第47話「エクササイズで魔法力あっぷ!1か月で貴方も大魔法使い!!」

 薄暗い小部屋。3人は顔を寄せている。


 「まずい事になったぞ……」


 招集した本人、ギュントルは暗い表情で呟く。

 魔法道具の照明ではなく古式ゆかしい燭台に蝋燭が3本、オレンジの薄明かりを灯している。

 ギュントルの顔がオレンジの薄明りで照らされると迫力がある。悪の組織幹部の様な威厳がある。


 「組合長。暑苦しいです。アユムに近付かないでください」


 この狭い部屋は魔法組合にいくつもある隠し部屋の一つで大人3人がやっと入れる部屋に大男のギュントルと小柄のチカリとアユムが押し込まれるように3人詰めこまれていた。

 そもそもが緊急避難用の非難部屋も兼ねている為、天井も低く狭い。そこに筋肉ダルマのギュントルがいるのでアユムとチカリは本当に狭い思いをしている。


 「なにが、まずい事なんですか?」


 アユムは早く帰りたかった。リンカー道場で初心者講習をお願いされており、準備をしたかった。


 「アユム。本気なの?」


 眉を寄せるチカリ。

 何の【本気】なの非常に気になったアユムだが、我慢した。突っ込んだら長くなりそうなので。


 「とにかく、魔法と言えば筋肉。筋肉と言えば魔法なのだ! なぜポッと出の道場などにこの三百年の歴史を誇る魔法組合が侮られなければならない!」

 「そうね、筋肉と言えば魔法なのに……あの、エクササイズなどで細マッチョとか最低限の筋肉とか……魔法関係ないじゃない!」


 ギュントルの言葉に大きく頷き、筋肉がついているように見えないロリであるチカリも吠える。……違和感が絶えないアユムである。


 「でも、健康のために最低限の筋肉を楽しくつけられるのは良い事だと……。あと湯屋も併設してますから気持ちいい施設ですよ」


 アユムはやり手姉弟子マナマス(半年後結婚予定)の笑顔を思い浮かべる。未来に夫をスポンサーに付けて女性に優しい道場を目指す彼女は輝いていた。そして改装された道場はこってこてにピンク等ではなく、木目と観葉植物がヒーリング効果を出しているような優しい空間になっていた。つい先日までの血と汗が染みこんでいた道場ではなかった。

 なのでアユムは、この後の初心者講習が少し楽しみだった。


 「……なんですって……あの、汗にまみれて気持ち悪いまま湯屋まで歩く。もしくは更衣室で魔法で温水出さなくても……すぐに他人の力でお湯に浸かれるだなんて……」


 立ち上がろうとしたチカリをギュントルが止める。


 「……………………どこに行く気だ………………」

 「………………にゅうか……………………敵情視察に行ってきます」


 睨み合う師弟。


 「こっちも個別の風呂導入するから……」

 「大浴場って気持ちいいですよね♪」


 アユムは空気を読まない。ペットは飼い主に似ると言うが、アームさんの性格はアユム由来なのかもしれない。


 「うちの馬鹿親父が課した修行も道場ならできるし……、汗臭い男どもの中でイライラしながらやるより女性の中でやった方が良いし……、よし、組合の女性陣連れて入会しよう!」

 「お風呂だけでも寄っていいらしいですよ♪」


 アユムは空気を読まない。いや、逆に読んで言ってるのかもしれない。


 「チカリ…………」


 捨て犬の様なギュントルがチカリを見つめる。決してロマンスは生まれない。

 哀れなものを見るような冷たい目のチカリが呟く。


 「組合長。セクハラです。魔法組合でのセクハラは死刑なのですが……、執行していいですか?」


 そっとギュントルの手が離れる。


 ゴーーーン


 魔法組合の業務終了時間である鐘がなる。

 黙ってチカリが出てゆく。

 ギュントルがアユムに眼を向けると、『すみません。予定がありますので』と軽く会釈をしてアユムも出ていった。


 ギュントルは薄暗い部屋で1人残されると、暗い気分になった。そして壁に手を当てる。


 カチッ


 スイッチオンと共に天井に強い魔法の光がともる。

 火事の元になる蝋燭を吹き消すとギュントルは唸る。


 「若者は難しいな………」


 そして腕組をして再度唸り、やがて胸元から手帳を取り出すと考え着いたアイディアを記載する。


 【謳い文句!:エクササイズで魔法力あっぷ!】


 その文字を眺めてギュントルは鷹揚に頷く。しかし数分考えて首をひねる。何か違う、または足りないらしい。


 【追記:1カ月で貴方も大魔法使い!!】


 誰に向かってか知らないが親指を立てるギュントル。でもそれって嘘だよね……。

 その後も1人考えにふけるギュントルは色々アイディアを出してゆくのだが、翌日出社したチカリにすべて却下される。


 「このチャンスに魔法使い志望者を増やさねば!!」

 「才能ない人誘ってどうする気か! 脳みそまで筋肉になったのか!!」


 この世界の人間であれば大なり小なり魔法が使える。しかし、攻撃や社会的に役に立つ魔法は才能に、適正によるところが大きい。なので【誰でも大魔法使い!】等、無理なのだ。


 ギュントルがこのように焦るのは事情があった。

 現在このコムエンドは10階層における35階層との貿易によって経済が沸いていた。それに伴い新規出店や、このコムエンドに夢を求めて移転する商人。他のダンジョンに行く予定だった冒険者等がコムエンドに移住してきている。

 多くの働き盛りの人間が移住するので、生活用品や娯楽についても多くの需要が生ま街が更に活気にあふれている。

 魔法組合だが、才能に重きを置く性質上この活気に乗り切れていない。それが組合長としてギュントルを焦らせ、そして駆り立てている。



 「今こそ筋肉魔法を主流にするチャンスなのだ! 筋肉信仰者を道場などに取られてたまるか!」


 ギュントルは組合長としての使命感に駆られている。


 「あの道場行き届いていましたよ。楽しくて気持ちいい汗かけました♪」

 「裏切り者!」


 大事な事なので二度言います。ギュントルは組合長としての使命感に駆られている。……はず。


 「それよりも組合長。本来の仕事……」

 「じゃ! 広場で勧誘してくr………ぐほっ!」


 二つに折れたギュントルは椅子に縛り付けられて仕事に励むのだった。

 組合長の事務仕事は大事な仕事だ。ギュントルは組合長としての使命感に駆られて書類に向かう。


 「覚えていろ………筋肉はふめ……つだ…………」


 …………すみません。訂正します。…………懲りて居られないようです。



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