第29話「10階層を開拓せよ!1」

 「本当か?この内容」


 手紙を受け取ったランカスは隣に座るシュッツに手紙を渡すと権兵衛さんに問う。


 『何か別なものが、遥か上の方で権力が動いている様だ』


 権兵衛さんがそう紙に書いて伝える。


 「お前さん、これをアユムに見せずに持ってきたのはいい判断だったぜ。そうかもとは思ってはいたがグールガンの奴アユムを拉致することも目的だったとは……」


 『しかし、拉致した後どうやってあの場から逃げ出すというのか……』


 「グールガンは単体で俺らより弱い。お前たちも同じだ。数で押すと言ってもたかが知れているしな。……つまり、奥の手があるという事か……」


 『確証はないがな……』


 そしてその場に居た師匠たちが手紙の内容を理解したところでランカスは重い腰を上げる。


 「皆読んだな? 今後内容についてアユムに伝えることを禁じる。あと明日から15名選抜の上10階層へ向かう。5名は15階層守護につく。異存は?」


 「ない」


 全員一致であった。 


 「何か月かかるかわからんからな、体制は整えよう。シフトについても今日中に作成して後ほど連絡に回る。実行は明日からだ。抜かるなよ」


 「誰に物言ってやがる」


 師匠たちはそれぞれ笑みを浮かべながら解散していった。

 ランカスは戻ってきた手紙をもう一度読み返した。


ダンジョンマスターの手紙

『地上の皆様へ

 この度は我が子たるモンスター3名がご迷惑をおかけしております。

 今回は私ダンジョンマスターより皆様へ感謝とご協力のお願いを申し上げます。

 まずは迅速な撤退のご判断に感謝申し上げます。


 あのドワーフの行動につきましては、背後に我らダンジョンマスターに関わるものが支援していたことが判明しております。現在しかるべき場所でしかるべき立場の者に対処を依頼しております。


 今回の件、時間が解決してくれることとは申しましても、当ダンジョン並びにダンジョンを生業とされております皆様にも甚大な被害が起こると予測されております。


 つきましては大変恐縮ではございますが、私ダンジョンマスターより皆様へ、手紙にて失礼かと存じますが1点依頼をさせて頂きたく思います。報酬は物品ではなく【ダンジョンを救いし者】として入り口に掲示される栄誉となってしまいます。依頼内容は件のドワーフの封じ込めにご協力いただきたく思います。


 具体的な内容につきましては(中略)

 最後に、今回のドワーフ並びに背後の者達の狙いはアユム殿にあります。事態終結までの間、可能であればアユム殿にはダンジョンへ立ち入らぬ様ご配慮いただければ幸いです。


 ダンジョンマスター』


 「アユムの価値か……面白れえ奴だとは思っていたが、そんなにすごいのかね……」


 『我らダンジョンモンスターからすればそれだけの価値がアユムにはある。何故ならばアユムの作るダンジョン作物が我らに感情を、理性を与えた。アームについては進化してからも定着している。それは、まさしく奇跡なのだ…俺はそう思う』


 権兵衛さんは思いの丈を文字として書きなぐると1枚の紙には収まりきらず、しかも変に節約しようとしたので字が小さくなる。老眼のランカスは眉間を寄せつつ権兵衛さんの小さな字を必死に読んだ。


 「まぁ、何とかするしかないか。それよりも明日から頼りにしてるぜ! 農業アルバイトさんよ。経験者はお前さんだけだ」


 ランカスに肩を叩かれ微妙に笑う権兵衛さん。

 明日からアユム抜きの10階層開墾が始まる。


 一方その頃アユムとアームさん。


 「今日は師匠たちみませんね……」

 「アユムーそこ警報魔法道具設置してるから気を付けて」

 「がう(警備員のアルバイト中♪)」


 コムエンドの中心部にある劇場で4日後から開催される国内学会の準備にアユムとアームさんは駆り出されていた。主に力仕事がメインであるが。


 「ここが筋肉のみせどころよ!」

 「がう(マッスル!)」

 「…うん。筋肉ですね」


 棒読みが過ぎるぞ、アユム。

 運んだ荷物をゆっくりと降ろすと無意識のうちにダンジョンを見る。


 (2日で懐かしく思ってしまう。15階層を取られたのが悔しいんだな……そうだ落ち着いたら師匠たちに相談しよう……)


 そんなアユムの思いとは裏腹お手伝いは三日三晩つづいた。落ち着かなかったのだ。


 「なんでこんなことになったかって? 決まってるでしょ! 決めにゃきゃいけない時に組合長バカがどこかに逃げてたからよ!!」


 はい、15階層に逃げてました。

 責任の一端は自分にもあるとしてアユムも徹夜でお手伝いする羽目になった…


 「ぬおおおお!もう耐えられん!!視ろこの三角筋…ごほおおおおお」


 上半身裸になったギュントルをチカリの光速拳が襲う。


 「しまった! 気絶した(ねられた)!! アユム、メアリーお姉さまを呼んできて! 起こすのよ!」


 冥界からも患者を連れ戻ると名高いメアリーが呼ばれる。

 アームさんはその横で舟をこいでいる。


 「ふぅあ~(眠いよ、アユム……)」

 「アームさんは寝てきていいよ」


 アユムは仕事もあるし、アームさんがあくびをするたびにチカリの視線が怖かったりするのだ。


 そして学会開催の前日昼にようやくアユムたちは解放された。

 チカリはすでに明日の発表に向けて寝ると言い放ち去っていた。

 ギュントルはメアリーの薬のせいで目がおかしかった。


 「キンニク。デモ、シゴトタイセツ」


 明日無事に責任を果たせるのだろうか……。

 アユムも眠気に耐えかねてアームさんと一緒に帰路についたのだが、そこに久しぶりの権兵衛さんがあらわれた。


 「ボウ(すまない。アユム。助けてもらえないだろうか……)」




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