく悪かったッス、大丈夫だったッスか?」
「平気平気でござる!このくらいなんともないでござるよ!」
そう快活に答える少女は金髪に碧眼の少女であった。
明らかに日本人ではないその姿に一瞬面くらった佑真だったが、軽快に日本語を話す様を見て少しだけ安心した。
「ルシールさん、私がついていながらこのようなこと、本当にすみません」
「藍殿!問題ないでござる!拙者この通り元気りんりんでござるから!」
「知り合いなのか?」
「ええ、同じクラスのルシール・テイルロッズさんです」
藍に紹介されたルシールはぺこりとお辞儀をして自己紹介をする。
「拙者、ルシール・テイルロッズと申すでござる!以後、お見知りおきをでござる!」
「ご、ござる……?」
「拙者……?」
佑真と恵梨香はその口調に面食い、藍は少しだけ頭を抱えた。
「ルシールさん、その言葉遣いは……」
「わかってるでござる藍殿!この話し方はプライベート用でござるよ!この見た目だからとってもウケるでござる!」
そう言った金髪のツインテールのその少女は、ほんの一瞬だけ、小悪魔的に微笑んだのだった。
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