第94話「狂う歯車」
彼女は選ばれた者である。
出自はエルフと呼ばれる長命種である。
とある神の箱庭で生まれ、種族を導き、大地を管理した。彼女はどこまでも満足せず努力を続ける、そこに資質が芽生え、磨かれた資質はやがて亜神にスカウトされるほどに磨かれた。
だが亜神昇格という高い山を登った先にあったのはは……さらに高く厳しい山であった。
正直彼女は燃えた。そしてすべての物に、試練を与えた世界に、神に感謝をささげた。
やる気に満ち溢れた彼女はスカウトしてくれた神の期待に答え、数千の年月をかけてついに神の座に至った。……そしてまた更なら高みを目指しスタート地点に着く。
果ての見えない神の世界という頂を、少しでも見る為に彼女は努力を続けた。
しかしその途上で、仕える神が道を踏み外した。
彼女の価値観では絶対に許しては行けない事に手を貸してしまった。
彼女は怒りに震えた。
だがそれだけで、今回の様なことをするほど彼女は愚かではない。
しかし彼女は知ってしまった。
今回の対象が彼の方の保護を受け、生き残る道を模索していることを。
彼の方。彼女にとって最も高き位置におり、最も尊き者。
盲信と呼んでも良い信仰を神である彼女は抱いていた。
その彼の方が、運命を捻じ曲げ高々人間に贔屓している。その事実が彼女に激しい嫉妬をもたらした。
面倒ごとを生み出す世界として有名な地球、その管理神も絡んでいたがそんな事は彼女にとって小さな出来事である。
彼女はこれまで万に近い時間こつこつと積み重ねてきた。そうして、少しだけ、だが強烈な光を放つ彼の方をみれる様になった。
人間にかけたのは彼の方の気まぐれだろう。だが、彼女が積み重ねてきた努力を何の苦労もなくうける人間。許せるだろうか……。
許せない。
彼の方の興味を引くなら協力するべきだろう。
だが、許せない。
神として節度を持った行動をするべきではないのか?積み重ねてきた努力を無駄にするつもりか?
それは正直惜しい。だが……。
彼女は思ったそれでは裏から手を回せば良い。いざとなった時に強硬策に出ればよい、と。
コンコン
ドアがノックされる。
彼女の執務室は主神の職場である神殿の端に存在する
普段は誰も寄り付かない部屋である。
サポートと対象のガリーシャ神は本体を封印され、とぉとぉ君とかいう人形に身をやつし業務進行に必死である。封印される前の様な想定外の行動、発言がない分休憩中の神尾序を呼びに来る者はいない。
ではだれが?
「ガリーシャ様付き侍従神エラ様。少しお話を置きしたいのですが……」
彼女は理解した。
そして諦めて執務室をでる。
煌びやか鎧を身に纏った彼の方の眷属が10柱並んでいた。
「天界の特殊部隊の皆様がどのようなご用件で?」
完璧な笑顔である。まさに神々しい笑顔だ。
「ご存知かと……」
3対6枚の羽根を生やした女性の彼の方の眷属が苦笑いで答える。
「……」
朗らかに微笑む合う2柱。
やがて彼女は理解した。彼ら10柱の裏に中級神が万が一の為に控えていることを……。
もはや、あがなう手段はない。
「彼の方は来ていらっしゃらないようですね……」
彼女が憧れる神は居ない。
彼女に彼の方を察知する能力はない。周囲に潜む中級神の様に空間にそっと潜まれてしまえば尚更……。
「我らの主神光の神は今、もう一方の所に行っております。……それぐらいお分かりでしょ?」
「辛辣ね。憧れの彼の方が万が一でも近くに居られないかと、多い馳せるのは悪い事かしら?」
「……」
彼女を囲む10柱と潜んでいる中級神の感情が揺れる。
それもそうであろう、光の神の眷属は彼の方が居なくなりそれを三千年待ったのだ。その間に自暴自棄になった者も多く現れたというほどだ。それを知らぬはずがないよそ者が、軽々に【あの時のあなた達と同じ様に】と匂わせる発言をしたのだ。感情が怒りに振れるのは仕方がない事だ。
だが、それもすぐに収まる。
「羨ましいわ……。私もそちらに配属されていれば……」
「それ以上のお話は詰め所でお聞きしましょう」
たまらず潜んでいたはずの中級神の1柱が現れ、そっと彼女を促す。
「わかりました。……さて私はどのような罪に問われるのかしら……」
「干渉不可のダンジョンに不正干渉とモンスターへの力の付与、ですね……」
言われて彼の嬢は楽しそうにうなずく。
「そうね。私がしたことはその通りね、私がしたことは……」
「……えらく含みのある言い方ですね……」
「ええ、あなた方が見落として……。いえ、彼の方が見落としていることが、ちょっと嬉しいのかもしれません……」
「…‥見落とし?」
「すぐにわかる事です。楽しみにお待ちください」
クスクスと笑いながら彼女は中級神に連行する様に促し、ガリーシャ神殿を離れていった。
「……侍従神の変更とか、とぉとぉくん的に頭いいたいよ……。こんなに忙しいのに……」
彼女、ガリーシャ神の侍従神エラを見送るとぉとぉ君の目は言葉とは裏腹冷たい色を浮かべていた……。
一方その頃ダンジョンマスターの執務室事マスタールームは喧騒に包まれていた。
「99階層の32~100までの罠起動!」
「ちょっ、95階層の階層主が抜かれた!」
『くそ! 偽装とか、やってくれる! あーーー! 罠発動阻害されてる! ウィルスは駆除駆除!』
ダンジョンマスター、悪魔ちゃん、神樹の息子それぞれが鬼気迫る雰囲気で対応に追われている。
コムエンドのダンジョンは今、最下層のモンスター達が一斉に暴走を開始していた。
後に神の世界で研究禁止となる、『ダンジョンウィルス』その影響によって……。
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