第69話「聖剣、一文字変えると石鹸」

 「がおおおおおおおおおおおおおおおおお!(暗黒竜先輩いっきまーーーーす!)」


 背中に背負った2本の円筒形のブースターから勢いよく光があふれ推進剤となる。次の瞬間暗黒竜先輩は一条の黒い光となって戦場を駆ける。


 という事で暗黒竜先輩の活躍は後書きで紹介します。


 「がお?(え? いや、まって前回あんなに引っ張ったのに省略??????????)」


 一方その頃、突撃したランカス達は……


 「がお(ええええええええ)」


 ランカスたちは!


 「砲撃で混乱したところをついて魔法型を殲滅できたが………なんだこの状況」


 ランカスは槍を構えながら息を吐く。周囲にはモンスターの亡骸に警戒しながらランカスの弟子たちは順番に一息入れている。敵陣の真っただ中である。普通であればあり得ない状況だが、行える状況だった。


 「あれって、天使と悪魔ですよね……」


 弟子の言葉に空を見え上げる。

 天使が2体。悪魔が1体。妖精が1体が高速で飛び回っている。

 たまにモンスターの中に光を爆撃する。

 おかげさまでコムエンドへ一直線に向かっていたモンスター軍が対空戦闘組と暗黒竜対応組と冒険者対応組に別れ混戦模様だ。


 ランカスたちは休憩と魔法力の補給を行えている。


 「決死の覚悟が台無しだな」


 その男は戦場に馴染んでいた。寧ろ普段、厳しい陶芸家としての姿が幻の様に見える。


 「……何故来た。シュッツ」

 「ジロウが戦線を押し上げるとか言ってな。俺たちが先鋒としてな……」


 シュッツが後ろを指すと混乱して進むか引くか戸惑っている様子のモンスターが冒険者と追加動員された領軍に蹴散らされている様子がうかがえる。

 ランカスは呆れた様子で『まぁ、好機と言えば好機だがな……』と溜息と共に台詞を吐き出す。


 「ランカス! 休憩か?」


 ランカスが昔馴染みが暴れている様子を苦笑いを浮かべながら眺めていると、赤く光る籠手を身に着けた老女が豪快に笑いながら、撲殺したモンスターの遺骸の上から降りてきた。


 「オーノル先輩………」


 胃が痛くなるランカス。長い赤髪と肉食獣の眼差しが歳を感じさせないが、曾孫までいる。そして何よりあのサントスの師匠である。つまるところ自由人である。サントスの姿を見れば理解できるだろう。肉屋としてギュントルに仕込まれた最低限の礼義以外サントスの行動は自由である。


 さて、彼女がランカス達に恐れられる理由は多数あるが一番は『いまだ現役冒険者、英雄級』であることだ。何やらライバルがいるらしく『互いに先には引退しない!』と日々研鑽を積んでいる。つまる所過去からの上下関係がある上、現在進行形で成長し続ける怖い先輩なのだ。


 付き従うように降りてきたのは、料理人として頭角を現してきた双剣使いハインバルグ。オーノルに出会い頭ゆるんだお腹を掴まれて『ダイエットに行くよ!』と引き摺られてここに居る。重いため息を吐き出してランカスに助けを求めているが、ランカスは視線を逸らす。


 次に現れたのはモンクのリンカー。医療術師として従軍したはずなのだが、ここに居て大丈夫なのだろうか。そうランカスが視線を向けるとリンカーは重い口を開く。『先輩の一言で……【お前暇だろ?】って言われたら誰も……』


 ランカスはリンカーの肩を叩いて激励する。慈愛の眼差しである。

 何故か『くっ』という声がリンカーから聞こえたがランカスは聞かなかったことにした。


 最後にオーノルが口を開く。


 「大陸中央で大魔王様に稽古を付けて頂いたのが休暇先で試せるとは、やはり私は普段の行いが良いからだな!!!」


 彼女の後ろでハインバングルとリンカーは高速で首を振っている。

 オーノルが振り向くと2人は視線を逸らす。


 「お前ら最近鈍ってるな。取り敢えず前面の20体程度やるぞ!」


 魔法拳士オーノル。大陸東部伝説の乙女。彼女の英雄譚が女性たちに勇気を与えている。

 引きずられる側としては迷惑なもので、現役引退していると言っても聞く耳持ってくれないのだ。


 「ランカス。シュッツ。お前らそこで遊んでる様なら。この後お仕置きだぞ。この戦しばらく続きそうだしね」


 ぞっとする二人。

 地面から爆発音がするとオーノルはモンスター軍へ突撃を敢行する。そして嫌々続くハインバングルとリンカー。


 「がお!(便利そうなので打っちゃうぞ! 千刃おろし!!)」


 暗黒竜先輩がシュッツの奥義を気軽に使っている。


 「……ああ! もう、切れた!」

 「おいおい、どうした?」


 何かを吹っ切った様なシュッツにランカスが心配そうにのぞき込む。そこでシュッツは普段使わないが腰に下げていたもう一刀を抜き放つ。何をやるのか察してランカスはシュッツと距離を取る。


