第70話「西日が目に染みるぜ」
そこは鬱蒼と緑が生い茂る森。
……ではなく、ダンジョンである。
アユムがダンジョン超級モンスター、黒タヌキチの内部に囚われて1時間ほど経った。
30分前に植えた種から芽が出たと思ったら一面蔦が根が張り巡らされ、なんとダンジョン超級モンスターを切り刻んで吸収し始めた。そして5分ほどすると蔦から、根から、枝から、視線を感じるアユム。無言で『手伝うの!』と催促されているようだった。
納得できないアユムだがイックンに促されて技を放つ。壁を切り刻むと緑は肉食獣の様に肉に群がる。そして吸収しきると緑はアユムをじっと見つめる。『お代わりなの!』と言われている様だ。そうアユムは思った。30分で100mほど進んだ。そしてそこでアユムは緑から『一杯吸収できるの! あっちに大技打つの!』と言われた気がしたので、「光波斬、乱舞!」とイックン直伝の神剣流奥義を放つ。一気に目の前にあった肉壁を含めて200mほどの穴が開く。散らばる肉片、群がる緑。ホラーである。
「うふふ! 神樹様、分体! 爆誕なの!!」
木目の肌に緑の髪の5歳位の幼女が腰に手を当て仁王立ちだった。
あ、アユム悪夢じゃないから寝ようとしないで……。
「アユムおにーちゃん寝たらだめなの!」
神樹様の分体である幼女は、無茶を言う。お前何歳だよ……。確か10万年以上は……。ん? ブラック様いつからそこに?
え? 下界の様子が見えなくなったから暇つぶしに来た?
あ、ちょっ。自分仕事中なんで……え、気にするな? 気になります。何っすか、偶にこうやってプレッシャーかけに来ますよね?
ん? 待ってくださいなんでそのノート持ってるんですか……。
おっし! おしごとがんばちゃうぞー(チラチラ)。
あ、そんなことやってたらアユムが再起動し、イックンが神樹様の年齢をばらし怒りを買っている。馬鹿な神剣である。
「さぁ、アユム! 今度はこっちのほうに撃ち込むのなの!」
キャラ作り必死な神樹様に言われるがままアユムは再び、「光波斬、乱舞!」を放つ。光の波が肉壁を砕き直進して行くと一気に開けた広場に出る。
「……アユム。ここからはR15や」
気配を読んだイックンがアユムに警鐘をならす。
R15。……ではアユムに先行して広場を見てみよう。
肉壁の広場。
中央に聳え立つのは肉の巨木。
巨木の中心に捕らえられているのは短髪の女性。
戦士の服装だったのだろうが鎧ははがされ服はボロボロ、胸を押しこめていたサラシは解けている。
タイトル:美少女と触手。
〇REC
……何してるんですかブラック様……。
え? その赤丸のボタンは押させない?
な~に言ってんすか。自分そんな不謹慎じゃないっすよ。……くっ。完璧なガードだ。あの、ブラック様も男性なら……うん、そうでした幼児でしたね。まだ性欲とか遠い存在ですね。なるほーーーーーーー。くっ、なんで気付いた!
おのれ! これが1級神の実力という奴か、侮りがたし!
……ふっ。油断しましたね。私には独立稼働型のドローンが!
あ、AIが乗っ取られてる……、まてなんでボタンに近付いた!
え、『上げて落とすのは基本!』 そんな基本いるかー!
はっ! ……救出されてる! ああ、僕らの触手師匠!!
僕らの触手師匠は神樹様に美味しく頂かれました。
●REC
ブラック様なんで押したんですか? 押したそうだったから? そうっすね。うん、5分前にね。うーん、今はいらないかなー。
〇REC
さて、アユムの上着を被せられ横になっている美少女。じゃなくて勇者イット。
彼女が目覚めるまで待つことにしたアユムは、結局ホールを中心に12方向へ技を打たされる。ボロボロにされるダンジョン型超級モンスター。その肉片に喰いつく神樹。
「まぁまぁなの、美味しくはないけど魔法力は吸収できるの。我慢できるぎりぎりの範囲なの」
笑顔の幼女(神様の分体)。
「……」
「……」
アユムはお湯を沸かして権兵衛さん製お茶試作5号を淹れ、神樹様と休憩中である。10階層産の饅頭を2つづつ分けて、アユムはそのうちの一つを頬張りながら、アユムと神樹様は伝説の対決の目撃者になっていた。
「久しぶりだな、神剣イクス……」
「ああ、久しぶりやな聖剣……名前あったけか?」
イックンがジャブを放つ。
「お前はいつもそれだな……だが我には今名がある。リアと言う名がな」
「……ほう名前貰えたんか、酔狂な奴もおったもんやな、性悪聖剣に存在の一部を分け与えるなんて酔狂な奴もいたものだな……」
険悪な空気。それを眺めながらお茶をすするアユムが興味無さそうに神樹様に尋ねる。
「あの2本って、知り合い何ですか?」
ピキーン と擬音がなるほど神樹様が反応した。
「良い所に気付いたの!」
2本は気付かない、今神樹様が日本にとって致命的な話しを始めようとしているのに……。
「一言で言えば、耳糞が鼻くそを笑ってる状況なの!
