第71話「西日が目に染みるぜ2」

 さて、みなさん。状況を整理しよう。

 前回まで見ていたのはアユムと神樹、聖剣と神剣のコントでした。

 その前にご覧いただいたのはまじめに戦(いくさ)をしているようでしない師匠たちの地上戦。

 さらに前は36階層での白と黒のダブルタヌキチ劇場。


 もう、何が何だかですよね。

 あ、ブラック様。頷いて頂きありがとうございます。


 なのでここで時系列を合わせてダンジョン型超級モンスターを上から見ていきましょう!

 時間の流れはストーリーの流れ通り。

 アユムたちと黒タヌキチが出会い、最大の障害、アユムと神剣を封印。

 うまく封印した勢いで地上の英雄級と勇者討伐に乗り出した黒タヌキチ。アユムの弟弟子こと白タヌキチはそのあとを追う。


 地上に躍り出た黒タヌキチ。しかし聖女の能力を発揮したリムの力で黒タヌキチの行動を把握されてた。結果、黒タヌキチは勇者イットの不意打ちに合う。地上殲滅用の巨大モンスターボディとのリンクがこの攻撃で不通となる。怒りに震える黒タヌキチは巨大モンスターボディをモンスターたちの原材料に変換し、数による攻勢に切り替える。


 ここでダンジョン上空から現状確認です。


 上空には見習い悪魔と見習い天使、駆け出しのダンジョンマスターとブラック様の甘言に乗って遠洋漁業に出ていたはずのグールガンが、雷撃魔術による支援爆撃を行っている。


 グールガン。ここにいらっしゃいました。


 航空部隊の支援攻撃を受けて地上は達人たちの大運動会開催中!

 長期戦を視野に入れていた師匠たちだが、気づけば無茶してます。特にシュッツとランカスは、魔人化に仙人化などやらかしている状況。

 両者ともに不完全で非効率な術の為、保って2時間程度である。

 ランカスを覆う白い光は、仙人の能力ではなく、制御しきれない力が漏れ出ているのでさらに燃費が悪い。それでも地上は師匠たちが我先にとモンスター軍団を押し込んでいる。本陣でその様子を見ているジロウは胃を抑えている。

 さらにグラトニースライムをわんこそば状態で食す暗黒龍先輩改。混乱に拍車がかかっている状況である。しかしながら、戦線は短期決戦の様相を見せている。地下にいるアユムと師匠たちの奮起に期待である。だがこのままの状態が続くと近い未来、戦線は瓦解する。黒タヌキチはダンジョンマスターの能力を吸収している。モンスターの素材は無限にある。故に逝っとき押し込まれようが物量は黒タヌキチに理があるからだ。


 では、そんな運命を背負った地下を見ていこう。


 もっとも地上に近い部分にいたのは、聖剣とイット、そして今は亡き触手師匠。

 そこから少し地下に行くと、イックン&アユムの力温存コンビ。彼らはブラック様が預けていた人類の希望(幼女)に従い、ダンジョン型超級モンスター討伐に取り掛かる。イットが目を覚ました現在、アユムは鍬(神剣)を手にダンジョン型超級モンスターの開墾にいそしんでいる。『わしは、神剣や!!!!』と叫んでいますが、ウキウキで鍬を振るうアユムには聞こえていないようです。ハイ中継終わり。

 彼らは、再び地下を目指す。その先にいるのは黒タヌキチの想像以上に破壊力抜群の師匠ズ。

 ……今確認しましたが、目がやばいです。特にラーセン。敬愛する神樹様の波動を感じているのか、まさに無双状態。高笑いあげて棍を振るうと肉が溶けている……。ホラー……。


 アユム達と師匠達が向かっている先。ダンジョン型超級モンスターの深奥、マスタールームの手前にある大広間である。


 そこで今……。


 「がう!(ホワイトブレス!!)」


 アームさんの口から白い炎が噴き出す。


 「はっ!」


 黒タヌキチは気合一つで白い炎をかき消すが、その動作のすきをついて槍が伸びる!


