第43話「暗黒竜先輩!」

 31階層への扉はオーク城の地下深くにあった。

 オーク城内には敵意はないが虚ろな瞳のオークたちがいた。アユムたちは彼らに見守られながら城を進む。


 「ボウ(アユム。あまり気にするな。そもそも我らモンスターは心無き者。魂無き者。俺やアームの様に自我を持てるのは望外の喜びなのだ。だから、その、自分を責めるような顔は…………やめなさい……)」


 そう言って権兵衛さんはアユムの頭に手をのせる。

 アームさんは無言で体をアユムに寄せる。


 照れながらもアユムはアームさんにゆっくり体を預ける。そしてアームさんは当然の様にアユムを背中に乗せて、そしてオーク城を進む。


 そして一向は31階層へと続く扉の前に到着する。

 近くなるにつれて気温が上昇しているような気がしていたが、ここに至りそれは確信となった。


 「31階層以降は灼熱のフィールドだ」


 ランカスが告げる。


 「行きましょう」


 アユムが短く告げる。

 重たい音をたて両開きの扉が開かれる。


 そしてそこにオレンジ色に輝くフロアが現れた。

 一見石畳のようだが高熱でオレンジ染まっていた。


 「アユム、マール……わかったか」


 オレンジの石畳を平然と歩く師匠達。アユムとマールの前に進み出ると腕組をして道をふさぐ。


 「釣りだなんだでって中途半端な思いでここから先に進めば、30分持たず死ぬぞ。悪い事は言わねえ、戻りな………」


 「ぎゃ(あ、こっちに階段ありまして……)」

 「ぎゃ(降りる所は快適だよー)」

 「ぎゃ(ジュースも持ってきてるの! 飲みながら降りるの!)」


 アユムたちはアームさんが構築した結界魔法の中で快適に進み、【また】モンスター専用通路を使って降りてゆく。


 「師匠ー。早くしないと置いていかれちゃいますよー」


 本来この30階層以降進む場合は、オーク城攻略戦で手に入れる『スキン』という習得難易度が非常に高い魔法を使い、環境適応術を高度に制御しながら進む。『スキン』とはその名の通り、術者の周囲に薄い膜をはり外部環境と術者の間に挟まり本来適用できない環境に冒険者を進ませるのだ。それでも気を抜くと焼死、術の使い方を間違うと凍死もあり得るのだが………。


 「がう(アユム、話くらい聞いてあげないと可哀そうだよ?)」

 「ボウ(正論だが、今課題を突き付けるのはちょっと………なぁ?)」


 しれっと結界魔法を使ったアームさんが師匠達に申し訳なさそうに言う。

 権兵衛さんは扉をくぐりながらあきれ気味である。


 「いくか………」

 「時代が変わったのか……のう……」

 「いや、きっといずれ必要になる。必要性が見えただろうから今度教えよう。それでよいではないか」


 トボトボとアユムたちに続くランカス、シュッツ、ギュントル。

 考えは悪く無いが相手が悪かったと思います。

 何分広いフロアを管理する階層主を含むダンジョンモンスターたちですので……。


 あっさりと35階層まで降りると、また両開きの巨大な扉がアユムたちを待ち構えていた。


 「がお(粗茶ですが……)」


 巨大な暗黒竜が小さなカップに紅茶を淹れて一人一人配る。

 現状を説明しよう。


 ワインレッド一色で作られた石造りの巨大神殿。全長6mの暗黒竜が住む神殿なのでスケールがけた違いに大きい。

 その神殿の真ん中に巨大なちゃぶ台がある。

 そしてアユムたちはナイトドラゴンたちに連れられてちゃぶ台の上に上がり、ちゃぶ台の上に置かれた小さなちゃぶ台の前に座る。そしてお茶を振る舞われた。さりげなく地上の銘柄を伝えるあたり意外と女子力の高い暗黒竜である。


