第84話「魚の謀略」
――憎い。
何故だ!
どうしてだ!
今一歩であったのに!
何故裏切った!
愛していたのは貴方だけだったのに!
君だけ見ていたのに!
信じていた。今でも信じている……。
――悔しい。
何故お前ばかり……。
俺の方が努力していたはずだ……。
才能……、その一言でくくるな……。
上手く行かない……。
俺が……、私が……、上手くいかないのはお前のせいだ……。
ダンジョン作物は聖と呼ばれる属性に中性だったモンスターを転じる。そしてアームさんの様に別種の生き物に作り替える。
しかし、それ以前に聖の反対である、闇に飲まれたらどうなるだろうか……。
40階層の階層主にして、代々生真面目な基本性格のデス・マーマン。彼は一度ダンジョン作物によって聖へと転じた。だが、地球の神が大志に固執しているのを見て嫉妬にかられた。
魔法とは、魔法力とは本来ただの物理法則としてなじませるはずだった。しかし、あまりにも物理と精神をつなぎすぎてしまった。その為に弱気な知的生命体がその弱い心を、感情を、世界を循環する力、魔法力にすり込まれてしまった。
その悪感情から人類を滅ぼすべく自然発生したのがモンスターである。ダンジョンモンスターは亜神の手によって作られし存在。故に中立。しかして、彼らの中には、依然として負の感情、汚れた魔法力がこびりついている。それは倒されることで再循環され浄化を辿る。
故に、ダンジョンモンスターに自我はなく。
故に、ダンジョンモンスターに善悪はない。
しかし、感情を得たことで聖に転がりつつも、こびりついた闇にも接する。そしてコンプレックスを、悪感情に汚染されることで一気に闇に堕ちる。
そこには黒く染まったデス・マーマンがいた。
そこには黒く染まったモンクコボルトがいた。
そこには黒く染まったリトルホワイトコッコがいた。
そこには黒く染まったモンスターたちがいた。
「確かに、我らには神の加護はない」
魚の一言に意思をもったモンスターたちが注目する。
「我らに神の救いもない」
いつものお茶らけた様子はそこにはない。
「しかし、見よ。神の意志はここにある。我らに与える祝福もここにある」
魚が右手をかざすと神々しくも黒い波動がそこにいたモンスターたちを包む。
湧き上がる歓声。魚は鷹揚にうなずくと歓声を鎮める。
「ここにあるは神の加護。これは神が我らを見捨てていない証。故に、我ら神の為に戦わねばならぬ!」
あるものはこぶしを掲げ。
あるものは雄叫びをあげ。
あるものは感動に涙する。
黒く染まったモンスターたちは、世界の悪感情に揺らされながらも救いを求めていた。
差し伸べられる手はない。
そう思っていた。
しかし、ここにあった。
救いが。
希望が。
それが何の神だとしてもそこにいた、世界の負の感情に影響された進化寸前のモンスターたちは願わずにはいられなかった。未熟な感情は他者の激情に影響される。感化される。モンスター達の得た感情という機能は、いまだ稼働し始めたばかり。ダンジョンマスターは、神々は、彼らが無垢な赤子であることを知らない。黒にも。白にも染まることを知らない。
「神の降臨です!」
何もない空間を割って現れたその神々しいものは。
「皆さんに救いを」
とぉとぉ君(本体)の従神、黒髪美女エラが現れた。
「ともに希望を勝ち取るのです」
エラは女神の微笑と共に言い放つ。
その手には等身大ブラック様人形が抱かれていたことに、その場のモンスター達は気が付かなった……。
黒いモンスター達は黒い女神の言葉に熱狂し、闇に消えていった。
※書籍化2巻発売しましたので、仕事の合間で申し訳ございませんが頑張って更新していきます!※
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