2 機械がカク

 室内の隅で、ソファーに座る学生は、ドギマギしながら待っていた。

 周囲の忙しさが彼を、昼間なのにこんな所で、また油売って学生は呑気だなと、言っているようで、よけいに落ち着かない。

 目の前の編集者は、堅い表情のまま原稿を読み直し言う。


「なんと言うか、生々しさが伝わってこないんだよね。生きた文章が感じられないんだ。露骨に機械が書いた作品って、気がして感情が伝わってこないんだよなぁ……」


「そうですか?」


 学生は“機械”と言うワードに、少し不服を感じ、それまでの気持ちが、緊張から臨戦態勢に移る。


「ユニークではあるんだけどねぇ、何か、こう……文章から、温度が感じられないと言うか」


「それは“機械が書いた”、と言う潜入感が有るからじゃないですか?」


 編集者は答えず、明らかに無視した。彼は蓋の付いたペン先で、頭をかくと続けた。


「何か、辞書の言葉を並べたようにしか、見えないんだよね」


「一応、理系の学生が大学生活、将来、恋に行き詰り、悩んで、自分達の進む道を見つけ、未来を切り開く青春ドラマです」


「ん~この、〈僕は思う、僕は感じる、僕は知る、僕は……〉とか、くどいよね」


「デカルトが説いた。我は思う、故に我は……」


「あぁ、そういうのいいから」


 学生は言葉の行く先を失い、黙る。


「やっぱり機械には、青春物のように、流動的な作品は無理なんじゃないかなぁ……辞書とか参考書とかなら、むいてそうだけど?」


 学生は、編集者の助言を、素直に聞き入れられず、能面のような表情で黙ってしまう。

 

 高層ビル群から、少し離れた雑居ビル。

 その入口から学生は出ると、大きく息を吸い、まるでしぼんだ風船のように、溜息を吐きながら肩を落とした。


 ポケットにある、マナーモードに設定した、スマートホンが振動したので、彼は取り出す。

 画面に表示されたメッセージを見る。


『HATY:ハル 結果はどうでした?』


 学生はフリック操作で、返信メッセージを入力し、送信する。


『ハル:今日もダメだった』


 すぐさま、応答のメッセージが来る。


『HATY:気を落とさないで 次は きっと大丈夫です』


 学生は『そうだね』と、返した後に、力なく微笑む。


 このやり取り、門前払いされる度に、同じ事を言われるな。何か、パターンを追加した方がいいかも?

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