第38.5話「諦めないタヌキ、筋肉との遭遇」

 タヌキチは思った、何が悪かったのだろうか? 自分は完璧に愛くるしい狸なはず。と。

 根本的なところで害獣たるタヌキが嫌いなだけのアユム。


 しかしそれを知らないタヌキチは自分の愛くるしさを磨き上げることにした。そこで14階層を回る。自らの愛らしさを証明する相手を探して。


 すると走った先で宝箱を見つけた。


 「キャウ(らっきー! 宝箱……Σ(゜□゜;)、この手だとあけられない………)」


 宝箱を前に行ったり来たりするタヌキチ。諦めかけてタヌキチはふっと思った。

 宝箱の中身をもっていけば、きっとアユムは自分を受け入れてくれるのでないか。


―――タヌキチの妄想・開始

 「キャウ(これ……ひろった……)」


 タヌキチの手からぶっきらぼうに差し出される宝石。


 「タヌキチ君! これを僕の為に!」


 潤んだ瞳でタヌキチを見つめるアユム。


 「キャウ(違う、タヌキには必要のないものだから……別に君の笑顔が見たいとか……そんな事じゃねーし)」


 感極まって抱きつくアユム。遠目で眺めている駄猫からは嫉妬のまなざしだ。


 「大好き♪ タヌキチ君」

 「キャウ(よせやい…………、いや…………僕も……大好きだよ……)」


 こうして二人は仲良しになりました。


 (純愛劇場タヌキチ 肝じゃなくて、完)

―――タヌキチの妄想・終了


 このタヌキ元人間とか言っておきながらアユムの性別すら判断ついていない。

 アユムは可愛らしくても男の娘……じゃなくて、男の子だ。

 奇麗どころのお姉さまにめっぽう弱い男の子だ。

 このタヌキの描写だと、まるでボーイッシュな女の子じゃないですか。


 何処からか『それもありだな……』とか聞こえるが幻聴です。


 さて、そんな妄想垂れ流しでニヤけるタヌキチ君ですが、宝箱は空いてくれません。

 ですので、タヌキチ君は実力行使することにしました。


 「キャウ(燃え上がれ! 僕の尻尾……)」


 タヌキチの尻尾に魔法力が宿り短い尻尾の先に炎の剣が生える。

 そしてタヌキチは横に振るのではなく縦に叩きつけるように宝箱を切り裂く。


 宝箱の向かって右側を切り裂く。こうすれば横から中身を取り出せる。

 

 そう、タヌキチは跳ねるように宝箱の横に向かう。


 目があった……。

 ……宝箱の中身と目があいました。


 「キャウ(ミミックやん!!!!!!!!)」


 飛びのいて逃げ出すタヌキチ。

 影から本体がせり出し、2mぐらいのモンスター頭の部分に小さな宝箱が現れる。

 宝箱から垣間見られる瞳は怒りを讃えている。


 「キャウ(追ってくんな! こわい! きもい! 四本足で這いずるとかどこのバイオハザードだ! あ、もしかしてゾンビ系なのか! 僕無理! ホラー無理!)」


 必死に逃げるタヌキチ。とっさに15階層に向かおうと思ったが迷惑をかけたら鍋直行だと思い進路を変更する。そこで遭遇してしまう。骨3体。


 14階層の骨。ソードボーンと呼ばれる戦士型のスケルトンだ。

 かまわず突っ切るタヌキチ。

 モンスター(ミミック)とタヌキ(?)とモンスター(骨)の遭遇である。3つ巴となるか……。はたまた骨とミミックのモンスター大戦争になるか!