 「突然の訪問。すみません。これはつまらないものですが…………」


 背負ってきたダンジョン作物詰め合わせを差し出すアユム。

 暗黒竜はそっと受け取り脇に置く。頬が歪んでいるのだが平静を保つ。


 「がお(ありがとうございます。後ほどおいしく頂かせていただきます。……では改めまして、私がこの階層の主。暗黒竜と申します)」

 「15階層で農家してます、アユムです。」


 お互いに礼を尽くす。

 そしてここまで案内してくれたナイトドラゴン達も暗黒竜に並ぶ。

 アユムに向かって左から、赤い鎧を身にまとったナイトドラゴン。


 「ぎゃ(ドラゴンレッドです。今後ともよろしく)」


 次に青い鎧を身にまとったナイトドラゴン。


 「ぎゃ(ドラゴンブルーと申します。よろしくお願い致します)」


 最後に黄色い鎧を身にまとったナイトドラゴン。


 「ぎゃ(ドラゴンイエローだよ! よろしくね!)」


 そこで暗黒竜が思い切り息を吸い込む、師匠たちは油断なく戦闘態勢に入っている。


 「我ら4人そろって! ……(長くなったので省略)」


 暗黒竜一派が行った一発芸で場が和んだようで、その後時間を忘れて歓談が続いた。

 特にアユムがダンジョン作物の種について聞くと色々知らない作物の情報をが出てきた。


 「どうしよう。33階層に戻りたい………」


 アユムがポツリと漏らした。……すっかり36階層は忘れてしまっている様子。


 「あ、そろそろ夕方なのでお暇させて頂きますね」

 「がお(じゃ、あのエレベータ使って帰ったら?)」


 そう言って物資搬出用のエレベータを指す暗黒竜。


 「ありがとうございます! また来ますね!」


 笑顔で帰ってゆくアユム一行。


 「ランカスよ。時代が変わったな」

 「シュッツよ。時代のせいにはできないぞ」


 英雄級冒険者100人パーティでも苦戦した暗黒竜とナイトドラゴンの階層、35階層。

 激戦の思い出を胸にやってきた二人だったが、過去の想いではあっさりと塗り潰された。


 そう、あの4人が見せた一発芸に……。


 「とりあえず。スキンの魔法はしっかり覚えさせよう」

 「ああ、何か悪い予感がするしな……」


 こうして10階層に戻ったアユム一行は更にイックンからお土産をもらって15階層に帰っていった。


 「今度はわしもさそってな!」


 アユムを主と認めた神剣イクス。すっかり忘れられているがイックンの本来の役割は神剣使いを守ることである。


 「ええな、新しい階層! おもしろそやな!」


 本人も忘れられているらしい……。

 ・・・

 ・・

 ・


 ここま読んでいただきありがとうございます。

 では後書きという名の本編です。


題「暗黒竜先輩たちの、明日はどっちだ!」~~~~


暗黒竜先輩「がお(見た? あの華麗な暗黒竜戦隊!)」

ドラゴンレッド「ぎゃ(レッドの可憐さに今後注目!)」

ドラゴンブルー「ぎゃ(ブルーのおしとやかさにもご注目を……)」

ドラゴンイエロー「ぎゃ(それよりもご飯たべよ? なの)」


 すみません。その部分カットしました。


ドラゴン全員「「「「あ゛? 正気か?」」」」


 すみません。時間と文字数の関係上……。

(いや、ただめんどくさいかっただけだし。ダンジョンマスターの悪影響受けすぎだよ?)


