第30話「10階層を開拓せよ!2」

 「うーん。これは病気ですね…」


 10階層に付いたアユムがダンジョン作物に触ると渋い顔で言う。


 「いや、それぐらい俺たちにもわかるんだが……というかそんなことがあるのか? 悪環境に植えてもすぐに実りがあるダンジョン作物だろ……」


 思わず突っ込を入れるランカス師匠だが、はっと気づいて口を塞ぐ。

 そう、3日間もアユムをのけ者にしたのが先ほどばれてアユム静かに激昂中であった。


 「家の地方では根腐れって呼んでます。ここの土地、湿気が強くて温度も高いし水はけも悪そうですからね……たぶん植物が呼吸できないで死んじゃってるですね……ダンジョン作物と言えど結局は植物ですからね……」


 アユムは植えられているトウモロコシの茎を一本づつ触りながら寂しそうに言う。

 師匠ズと権兵衛さんはアユムに気遣ってダンジョンマスターとの作戦を実行した。だが結果このざまだ。そもそも15階層よりも広い10階層であったがそこは放棄地となっていた。ボスを置こうとしたが向いているボスがいなかったし、この悪い気候であればどうにもモンスターが可愛そうになったそうだ。


 なぜ、そんなフロアになってしまったかと言うと、どうやら下の階層に原因があるらしい。31階層より地下に広がる火炎階層と水没階層だ。要するに地下の水蒸気がちょうどこの階層で水が溜まっているという事らしい。


 「ボウ(どうすればいい……)」

 「……とりあえず。皆さんはこのトウモロコシを引っこ抜いてください。ワームさん、食べられそうですか?」


 アユムは持ってきたカバンから何種類かの作物の種を持ち出しワームさんに尋ねる。


 「ボッ(リームーっす。食べてみたけど超不味いっす)」

 「焼却処分ですね……師匠」

 「わかった任せろ」


 とりあえず、植えた全ての物を引っこ抜き山と積んで焼く。

 アユムは踏んで水はけが悪いのを確認しつつ種を植えてゆく。


 半日後。


 師匠ズとアームさん権兵衛さんの前に、葉っぱのお皿と黄色い蜂の巣の様な人間の頭大の植物が置かれている。そしてその前に居るのは満面の笑みのアユム。


 「やっぱこれってアユムが怒ってるってことだよな」


 アユムの静かなる怒りにランカスは怯えている。

 アユムはゆっくりと短剣を抜き放つ。笑顔である。

 いや怖いよ主人公。怖いよ。笑顔の殺人鬼みたいで非常に怖いよ……。


 「がう(世界の声……お前関係ない次元にいるくせにそれかよ……)」

 「ボウ(今のアユムを前に正座を解ける猛者がいるだろうか……いや、いない!)」

 「ボッ(お、意外とこの葉っぱ、うめっす!瑞々しい仲に少しの塩っいいね!)」


 アユムは抜き放った短剣を逆手に持ち黄色い植物にたたきつける。


 ガツン


 鈍い音とそして植物の黄色がばらばらと崩れて中から赤く瑞々しい果肉が現れる。アユムはためらうことなくそれをほおばる。


 予想内であり予想外の行動に周囲の視線が集まる。


 シャクシャクと食欲をそそる咀嚼音。

 そこで我慢できなくなったのアームさんだった。トウモロコシショック再びである。

 かぶりつくアームさんは固い皮も関係なしに噛り付く。そこで驚く。皮が甘い。そして内部は歯が抵抗薄くあっさりかみ切れる。内部の味は薄い。だが食感がとにかく面白かった。


 次に続いたのは権兵衛さんだった。皮を力づくで剥いて食べてみる。

 感想はアームさんと同じだ。残りをワームさんに分ける。


 「ボッ(うーん、俺はパスですね、これ)」

 「がう(これいい! ウマウマ!!)」

 「ボウ(硬めだが甘い外皮に瑞々しい実。種もどうにかなるのだろうか。捨てるには惜しいが苦い)」


 モンスターにはおおむね好評だ。


 「師匠……」


 笑顔のアユム。そろそろ理解できたであろう。アユムは作戦から除外されて怒っているわけではないのだ。失敗がわかってすぐに相談しない。その上で作物を無駄にし続けた人たちに怒りを覚えているのだ。


 食べ物を無駄にした。避けれたのにだ。だから、アユムは静かに怒っていた。

 そして、師匠たちにはせめて反省しながら現地で作成した作物を食べてほしかったのだ。


 「頂く」


 ランカスはアームさんたちをまねて外皮をむこうとしたが硬かった。

 結局アユムと同じく短剣を逆手に持って壊す。砕けた破片を口に運ぶと確かに甘い。

 アユムの意図を理解した。これは後で集めて煮込むのだなと。外皮をきれいに砕いて葉っぱの更に置くと実を食べる。味は薄い。だが歯がスッと通るがそこにかすかな粘性がある。面白い味わいだ。


