第31話「暗黒竜先輩頑張る」
35層に一匹のドラゴンがいる。
巨大な体躯で普段は管理フロアに出られない。
つまりニート……ごほごほ、いや暇である。
特に6階層以降に冒険者が来ないこのダンジョンにおいては、狂った配下のモンスターを討伐するのが他のフロアボスたちの仕事であったりするのだが、このドラゴンに関しては体が大きすぎてできない。
それでもフロア管理は配下の3体のナイトドラゴン、人型に近い強力なモンスターが狩ってくれる。このドラゴンの仕事は、彼らが狂いそうになった時に討伐するぐらいである。
なので、このドラゴンはとにかく暇だった。
ある時は通りがかったダンジョンマスターに喧嘩を売ってみたが、睨まれただけで体が動かなくなり、次回以降土下座でお見送りが決定事項となった。
その際だったが、ダンジョンマスターが気まぐれに赤い果実をドラゴンに食べさせる。ドラゴンはここで不安定な意識を持つ。
「がお(母上、おかわり♪)」
愛らしい表情で言ってみたが見事にスルーされた。
「がお(今度は上目遣いを混ぜてみるか……)」
違うと思う。その努力の方向性間違っている。
さて、自我を得た意識すら乏しいドラゴンだったが、これは彼女にとって大いなる悲劇だった。
「がおがおがお(暇だ暇だ暇だ~~~~~~。冒険者来ないかな……冒険者来たらどうおもてなししたらいいと思う?)」
配下の2体のナイトドラゴンは自我がないので無反応である。なのでついイラっと来たドラゴン。
「がお(無視って、なんでやねん!)」
軽くツッコミを入れると1体のナイトドラゴンさんは壁の染みになった。
「……がお(みっ見なかった。皆見なかった!)」
バッチリ確認してます。
「がお(何卒、何卒母上にはご内密に!)」
おっし、お前今日から俺の犬な。
「がお(黙っててくれるのであればなんでもします!何でも……強制的な命令‥…抗えない私……むしろゾワゾワしていい感じ!!)」
やば、ドラゴンさんの変なスイッチを押してしまった。とりあえず用はないのでこちらに絡まない様に。
「がお(了解しました! これが噂に聞く放置プレイ! ってやつですねご主人様! ……はぁはぁ)」
そんなこんなでドラゴンは暇を持て余していた。
そこに上層から一匹のジェネラルオークが下りてきた。
「がお(なんだはぐれモンスターか、上層のエンペラーオークは何をしている…)」
苛立つドラゴンだがジェネラルオークが抱える看板を見て心を落ち着かせる。
『ダンジョンマスター様からの指示有』
「がお(連れてこい)」
ナイトドラゴンに連れられ前進すジェネラルオークは、背負い籠を降ろし、その上に手紙を添えて数歩下がる。ドラゴンはその様子を確認すると手紙を読む。内容は割愛する(前話参照!)。
「がお(これが噂のダンジョン作物か……)」
「ボオ(然り、お納めください。強く美しい暗黒竜様)」
鷹揚にうなずくドラゴンこと暗黒竜。『美しい』と軽く褒められると彼女はこっそり尻尾を揺らす。チョロ。
「がお(辛辣なご主人さまも……)」
うん。見なかったことにしよう。そうジェネラルオークは思った。そしてゆっくりと立ち上がり去ってゆく。
「がお(お前ら一本づつ食すとよい)」
壁の染みになったナイトドラゴンさんが復活して3体に戻ったナイトドラゴンは、1本づつアユム産のトウモロコシを食べる。皮ごと食べたので顔をしかめるが、2口目は皮とヒゲを取り除き食べる。
全て食べ終わり芯もがぶがぶと頂く。そしてトウモロコシがなくなったことに気付き3体とも愕然とする。そしてゆっくりと暗黒竜を見上げ口を開く。
「「「ぎゃ(もう一本いいでしょうか?)」」」
ズリズリとすり足で籠に近寄りながら伺う。暗黒竜は思った。自分も似た反応したな、と。そして自分はもらえなかった。なのにこの子たちはもらおうとしている。
「……」
無言で見つめ合う暗黒竜と3体のナイトドラゴンさん。
ニコリと暗黒竜が笑う。ナイトドラゴンさん達は歓喜の表情であがめるように祈ろうとした所。
「がお(ダメ。母上のお手紙読んでみなさい)」
そう言って首を振る。
絶望に染まるナイトドラゴンさん達を満足気に眺める暗黒竜は語る。
「がお(よく読みなさい。お代わりが上の階層からやってくるって書いてあるでしょ!)」
翌日35層に見慣れない扉ができた。
期待に満ちた瞳を向ける暗黒竜とナイトドラゴンさん達。
1日経過。来ない。
「ぎゃ(1号です。強そうなモンスターに作物を食べさせてきました2号と3号が現在調教……もとい教育中です! ……して、暗黒竜様。お代わりは……)」
「がお(天の恵みはいつ賜るかしれぬ。我ら小さき者どもは天のご意志を待つまでよ)」
2日経過。来ない。
「ぎゃ(来ませんね。天は我らを見放したのでしょうか……)」
「がお(そんな事は、信じて待つの! それが(放置プレイの)基本!!)」
3日経過。来ない。
「ぎゃ(我ら! 暗黒竜親衛隊!!!)」
「がお(2号腕の角度が下がってる! 3号貴方その足は何! 1号ふらつかない! 登場シーンの決めポーズでふらついてどうするの!! やりなおし!もう一回)」
「「「ぎゃ!(はい! 先生!!)」」」
4日目にアユムの試作作物が来るのだが暗黒竜とナイトドラゴンさん達はそれに気づかずポーズ練習を続けるのであった。
仕事はどうしたの?
あ、うん。重要な練習中。はい、失礼しました。
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