ドラゴンレッド「ぎゃ!(暗黒竜指令! これから地上に行ってアピールしてきていいですか!)」

ドラゴンブルー「ぎゃ(さりげなく人間を助けて、暗黒竜戦隊をアピールを! ……そしてこのフリル満載の鎧を見せつけましょう!)」

ドラゴンイエロー「ぎゃ!(地上よりごはんなの! ごーはーんーなの!)」

暗黒竜先輩「がお(ダメだ。だってお前ら階層管理の仕事があるだろ?(あとそんな美味しい目お前らだけなんて……))」


謎の仮面の淑女DM「お困りの様ね……」

暗黒竜先輩「がお(おかあさm………ぐほぉ! 相変わらず、鋭い一撃に脊椎から快感が……(*´Д`)ハァハァ))」


ドラゴンレッド「(またあの病気だ)」

ドラゴンブルー「(またあの病気ですね。アレが無ければ良いお姉さまなのですが)」

ドラゴンイエロー「(病気という事は病人食なの! 薄味なの! お姉さま可哀そうなの……)」


謎の仮面の淑女DM「さて……」


 もだえる暗黒竜先輩がうっとおしいので、もう一撃見舞う謎の仮面の淑女DM。


謎の仮面の淑女DM「正義に燃える皆にここで朗報よ!」


ドラゴンレッド「(あ、超嫌な予感する)」

ドラゴンブルー「(お母様ですからね……)」

ドラゴンイエロー「(団子、団子、団子~団子さん・・・なぜだか言ってはいけない気がするの)」


謎の仮面の淑女DM「辞令 ドラゴンレッドに人食いダンジョン討伐任務を命ずる!」

ドラゴンレッド「ぎゃ(えーーーー)」

ドラゴンブルー「ぎゃ(レッドだけですよね……)」

ドラゴンイエロー「ぎゃ(レッドお外のご飯は激マズなの、でも望んでたことだしガンバなの!)」


謎の仮面の淑女DM「さぁ、いくわよ! もうダンジョン組合から選抜されたマスターや天使たちが待ってるから」

ドラゴンレッド「ぎゃ!(ちょっまって。そんな格上の方々と一緒なんですか?)」


謎の仮面の淑女DM「そうよ名誉あることでしょ? ちょっと事情があってね。早急にみんなの戦力を整える必要ができたんだけど、私は新設ダンジョンのほうが忙しくて♪」

ドラゴンレッド「ぎゃ!(嫌です! あ、引きずられる! 拒否権! 知性に目覚めたらモンスターにも人権を!!)」


謎の仮面の淑女DM「そんなにうれしいのかしら♪」

ドラゴンレッド「ぎゃ!(外道! 聞こえてない事にしてる! この組織ブラックだ!)」


ブラック「呼びました?」


暗黒竜先輩「がお(呼んでないよ)」

ドラゴンレッド「ぎゃ(呼んでません)」

ドラゴンブルー「ぎゃ(お呼びしてません……)」

ドラゴンイエロー「ぎゃ(呼んでないの)」

謎の仮面の淑女DM「お呼びしてませんけど、サインください! あと良ければ写真も……お団子食べます?」


ブラック「わーい、団子なのです! 美味しいのです!」

謎の仮面の淑女DM「(*´Д`)ハァハァ。やっべ、会員になって2年! ついに悲願達成! 撫でてもいいかな……」

ブラック「……お饅頭じゃないですか! いいのです好きに撫でるといいのです!」


ドラゴンレッド「ぎゃ(この隙に逃げられ………ない。いつの間にか隷属の首輪がハマってる……)」

暗黒竜先輩「がお(うらやましい………私も行ってもいいですか? 謎の仮面の淑女DM様)」

謎の仮面の淑女DM「(*´Д`)ハァハァ……ん? 何か言いましたか? フロアニートがフロア外に行く? 大きさ的にむりです」

ブラック「お困りのようですね……。そんな時は手術なのです! 大丈夫なのです。寝て起きたら新しい自分! なのです」

暗黒竜先輩「がお(え? それはちょっと嫌です………って。拒否権! 知性に目覚めたらモンスターにも人権を!! ああ、幼児に引き摺られるこの感覚も悪くない! むしろいい!!)」


 暗黒竜先輩の明日はどっちだ!!


ブラック「撲殺天使~♪」


 うん。ここも次の中継でつなぎたくないです。(切実)


(終わり)

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