9 ヤってみよう!

 部員の表情を見渡す。

 みんな憐れむような眼で僕を見ていた。


 モンちゃんが腫れ物に触れるように優しく聞く。


「ハル、勉強のしすぎで遂に頭おかしくなったの? それとも、気分転換で、変な薬に手を出したの?」


「僕は大丈夫だよ、モンちゃん。いいかい? いくらディープラーニングでも、似た物ばかりが学習教材だと、凝り固まったアルゴリズムしか、構築出来ないよ。だから、新しい知識を学習させて、変化をもたらさないと」


「それなら、ギャルゲーをラーニングしようよ?」


 僕は小学生に言い聞かせるように、じっくり説明した。


「モンちゃん、前にも言ったけど、ギャルゲーと小説では文章量が違うし、ギャルゲーはイラストで見せるから、 情景を説明する言葉が、足りないんだよ。悪いけど、ギャルゲーは却下だ」


 モンちゃんは、顔をうつむき沈む。

 伸びきった前髪で、表情が見えないが、落ち込んでいるのが解る。


 ハツリさんの意見だ。


「え~!? いやよ! HATYちゃんに官能小説とか、気持ち悪い……」


 幸か不幸か。こう言う時、この男はだけが賛同してくれる。


 設楽は顔を輝かせて言う。


「おもしろそうじゃん! ダメだったら、HATYのプログラムから削除すればいいだろ! 何でもやってみないと始まらない」


 僕は話のまとめる。


「とりあえず、目ぼしい小説をピックアップしよう」


 部員達は、パソコンでおすすめの官能小説を検索し、ネットショッピングで購入した。


〈Andrоidは電気ウナギで夢精するか?〉


〈美魔女モデルは夜、熟れる〉


〈世界の射精から〉


 さすが、最近のネットショッピングは早い。

 注文して、その日のうちに商品が届く。


 早速、文章を手当たり次第に、ハンドスキャナーで取りこみ、実行した。


        ――――テストプログラム実行――――


#include <stdio.h> 


 ――――ヒロミチはセイコの柔肌に触れる。

 柔肌とは人の表面的感覚器官で成長途上の人間に見られる特徴。


 彼女 女性の意 は敏感 感覚が鋭く神経へ迅速に刺激を与える 火照っていた。 人体に流れる血流が上昇し熱が発生したと思いこむ錯覚

吐息 溜息の類義語 漏らす こぼれる事の意。

 セイコは恥ずかしく 周囲の人間と異なる行動をした時に感じる なり足を閉じる。


 煩わしい 面倒で気が重い 女 人間のメス、ビッチ、豚 だ――――。


 欲望を 人間の基本的な欲求の一つ ヒロミチはセイコのじれ@ggg.×☆○+△**□


 セイコは中国に渡り、得とくした雑伎からなる、開脚を見せつける。


 開脚! 開脚! 開脚! 開脚! 開脚! 開脚!


 中国→四千年の歴史を持ち、地球上でもっとも人口が多く、広大な大陸を有する国家。 特技は自転車、爆買い。


 雑伎→中国を起源とする奇術、曲芸を織り交ぜた複合芸術。


 開脚! 開脚! 開脚! 開脚! 開脚! 開脚!


 たわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ>>>

 

 なんてイヤらしいYAMAだ  おまけに ついで TUKIまで 出ているじゃないか。


 彼女のSIGEMIをKAKI分けるとヒロミチはやっとメスとしxxxxしたxxxxxをxxxxxできxxxxxxxxxx


 たわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ>>>


 return 0;

}


「いやぁ~! HATYちゃんが壊れたぁ~!?」

 

 ハツリさんは、絶叫しながら、モニターを掴み、揺さぶる。

 チャームポイントのポニーテールが、荒馬のように跳ねる。


 設楽が苦情を言う。


「何だよこれ? ひでぇ、バグだ?

一つ一つの単語に補足が付いてる。

しかも、中国で雑伎団にいたとか、訳解かんねぇ、設定が付いてきたぜ。

ていうか、開脚に興味持ち過ぎだろ?」


 モニターから、距離を置いた位置で、優雅に座るモンちゃんが解説する。


「やっぱり普通の小説と違って、常識を基本にプログラムされているAIが、官能小説を書くのは、無理があるよ。

女性が体位を変える時、常識的に考えて、ありえない体勢になる。

AIからしたら、何で良識ある女性が突然、常識はずれの事をするのか、理解できないんだ。

マシーンに置き換えると、予め決められたルールを、破る事になるからね」


 一つ確認しなければならない事が有る。


 ――――モンちゃんは童貞で或る。まだ経験は無い――――。

 

 童貞のモンちゃんに、ここまで説得力のある、講釈をさせる要因は何だ?


「だから、良識ある聖子が何故、こんな行動に出るのかを考え、合理的に説明付けた結果、雑技のスキルがあるという答えになった」


 やっぱり、ギャルゲーのラーニングを却下して、官能小説を選んだことを恨んでいるのか?


 ぎょろ目のモンちゃんは、肩をすくめて両手を広げると、お手上げ、というモーションをして、得意気に言う。


「まぁ、AIが女性を喜ばせる、楽しみを理解出来ない以上、官能小説を書かせるは至難の業だね」


 段々、イラついて来た。

 少し黙っててくれないかな?


 しかし困った。

 官能小説と言う、未知数の情報が、HATYの思考回路を混乱させている。

 今までは文字一つ取っても、意味、用途、組み合わせ、比喩的表現をネットの情報と照らし合わせて、使い方を学んでいた。


 そこへ、性的な表現と言う、捉えどころのない文字が加わり、言葉のTPOを複雑にする。

 AIが選んだ言葉が、一般で使われる言葉なのか? 性的意味合いなのか? 更には公然で使って良いのか? はばかられる言葉か? そもそも実社会で、どう言う意味を持つのか? と言う具合に、AIが理解出来る許容を越えてしまった。


 まさに、シンボル・グラウンディング問題だ。

 

 落ち着きを取り戻した、ハツリさんの意見が、この後の活動を後押しする。


 

 

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