 「高まれ魔剣エル!」


 シュッツの利き手に握られていた剣が燃え上がるように赤く染まる。


 「目覚めろ! 魔剣ルルーシ!!」


 抜き放った剣が青く光る。


 「目覚めろ! 魔人エルルーシ!!」


 シュッツが2本の魔剣を掲げるとそこに緑の光が生まれる。それはすぐに周囲に緑の雷を生み周囲を荒らして回る。


 やがてシュッツの前には13・4歳の緑髪の少女が現れる。緑髪の少女はシュッツに手を出す。

 シュッツは緑髪の少女に魔剣ルルーシを差し出すと。緑髪の少女は魔剣ルルーシをうけとると、その風体からは想像もできないほど慣れた様子で剣を振る。それは無駄のない流れるような美しい剣技だった。ランカスとその弟子たちが唖然としている。


 「やぁ、シュッツ。老いたね」

 「貴女は昔と変わらない」


 シュッツは魔人エルルーシをまぶしいものを見る様な眼差しを向けている。……いわゆるシュッツの初恋の相手という奴だ。


 「未だ僕に愛を捧げてくれているのかい?」

 「残念ながら、妻も子もおります」

 「あら? 残念」


 クスクスと笑う魔人エルルーシ。彼女は満足していた。剣に封印されていたのも当時の地上に飽きていたからだ。だが今。剣の中からうっすらと見えていた。超級モンスター、しかも神が介入する前の混乱期。


 「しゅー坊。良いタイミングだ。褒めてあげよう」


 笑みが止まらない魔人エルルーシ。

 だが魔人エルルーシは天を見上げた瞬間笑いを止める。その動作はシュッツが幼き頃よく見た動作である。懐かしい思いに浸るシュッツであったが予測外が事が起こった。

 魔人エルルーシは手から魔剣を取り落とし、呆然と両の眼から涙を流す。その表情は喜び。そして声にならない声を上げ天に祈りをささげている。頬を紅潮させたそれはシュッツも見たことのない女の表情だった。


