第32話「10階層を開拓せよ!3」
「おっ! ちょっと来い! すごいのが乗ってるぞ!!」
輸出用エレベータが戻ってきたので当日の当番であるジロウが扉を開け、食糧を送ろうとした時の事である。
扉の中にはリザルドラゴンと呼ばれる緋色の巨大トカゲが5体積まれていた。
そして手紙が一通。
『地上のみんな! みんなのアイドル暗黒竜だ~ぞ♪
食料ありがとう! 素材そのままも美味しかったけど黄色の甘味は最高だ!
おかげでなぜだかこの35階層である火炎宮殿に母上がいます…………プレッシャーがパないです。
そこでみんなにお願いがあります! 母上の為にお茶とお酒を。特にお酒を欲しておりました。ぜひ明日でいいので送ってください。ちなみにお代替わりに価値のありそうなトカゲをお送りします。この地方では価値があるらしいのでお酒購入の足しにしてください。
では、また食べ物期待してます!
追伸:うちの人型の女の子たちがカッコイイよくて可愛い衣装を欲しています。成人女性の平均ぐらいの身の丈なのでなんとなく都合してほしいかな~できれば統一感をもってくれると最高です!
追伸の追伸:明日の朝、11階層側に大規模改修工事が入ります。そして守護モンスターを配置するらしいので餌付け忘れずにお願いします!
貴方の心にいつも暗黒を、まだ名前はない暗黒竜 より』
暗黒竜。全長8mと比較的小さい竜種。目に入った動くものすべて食料。食べる必要はないが肉の感触を楽しむ。残虐で好戦的な性格。吐くブレスは防御しても精神的な影響を与える。大陸中央部に住む凶悪なモンスター。
『みんなのアイドル暗黒竜だ~ぞ♪』
丸文字だった。大きな手で小さな紙とペンをもって必死に書いていた姿が浮かぶ。代筆ではない。何故そんなことをしたのか? 暇でありかつダンジョンマスターのプレッシャーが怖かったので現実逃避だ。
「とりあえず、素材だ! ばらすぞ!」
元冒険者の師匠たちは浮かれながらリザルトドラゴンを運び出す。
そのあとアユムたち弟子たちが現れて運搬用の床を掃除する。
そして準備していた食料品を積み込んでゆく。
まずは生で好評を得たバルリという黄色い蜂の巣の様な人間の頭大の植物が満載された木箱を積み込む。そしてダンジョンマスターが気に入ったという、お菓子が詰まった木箱も積み込まれていく。最後に芋の入った袋を入れて扉を閉じると、ゴーンという鐘の音がフロアに響く。輸出完了だ。
「お前らこっちも手伝ってくれ!」
料理加工工場というレンガ造りの立派な建物からハインバルグが出てくる。手に持っているのは大きな芋つぶし器だ。
黄色の甘味の大量生産中だ。
結局10層で作られるダンジョン作物は2種類で決まった。
1つ目はバルリとよばれる黄色い蜂の巣の様な、人間の頭大の植物である。これは表面が砂糖と同じように上品な甘みを醸し出すので、表面は軽く洗ったうえで乾燥させて細かくつぶす。すると黄色の甘味の表面部分になる。内部は種を取り出してもう一つの植物と練り込む。
2つ目の植物はビビジルトと呼ばれる芋だ。これは皮をむき茹でたうえでバルリの身と混ぜ合わせると粘性が出る。これを丸めてゆでるとまるで団子の様なものが出来上がる。
最後に団子にバルリの表面を砕いた粉を振りかけると黄色の甘味になる。
これは初め表面の黄色い甘味と軽く硬さを与え、すぐに団子の柔らかい食感が襲う。もちろん団子も無味ではなくビビジルトの風味が口の中にあふれかえる。お茶が必要なお菓子だ。
それを今この大きな建物に料理人好き冒険者が10名詰めて作成していた。
「この菓子出来がいいから地上にも売り出したいな……」
ハインバルグの独り言である。
「よし、事件が終わったら展開を考えよう……」
その瞳は商売人の瞳だった。
翌日。
酒とお茶の葉を大量に積み込んだ荷車を押して早朝に師匠たちが戻ってくると、11階層側に見事に川ができていた。それもそこそこの川幅である。
アユムが無警戒に近付いて行くと2m級の巨大イカが水面から現れる。
アユムが手に持つのはビビジルト(芋)。
もちろんアユムの後ろにはにらみを効かせるアームさんがいる。
アユムがビビジルトを右に移動させるとイカもそちらへ、左に持っていくとイカもそちらへ。
我が意を得たりと笑顔のアユムは、ビビジルトをイカに放り投げる。すると待ってましたとばかりにイカはそれをキャッチし口に放り込む。
「まいうーーーーーー!!」
人間の言葉をしゃべった。モンスターなのに!!
「さすがや! 作られたときに聞かされた話し、ほんまやったんや! もうあのねーさんボケたかと思たわ」
『ねぇ聞いてよ奥さん』とばかりに足をうねうね動かすイカ。
「あれ、死のイカだよな……」
「ああ、どこのダンジョンだったか最終フロアのボスやってた聞いてるぞ…」
イカ。大物でした。
「名前つけてもいい?」
「おお、わしに名前もらえるんでっか。サンキューです。いい名前付けてや~」
アユムは黄色の甘味を手渡すと顎に指を当て一瞬悩んで手を打つ。
「イックン!」
アユム。イカクンのあまり略してない名前じゃ?
「なっなんじゃこりゃ! 美味い美味いぞ!!!! ん?名前、おお、イックンか、気に入ったで! ところでもう一個もらえる? お茶? 熱い水? どんとこいやで!」
その後大量に黄色い甘味を食べたところでイックンの頭に手紙が来た。
『それ以上食ったら殺すぞゲソ野郎……』
ダンジョンマスターはお酒をお待ちの様でした。
「こんにちは、わしイックン言います。ちなみにこの川36階層の海領域につながってるらしいんですわ。たまにいなくなるかもですが、戻ってきたら土産持ってくるんで許してください。みなさんよろしゅう!」
陽気に手を挙げるイカはあっという間に10階層になじんだのだった。
てか、ボディーガード用に配置されたのに出かけるとか、お前の存在意義どこ行った!!!! イックン!
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