 ……しかし、タヌキチは知らなかった。ダンジョンモンスターは人間相手にしか反応しない事を……。つまり……。


 「キャウ!(なんで仲良く追ってくるんだよ! なんだホラーか! ホラー出演者組合でもあるのか! だから仲良しなのか! 畜生! ……いや違う!! 僕がこんなにプリティーだから追われるのか! くっそ! かわいい自分がうらめしいぜ!!)」


 意外と余裕な狸である。

 なぜならばというと、曲がりくねったダンジョンでモンスター達を結構な距離突き放したからだ。

 タヌキチは口笛を吹きながらダンジョンを駆ける。

 右に曲がって天罰が下った。


 ……行き止まりである。


 「キャウ……(なん……だと……)」


 愕然とするタヌキチ。そっと後ろを振り返る。


 笑顔のミミック。

 そして笑顔のソードボーン×3。


 仲良し4匹が思い思いの得物を打ち鳴らしてタヌキチをパーティに誘おうとしていた。

 そうきっとこれは狸鍋パーティーだ。タヌキチは主役メインディッシュである。やったね♪


 「キャウ(あ、そーいえば。約束があった! ごめ~~ん。またね! じゃ!)」


 現実逃避と変な演技で逃げ出そうとしたタヌキチ。


 【モンスターに回り込まれた! タヌキチは逃げられない。】


 「キャウ(ん? 狸だって? そういや折り返してあっち走っていったな……。そうあっちだよ。兄さん方………)」


 現実逃避と変な演技パート2でモンスターの視線を誘導して逃げ出そうとしたタヌキチ。

 

 【モンスターはじっとタヌキチを見つめている。 タヌキチは逃げられない。】

 

 「キャウ!(くそ! 集団になったら強気か! この集団心理に飲み込まれた弱虫共め! 僕がいなくなったら次は君だ! そうなってからじゃ遅いんだ! もうそろそろ集団心理から抜け出して、個性を見せれくれよ! 大人になるんだ! そして自分の行為を見つめ直せ! あとで恥ずかしい思いをするのは君だよ……。大人になりなよ……)」 


 初めにミミック単体で喧嘩売ったのタヌキチの方なんだが………。彼は自分をかえりみない!

 そう! かえりみていたら……、ここにはいない!


 「キャウ……(きれちまったぜ……お前ら僕が平和的に解決しようとしていたのに……、それを無駄にするんだな……)」


 タヌキチはそれだけ言うと再び尻尾に魔法剣を宿す。

 睨み合う4匹のモンスターとタヌキチ。先に動いたのはタヌキチ。空高く飛び上がり尻尾一閃でミミックの頭をたたき割る。飛び散る血肉。タヌキチは大地に降り立ったところ、その血肉に足を取られる。

 つまり着地で血に滑って転んだのだ。

 そのタヌキチを待っていたのはソードボーンの剣3本。


 立ち上がるが時すでに遅し、迫りくる剣に絶体絶命の状況を認識するタヌキチ。

 終わったと。タヌキチながらに覚悟を決める。


 「あっぱれな狸。故に助太刀しよう!」


 爆発が起こる。飛び散る骨。そして爆風に呑まれるタヌキチ。


 タヌキチはケホケホと吸い込んだ煙を吐き出しながらその姿を目に刻む。


 「見ろ、我が筋肉を!」


 サイドチェストのポーズで筋肉アピールのギュントル。

 そして……。


 「狸よ。よそ見とは余裕だな」


 真上から聞こえる声。そして何にかを砕く音。

 リンカーの拳がソードボーンを粉砕する。

 一撃一撃確実にソードボーンのを粉砕し、そしてその太い二の腕と格闘家の締まった体がタヌキチの視界に映り込む。


 「キャウ……(美しい……)」


 タヌキチはその言葉しか思い浮かばなかった。

 そして次の瞬間足にしがみついてリンカーに乞う。


 「キャウ!(弟子に! 弟子にしてください!! 師匠)」


 タヌキチ。

 彼の人生の分岐点がここで訪れた。この瞬間、タヌキチははっきりと認識したのだった。


 「キャウ(俺もその実用的な美しい筋肉を手に入れたいんです!! 師匠)」


 ……いや、タヌキだから君……。

 人間と体の構造違うから!


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