 「魔人様如何なされました?」

 「あの方が……戻られている…………奇跡だ。…………心を、…………体を捨てずにいてよかった…………」


 祈りを捧げ終わった魔人エルルーシは晴れやかな笑顔で剣を拾いなおし、そして生き生きとした顔で言う。


 「さぁしゅー坊、あのお方が終わらせてしまう前に暴れようじゃないか! ライバルも無数にいる!! ……お前も僕のライバルになってくれるのだろ?」

 「ええ勿論。貴方の封印にかけていた負荷から解き放たれましたからね……久しぶりに私も暴れたい気分ですよ」


 「一緒にやるかい?ついてこれるならね♪」

 「少し回復してから行きます。言っておきますがハンデですよ」

 「いうねーいうねー! いい感じだ!」


 魔人エルルーシは爆笑しながらモンスターが湧き上がる肉の塊へ消えていった。戦塵巻き上げる様から想像以上に暴れている様だ。


 「……奥義パクられて、奥の手まで出すとはな……」

 「お前はいいのか? このままだと石弄りが趣味の耄碌ドワーフに成り下がるぞ?」

 「いうじゃねーか」


 弟子のうちの一人がランカスを止めようとしたが時すでに遅かった。

 ランカスの持つ槍が白く光り、ランカス自身も白く染まる。


 「仙人化とか貴様も奥の手ではないか」

 「煽った本人に言われてもな……」

 「良いではないか、俺達も現役を思い出して暴れようじゃないか」

 「ああ、魅力的すぎて笑えて来る」


 ランカスは上機嫌に白い槍を振り回す。呼応してシュッツの右目が青く染まり、左目は赤く染まった。『魔人の末裔』としての本領を発揮している。


 2人を止める者はもういない。迫りつつある師匠軍団に弟子たちを向かわせ2人は先制した彼ら彼女らの後を追う。


 1日目にして超級モンスターとの長期戦を無視した戦況になりつつあった。


 「ジロウ……」

 「却下だ、バカ大将」


 地図を眺めながら頭を抱えるジロウを部下たちは祈るように見ている。本陣もある意味強烈な戦いの真っただ中だった。


 その頃、超級モンスターに捕まったアユムは。


 「ぽっけから出して私を埋めるの! そうすれば皆を助けられるの!」


 ポケットから聞こえてくる明るい女性の声に戸惑っていた。

 尚こちらがブラックの仕込み3つ目である。


 「イックン。僕、幻聴が聞こえる」

 「幻聴やない。はよ、埋めんと不味いで。てかずっと、感じ慣れた聖なる波動がすると思ったらこの方の種だったとは……」


 イックンは部活の先輩に会う羽目になった後輩の様に震える声で言う。

 戸惑うアユムは、明るい声の種を自分たちを囲う肉の壁に埋め込んでみた。


 そして劇的な変化が起った。


~【あとがき!】~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 「がお(ここにきてしまった……)」


 はい、暗黒竜先輩の活躍コーナーです!!(パチパチパチ)


 さて、ダンジョンから抜け出してきた暗黒竜先輩! その眼前に広がるは黒いモンスターと戦う人間たち。モンスター達の背後に次々湧き上がる追加のモンスター達。


 「がお(えー。この流れで戦うのー。なんかやー)」

 「戦エ、黒豚」


 ナイトウさんの剣が少し深めに刺さる。


 「がお(ぐっ! いい感じだ! モチベーションもアゲアゲだよ!)」

 「デハ、私ハダンジョン二戻リマスネ」

 「がお(え、帰っちゃうの? 私の通訳として来てくれるんじゃ?)」

 「無理デス。ダンジョン内モ超級ノ屑ノセイデ、シッチャカメッチャカナンデス」


 目を潤ませてナイトウさんを見つめる暗黒竜先輩。


 「ハァ。翻訳ダケデスカラネ」

 「がお!(さんきゅー! いっくよー!!!)」


 暗黒竜先輩は結界を前方に展開し、ブースターを全開でふかしモンスター軍へ突撃する。

 結界に弾き飛ばされ粉々になるモンスター達。

 一周回って暗黒竜先輩が戻ってくると赤黒い肉片から、奴らが現れる。


 グラトニースライム。魔法を食べ、斬られるぐらいでは死なない難敵である。


 「がお!(美味い! もう一匹!!)」


 ゼリー感覚でズルズルいく暗黒竜先輩。

 赤黒い肉片は無限にグラトニースライムと魔法型を生み出し続ける。


 「がお!(食感を変えたい……そうだ! 必殺! 千刃おろし!)」


 暗黒竜先輩が爪を振り下ろすと千の刃がグラトニースライムを輪切りにしていく。


 「がお!(からの! 燕返し! 横バージョン!!)」


 輪切りにされたグラトニースライムがさらに横から斬られる。

 暗黒竜先輩は面のようにつるつるになったグラトニースライムを掴み口に流し込む。


 「がお!(このつるつるの食感! うまし!!)」

 「ソンナニ美味シイノデスカ?」


 「がお!(食べてみ!!! 行けるイケル!)」

 「……! オイシイ……」


 ナイトウさんからすると羊羹ほどだがかじると旨味、かみ砕いて喉を通すとツルツルの食感・喉ごしである。


 「おいしそうだね」


 いつの間にか近くに来ていたハインバングル。

 暗黒竜先輩が無言で差し出すグラトニースライム。


 ハインバングルは双剣でさらに細く切る。そして懐から取り出した箸でいただく。

 ハインバングルの手が止まる。


 「……美味い……。調味料を……」


 振り返り街に戻ろうとするハインバングルはオーノルに肩を掴まれる。泣きそうな顔でオーノルを見上げるハインバングル。


 「大人は仕事優先だね」

 「僕料理に……いえ、私はモンクなので頑張って戦います」


 その後ハインバングルは遠くからずるずる聞こえてくる音にストレスをためながらモンスターに立ち向かったのだった。


 「がお!(リッカの種砕いて振りかけたら更なる旨味! 飽きない! オイシイ!!)」

 「暗黒竜先輩カケスギ! 私ノ分ガナクナル!」


 戦してます?


 「がお(腹ごなしに一っ飛びしてくる!)」

 「ジャア、私ハダンジョンカラ香辛料取ッテキマス」

 「がお!(醤油希望!!)」


 うん。こんな感じでモンスター軍団はしばらく発生してすぐ食される運命となっていった。


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