第42話「挑む?」
とりあえずだがアユム達、魚釣りツアーズは権兵衛さんの帰宅についてゆくことにした。
正直31階層以降の環境に耐えられないとほぼ確信している、ランカスたち師匠達も遠足気分で着いてくる。
「キュウ(アユム! 僕も付いて行く! そして見せてあげるよ。このとうきびエリートが畑で手にした筋肉を!)」
すっかり農業アルバイトと化していたタヌキチが意気揚々と先頭をあるく。
タヌキチ君は本来の目的を忘れているようだ。
「じゃ、出発しまーす。イックンと ナイトウさん あとお願いしますね」
アユムはそう言うとイックンはイカ人間形態でサムズアップ。ナイトウさんはそんなイックンと距離を開けワームさんの同種2人の後ろに隠れ影から手を振る。どうにもまだ初対面の人間が怖いようです。……というかイックン人間扱いなのか。そこもびっくり。
さて、2回目の16階層を迎えてアユムたちは再び空輸される。
一方、師匠達とタヌキチは……。
「アームさんに負けぬ!」
「キュウ!(見ろ! この鍛え抜かれた大腿四頭筋を!)」
「なんだ………ライバルが登場した気がするぞ!」
無音の断罪者リンカー、とうきびエリートタヌキチ、筋肉魔法師ギュントル。
ちなみに、槍の名手ランカス、剣の名手シュッツ、見習い料理人マール、荷物運びサントスはアームさん第2便で運ばれる予定だ。
「がう!(時間かかる!)」
と言っても数分が10分に変わっただけなのでいつも通勤してる人たちから言わせると。
「「「ボウ・ボフ・ボッ(チョーはえー!)」」」
そして今日も16階層はそんな感じで過ぎてゆく。
「……アームさんに勝てない……」
「キュウ(師匠のその美しい筋肉をもってしても陸送と空輸ではここまで差があるのか……)」
「……ふむ、私も付いてきているのだが。私の筋肉への称賛はないのかね?」
悔しがってはいるが迷宮化しいる森を高速で抜けてくるために、木々の壁を飛び越える、壁を破砕する、壁を魔法で焼き払う、などリンカーたちの所業も大概規格外である。
同様に駆け抜けた17階層そして、同じく18階層も進もうとしたところ、ナイトドラゴンが3体迎えに来た。差し出されたダンジョンマスターの手紙にはこう書かれていた。
『もうこれ以上、壊せないはずのものを壊さないで。お願い。 ダンジョンマスター』
こうして18階層からリンカー、タヌキチ、ギュントルの3人も大人しく空輸されることとなった。
20階層につくとムフルの森から むうさん が出迎えてくれる。
ムフルの樹液から加工されたジャムをご馳走になり、アユムはしばし農業指導をする。
「全体に薄味ではあるがほのかに甘味があるな……。中々の進歩だ」
「うむ、我らが育てると苦みしか出ないからな」
ランカスとシュッツは懐からパンを取り出すとムフルの樹液から加工されたジャムを塗り、食を楽しむ。2人が周りを見回すとマールとサントスは腰を下ろし息も絶え絶えだった。慣れぬ空輸の所為かバテている様だ。
権兵衛さんとジェネラルオークはアユムの手伝いをしている。
ワームさんは19階層方面を見つめながら気が気では無い様子。
青春しているワームさんの横ではリンカー、タヌキチ、ギュントルは筋肉談議に花を咲かせている。
『なんでタヌキチと意思の疎通が?』と思ったランカスだが、趣味の仲間とは通じ合った。それは理屈ではない。つまり考えるだけ時間の無駄、という事である。
程なくしてアユムが戻ってくる。どうやら順調に技術習得していたらしくホクホク顔だ。
こうしてムウさん達に見送られながらアユム達は21階層へ降りてゆくのだった。
「本来は広い森の中に潜むフロアボスとその配下の獣との緊張感のある戦闘の場だったはずだが………」
「ああ、地形効果や木々なんか気を配って戦闘する難しい階層、正攻法が通じないと痛感させられるフロアのはずなんだがな………」
ランカスとシュッツは昔を懐かしみつつも、この『森のくまさん』フロアを全力で見なかったことにしようとした。
21階層に下りるとそこは一面傾斜のきつい下り坂だった。
壁は依然として木だ。
このフロアは下り坂、上り坂の戦闘を強制される。慣れぬ環境で幾人もの高位冒険者が命を落としたフロアだ。ここも空輸です。
「ボウ(一番下までいってくれ)」
権兵衛さんの指示に従いフロアの最下部へ移動する一行。
ランカス、シュッツなど攻略済みの冒険者たちは首を傾げる。
「ボウ(ここ魔法力認証で……)」
権兵衛さんが壁に手を当てると壁が横にスライドする。愕然とする師匠達。そんな彼らの前に階段が現れる。
本来21階層から25階層までは坂道のフロアで、次の階層に行くには横穴や木の根本にカモフラージュされたくだり会談を発見しながら通っていかなければならないのだが……。
「「「ボウ・ボフ(ショートカットしなければ毎日来るのきついし)」」」
ごもっともですが……、ご老人たちの思い出を崩さないで差し上げて……。
完全に無言になったランカスとシュッツを連れ一行は長い階段を下る。そしてついにアユムたちは30階層に到着する。
ここも20階層同様に大きな両開きの扉が設置され、その前には大き目のホールがある。
ランカスとシュッツが挑んだ時は誰もいなかったのだが、現在オークの兵士が配置されている。
よく見るとホールの端には兵士の詰め所があり中で談笑しているオークが見える。
「ボウ(外交を担うここの奴等には優先してダンジョン作物を与えている)」
「ボフ!(王よ、お帰りなさいませ! そちらがアユム様ですね。お会いしとうございました。握手頂いても?)」
そう言うと門番のオークは槍をそっと脇に置いて想像以上の速さで近寄ってくる。差し出された門番のオークの手を取り握手を返すアユム。
「ボフ!(やったー! これで詰所の連中に自慢できる!!)」
単なるミーハーな兄ちゃんであった。
そんな光景に権兵衛さんは苦笑いを浮かべながらアユムたちに警告する。
「ボウ(これより先のオークはダンジョン作物を食しておらん。というか食べてはいるがアユムのダンジョン作物のような効果が出ていない。なので俺や配下の者から離れぬようにな……王城までたどり着けば……、心配無用のはずだ……)」
その言葉と共に巨大な両開きの扉が重い音を立てながら開かれた。
そこには5階層分の天井を貫いた巨大なフロアがあった。
中心にそびえる白亜の城は芸術的な光景だった。そして城の下広がる城下町の光景はここがどこの国の王都かと勘違いするほどの光景だった。
本来であれば、軍団規模の都市戦闘がここから開始される。……のだが、アユムたちには王たる権兵衛さんが一緒にいるため戦闘は発生しない。
しかし完全に安全かというとそうでもない。アユムたちは城へ進む途中で会うオーク全てに殺気を向けられていた。
それは彼らの存在意義であり、それがダンジョンモンスターである。
魂のない生物。自我のない生物。与えられた役割、滅びるの為にある生物。
それがダンジョンモンスターだった。
アユムはダンジョンマスターへのおねだりにこのフロアとの直通便を考えながら城へと向かう。
そしてこの後、31階層の光景を目にして挑むか否かを判断することとなる。
オークの城に入るまでアユムは31階層について全く考えていなかった。
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