……それはむかーし、昔のお話なの。人間が鍛冶を始めた頃、とある男神が鍛冶の神に任命されたの」
イックーン。リアー。睨み合ってたら不味い話が始まっちゃうよー。
「あ゛あ゛、やんのかこの聖剣ごときが」
「もちろんだよ! この低スペック神剣! あ、そろそろ最新の聖剣に能力で負けちゃうんだったか? かーわいそーに、神剣(名誉職)だな? あ゛?」
うん。無理っぽい。
さて、お茶と饅頭で一息つくアユムの横で幼女(おばあちゃん)が昔話を続ける。
「当初鍛冶の神は鍛冶が超へたくそだったの。それこそ地上の人類たちの方が上手かったの。
でも鍛冶の神は真面目に頑張ったの。変態だったけど。
真面目に頑張ったから実力もめきめき上がってきて魔剣位作れるようになってきたの。変態だったけど。
そこで上司の神々が鍛冶の神に一つ命題を与えたの。『神剣にふさわしい剣を奉納せよ』
目標ができてさらに根を詰めて頑張り始めたの、すごい一生懸命だったの。変態だったけど。
でも100年経っても神剣はおろか、1つ下のグレードの聖剣にふさわしい物も作成できなかったの。神々からの要求スペックを満たせなかったの。
そこで鍛冶の神はお酒に逃げたの。変態だったけど、変態の方向には走らなかったの。その点真面目なの。
結局鍛冶の神は、飲んで吐いても、剣を打ち続けたの。でも、やっぱり聖剣はできなかったの。
更にお酒に逃げた鍛冶の神は、職場でも水の代わりにお酒を呑み始めたの。
やがて深夜たんまりとつまみとお酒を持ち込んで剣を打ってたの。ダメ鍛冶屋なの。
もちろん、いい剣なんか打てるわけもなく。気分も悪くなって剣を打ちながらその鍛冶の神は吐きやがったの。剣の上に。ばっちーの。でもそれが……」
ちらりと聖剣リアを見る神樹様。その瞳は慈愛の眼差しである。
アユムはその話を聞いてそっと先ほど聖剣を拾い上げた手を魔法の水で洗い流す。
「聖剣を作って鍛冶の神は考えたの。やっとこさアルコール依存症から抜け出せたときに鍛冶の神にはあることに気付いたの。『聖なる剣を生み出すのに聖なる者の欠片が必要だ』と。
そこから鍛冶の神は聖剣を量産したの。天界は聖剣が大量に出回り各世界で第一期勇者ブームが巻き起こったの。当時は邪神も創造神も勇者勇者言っていたの」
現在は完全に下火である。
「でも、いくら聖剣がうてるようになっても、いくら頑張っても始めの聖剣以上の剣が打てなかったの。あっという間に鍛冶の神は再びお酒に逃げようとしたの。でも弟子のひとりに止められたの。飲む! 飲ませない! っておしあいしてると、勢いで瓶が割れて鍛冶の神は血を流しちゃったの……。そこで鍛冶の神は何を思ったのか……その血を剣に垂らしてみたの。そしてら歴代最高の聖剣が誕生したの。それに気を良くした鍛冶の神はこう宣言したの『神の処女の血、それが最高の神剣を生み出す!』と。結論、やっぱり変態だったの」
ヤレヤレと言った感じの神樹様。アユムはお茶のお代わりを勧める。
「ぷはー、お茶がまぁまぁなの。で、そんな宣言をした鍛冶の神がどうなったかと言うと。女神達に縛り上げられ逆さ吊りで殴られ続けたの。勿論血だらけになったの。女神達は折檻した鍛冶の神の血を集めこういったの『神剣を打て、打てねばまた血を絞ってやろう』。近くをお散歩中だった邪神もはだしで逃げ出したらしいの。必死になった変態はその贖罪の血、それで一振りの剣を打ちあげたの……」
イックンをみる神樹様。
残念な気分になるアユム。
そこでようやく奴らが気付いた。
「「あ、」」
アユムに距離を置かれる神剣と聖剣。
アユムの白い目に耐えきれず彼らは叫んだ。
「「俺らの責任じゃない! 悪いのは全部、変態の神のせいだ!!」」
その叫びはきれいに揃っていたという……。
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