 師匠たちが食べていく中で料理人ハインバルグだけが食べてすぐうずうずし始める。加工のイメージが付いたのだろう。職人はこんなものである。


 「次にこれをどうぞ」


 アユムは満足して次の作物を出す。次はこぶし大の芋である。これは皮をむかれ茹でた後下味がつけられている。


 まずはアユムから。次にアームさんそして同じように皆続く。

 叫ぶほどおいしいものではないが安心できる味わいだ。濃い味が続いたら食べたいと思わせる味わいだ。


 「ボッ(この皮最高っす! いいです。星3つ!)」


 なんだかんだ言いつつ皆完食してアユムと向き合う。


 「説明、してくれますよね」


 笑顔。笑い顔。


 「アユム怒ってるか?」

 「はい」


 師匠ズの間で押し付け合いが発生した。醜い。結局ランカスが代表して口を開いた。 


 「落ち着いて聞いてくれ。今回のグールガンの目的は……お前だアユム。……俺も今回の事でわかった気がする。お前はダンジョンの在り方を変える可能性を持っている。だから、人間でもある様に権力争いの道具に使われる。そんな意図なんだと思う」

 「それはグールガンさんが人類ではないと?」


 アユムは確信を突いてみる。


 「わからんが、人類以上の勢力とつながりはあるだろうな……だから不用意にお前をダンジョンに近付けたくなかったんだ。これはここのダンジョンマスターも同意見だ」


 黙っていたシュッツが応える。


 「はあ、なるほど。で、皆さんはここで何を?」


 全員顔を見合わせて苦笑い。

 平たく言うと兵糧攻めだ。

 15層南半分の倉庫から現在グールガンが攻略中の18階層。その間に奴はいる。グールガンをこのまま閉じ込めておけばやがて本性を現すか空腹で倒れる。


 作戦は色々な段階がある。

 まず第一段階だが、15階層の南半分の倉庫畑を魔法で焼き払った。


 「え……」


 アユムがショックから20分ほど帰ってこなかった。


 はい、気を取り直して第二段階。

 20階層で知性を持ったモンスター軍団による防衛線の構築。

 実はこれに関しては第三段階と深くかかわりがある。


 そして第三段階だが、これが10階層の開拓だ。10階層から真下に掘り進むと暗黒竜が住む35階層につながる。要するに10階層で作成したダンジョン作物がダンジョンマスターが作ったルートで輸出可能になるのである。


 なぜこれが重要なのかと言うアユムの作ったダンジョン作物がティム対策に有効だ言う事だ。これはアームさんと言うケースで証明済みだ。


 さてグールガンの視点に戻ってほしい。

 15階層は侵入こそされないが、近寄ると待機している師匠級の人員から遠距離攻撃を見舞われる上に、食糧庫はすでに破壊されてしまった。戻るに戻れない。

 ではどうやって食料を得るかと言うともはやモンスターの討伐しかないだろう。しかし、そんなに簡単にモンスターを食用にできるだろうか? ワームさんの同族などもいるし、そもそもモンスターを下せるのだろうか。

 結論は否だ。職人をなめてはいけない。だとするとグールガンがとりえる対策は一つ、植物が普通になっている森林ボスエリア20階層への侵攻。だがそこにはダンジョン作物によってティムの通じない敵が待ち受けている。

 そして時間が経つにつれ35階層からも21階層までのモンスターもダンジョン作物の輸出がなされれば順次知性を得て増援として送られる。

 時間が経つにつれ戦力補強される20階層。

 確かに単体で見ればグールガンに勝てるモンスターは35階層より上にはいない。だが戦闘は1対1のみではない。1対1がすべてであればすでにグールガンは20階層を突破している。それができないのだ。15階層よりも広くモンスターを軍として布陣しやすい20階層をグールガンは時間経過とともに更に抜けられなくなっていくだろう。

 やがてグールガンは食料を得られぬまま、いずれ投降する道を選ばざる得なくなる。


 そんな作戦だが、ダンジョン作物が作成輸出できない場となってしまった。20階層への増援部隊を送れない状況が続くと20階層を踏破されてしまいかねない。そうするとグールガンは食料を得る。そしてそのままより強力な下層のモンスターをティムして物量で地上でアユム誘拐の道を開くと言ったところだ。


 「とりあえず、アユム、これすりおろして。団子にし揚げてみよう。美味そうだな」

 「はい師匠!」


 難しい話をあきらめた料理してはこっそりと料理を始めた。


 「がうがうが~(団子団子団子~)」

 「ボウ(平和だな……)」

 「ボッ(美味いもう一枚! って良いっすかね。いいすよね! さすがアユムん太っ腹!)」


 「なぁランカス、意外と難しい状況なんだよな……」

 「ああ、うん。多分な」


 苦笑いを浮かべるランカスとシュッツ。

 思い詰めたのは間違いだったと、なんとなく確信を持ったようだ。

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