 「ボウ!(受けろ! 神殺しの槍!!)」


 黒タヌキチはかわし切れず小さな尻尾に被弾する。


 「ボッ(おっと、そっちに逃げるの愚策っす!)」


 黒タヌキチは糸に体の自由を奪われる。

 そして、


 「キュウ!(僕よ、ここで眠れ! 神光拳!!!)」


 白タヌキチの拳から白い光があふれ、糸を通り抜け、動けぬ黒タヌキチを打ち抜く。

 一見、白タヌキチたち優位の戦場である。


 「がう!(かわせ!!)」


 アームさんの叫びに呼応して白タヌキチは一気に飛びのく、次の瞬間円を描いて地面から吹き上がる黒炎にすべてが焼き尽くされる。


 「惜しい惜しい、もう少しで僕を滅ぼすことができたのにね」


 余裕の笑顔の黒タヌキチ。彼は知っていた、アユムと師匠たちが近づいていることを。

 だが、あえて遊んでいる。

 今まさに技を使い、魔法力を使用する彼らは、全く効果がないことに焦る。

 焦るあまり気づいていない。攻撃が吸収されていることに。


 黒タヌキチにとって色々イレギュラーだ。特に地上の冒険者による攻勢は想定外もいいところだ。

 だが、発生した損失は利益で埋めればいい。


 まず現れたのはアームさんたちだった。彼らの主人であるダンジョンマスターが逃げた相手に果敢に挑んできたのだ。黒タヌキチがダンジョンマスターを拉致したと勘違いして。


 虚を突かれて黒タヌキチは初めのころ消耗する。

 しかしそこに半身である白タヌキチが現れる。白タヌキチは知らない。2匹そろうことで黒タヌキチの結界が発生していることに。

 じわじわと回復する黒タヌキチ。

 彼は思う。アユムの目の前で間抜けな半身を飲み込んでやったら、アユムはどんなに絶望してくれるだろうか。と。


 「僕はお前だ」

 「キュウ!(ああ、お前は僕だ!)」


 何も知らず忌々し気にこたえる白タヌキチ。彼は15階層と地上を往復する生活に、それまでの生では味わったことのなかった充実感を味わっていた。だから、超級モンスターなどという意味の分からない自分の半身にそれを奪われるのがたまらなく嫌だった。


 「僕はお前が憎い」

 「キュウ!(奇遇だな! 僕もお前が憎い。僕が『やっと』手にした生きる意味を!)」


 そこで黒タヌキチは口元をゆがめる。


 「キュウ!(何がおかしい!!)」

 「ふふふふ、お前は忘れてしまったのだな……嘆かわしい。………いや、うらやましい」


 黒タヌキチの瞳に深い闇が浮かぶ。


 「おまえ、いくつだ? 覚えているか?」


 会話している白タヌキチたちの背後からアームさんが襲う。

 しかし、肉壁に阻まれる。


 「キュウ(17だ……それがなんだ?)」

 「そう17歳。うん、そしてこれで17度目……」


 その言葉に白タヌキチは拳を下す。思い出してはいけないものが心からあふれそうだった。


 「僕らは17回殺されている。勿論、多くを殺してきた。でも、勝手じゃないか?」

 「キュウ(何がだ……)」


 「僕らは初めて殺されたときにこの世界を見限って世界を渡ったじゃないか? そこで人間として生まれたじゃないか? なのになんで毎年僕らはこの世界に引きずられるんだ? 百年周期? ふざけているのか? 僕らにとっては毎年だ。毎年この誰のものかもわからない恨み・つらみ・嫉妬、人類がいいように使って廃棄された魔法力に飲まれて苦しまなければならない……不公平じゃないか?」

 「……」


 白タヌキチは項垂れる。思い出してしまった。深く傷つき、ずっと悲しかった2回目。明るい笑顔に狂おしいほど嫉妬した3回目。闇を抑えようと必死になった4回目。今回のように聖と邪に分かれてやり過ごそうとしたが、勇者と名乗る神に非常にも両方とも消された12回目。


 「お前は、楽しいか?」

 「……楽しいよ」


 白タヌキチの答えに黒タヌキチは怒りを覚える。

 12回目から始まった黒と白、聖と邪の役割は毎回入れ替わる。どっちも白タヌキチだが12回目から個性が出た。だから入れ替わる。黒タヌキチはまじめに生きる。白タヌキチはおちゃらけてその場を楽しむ。黒タヌキチは聖でも邪でも、人々に炙り出され殺される。そしてなぜだから異世界に戻っても覚えているのは黒タヌキチだけだ。白タヌキチは忘れる。


 「僕は毎回満足している。消えるとしてもだ」

 「僕は毎回後悔している。身勝手に消されるからだ」


 黒タヌキチは『思い出したくせに』清々しい表情の白タヌキチが嫌いだった。

 黒タヌキチは思う。こいつは今回も満足している。満足しているからこそ黒タヌキチに挑んでくる。と。


 ……だから黒タヌキチは世界を滅ぼしたかった。

 生き残るために。

 何より、白タヌキチが満足した物を壊したかった。

 自分は得られないのに。

 同じ存在なのに。


 「僕はお前の持つすべてを滅ぼす。そのあとのことなんか知るもんか」

 「僕は僕の大切なものをすべて守る。お前と一緒に滅んだところで本望だ」


 白タヌキチの顔に笑顔が浮かぶ。

 いつの間にか人間の言葉を話す白タヌキチ。彼は気づかない。ダンジョン作物が聖と邪。どちらにでも傾ける効果があることに。神聖なオーラをまとい。白タヌキチは笑顔で拳を突き出す。


 「お前は僕だ。僕はお前に勝てないかもしれない。だけど、お前も僕に勝てない」


 白タヌキチの背後から一条の光が肉壁を貫き、落ちてくる。


 「待たせたね」


 降りてきたのはアユムと師匠たち一向。

 アームさんはそっとアユムに近づくと伏せて乗るように促す。


 「がう(アユム。イックンが泣いてるから鍬から剣に戻してあげて……)」

 「アームさん、おおきに。おおきにやで!!」


 ここはダンジョン型超級モンスターのマスタールーム。広く、天井の高い広場で白い猫竜に乗って神剣を持つ勇者が悪と相対する。


 「……何度も見た。この光景。………………………………………………でも、僕は馬鹿じゃない」


 黒タヌキチの奥の手は白タヌキチである。

 そのことを白タヌキチ知らない。


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