第22話「魔物使いさんによる。モンスター魔法講座!!」
コムエンド中心地。噴水公園前広場に今、巨大な魔法陣が書かれていた。
「なんですか?これ?」
人払いの為に立っていた兵士にアユムが尋ねる。ここだけ非常に厳重な警備になっているしそれを取り囲むように野次馬がたかっている。ちょうどアユムの知り合いである兵士がいたので人をかき分けて進んでいき聞いて見た。
「お、アユムじゃないか。おおっと、その紐からこっちに来るなよ。来たら逮捕だからな。問答無用で捕まるからな」
「あ、はい」
若くして領主に見込まれ冒険者を引退し兵士の役に就いた彼は、笑みを浮かべながらも警告を発する。本気なのだろう。アユムは正確に意図を受け取り兵士の近くで止まる。
「これから大陸の西端から要人が来るんだとよ。先日使い魔が魔法陣を送ってきたみたいでな……お、そろそろ始まるみたいだぞ」
兵士の彼の言葉通り魔法陣が光を放つ。
目を覆うほどの光量ではない、アユムの目にはしっかりと1m四方の黒い箱が転送されてくるのが見えた。
「箱ですよね」
「箱だな」
少し拍子抜けだった。
野次馬の人数が減ってゆく、そんな中でコムエンド側の魔法使いと思わしきローブの魔法使いが箱を運び出しそこに手を当て何やら話している。
そして警備隊長と思われるヒゲのおじさんが叫ぶ。
「総員魔法陣から退避! 野次馬の行動に注意せよ! 魔法使いは結界を展開!」
警備隊長の言葉が終わると魔法使いがまた箱に手を当て話しはじめる。やがてまた魔法陣が光を放つ。
先ほどと同様に見られないほどの光量ではない。
しばらくすると魔法陣御中心に身長190cmほどある白の全身鎧フルプレートの男が現れた。右手に身の丈以上ある大剣を担ぎ、兜を逆手に抱えている。短く切りそろえた金髪と深い紺の瞳。鋭い印象を受ける瞳は歴戦の強者のようだった。
アユムはその騎士に目を奪われていて気付かなかったが、転送魔法陣の光は消えていなかった。
次の瞬間騎士を中心として次々とそれらは現れた。
初めに4匹の大きめのウサギ。次に全長1m程度の熊。同程度の大きさの狼。虎。狸。狐。総勢100匹を超える【動物】が現れ光が消える。
冒険者以外が見ればモンスターに見える。
騒然とする野次馬。警戒を強める警備隊。
ふとアユムは気付いた。動物たちも中心の騎士も皆額に同じ鉢巻をしていた。
【クレイマン隊】とそこには書かれていた。
騒然とした空気を収めたのは騎士だった。
「コムエンド市民の皆様! 始めまして今回賢者の娘アリリィ殿の護衛を仰せつかったクレイマン隊隊長クレイマンです。そしてこちらの動物たちは我が隊員です。皆訓練を積んでおりますのでご安心ください」
クレイマンと名乗った騎士がそう言うと動物たちは整然とまるで行進するように魔法陣外周へと寄ってくる。野次馬も一歩二歩と退いてゆく。警備兵も震える。
アユムは違った。彼らの声が聞こえていたからだ。
「プゥ(お、驚いとる驚いとる)」
「にゅー(ぴょん太小隊長任務中ですにゃ)」
「わん(見られて緊張します……)」
「がう(僕お家帰りたい)」
ウサギ、虎、狼、熊の小隊がアユムの方に近付きながら小声で話しているのがわかる。
非常に平和的な動物たちのようだ。
魔法陣を守る様に配置についた動物たちを横目にクレイマンと言う騎士はコムエンドの魔法使いたちと話をしている。
『まだかかりそうだな』と思いながらアユムの意識は目の前のウサギたちに向いた。
ウサギと目があった。
「プゥ(なんじゃおんどれ?ワシにガン付けて喧嘩売っとるんか?)」
口の悪いウサギだった。
思わず笑ってしまったアユムは、何となくだが手に持っていたダンジョン作物(ピューレルというイネ科の作物)をウサギの前に出してみた。
「にゃっ(ぴょん太小隊長任務中ですにゃ)」
「わん(怒られますよ……団長怒ると怖いですよ)」
「がう(美味しそう、でも警備隊としては動いたら失格)」
アユムはウサギと目を合わせたままだ。茎を折ってみる。瑞々しい感覚が伝わる。実際にこの作物は砂糖並に甘い。いや、砂糖以上にと言ってもいい。
「プゥ(おお、いい度胸じゃ。喰うたるわ!)」
「にゃっ(まずいにゃ小隊長! 任務中ですにゃ)」
「わん(俺たちも連帯責任なっちゃうよ!)」
「がう(……もう、無理だと思う)」
彼らは賢者の娘の護衛のはずだ持ち場を離れ、他人が出したものを口にすると言うのは問題行為だ。
「プゥ(わかっとるわ! リィさんが来たらその挑発のったる! 覚えてろ小僧!!)」
そう言い終わるとほぼ同意時に魔法陣が再び光った。
アユムはウサギから目を離し、魔方陣の中心を見る。
強烈な光が瞬いた。
それまでとは違った。
激しい光が止むとそこには人影が認められた。
初めに確認できたのは美しい髪だ。水色のロング。輝きを放つその髪にアユムは思わず唾をのむ。
次に吸い込まれる様な大きな青い瞳スッと通った鼻筋を確認する。
小さくも神聖な美しさを感じさせる美人顔だ。大陸西部でもそうであろうがコムエンドがある東部でも同じだ。
その場にいた誰しもが息をのむ。
そして誰かが呟く『女神さまがいらした』。その言葉に誰しもが心の中では肯定した。そして誰もが目を離せない。
光が収まり全身が確認できた。彼女が纏っている水色の奇麗なローブが風に揺れる。
彼女の右手に握られていた木の杖を軽く振りかざすと魔法陣が再び光り、そして地面に埋め込まれてゆく。
光にあふれた奇跡の光景に民衆からどよめきが起こる。
しばらく彼女はそのまま静かにたたずむ。そして民衆に向けて微笑む姿を見せると、大喝采を生む。
「プゥ(こいつ外見にだまされてるな)」
「にゃっ(まずいにゃ小隊長! リィ様絶対聞こえてるにゃ)」
「わん(俺無関係、無関係だもん)」
「がう(……さぁ、今日のご飯何かな~)」
動物たちの言葉にアユムは我に返った。そして頬を染めて反論する。
「そっそんなじゃないよ」
その言葉に動物たちが驚く。
そしてウサギがアユムに近寄ってくる。
本来であればここで兵士が止めに入るのだが、当の兵士も彼女、賢者の娘に魅了されていた。だから止める者はいない。
「プゥ(とりあえず、お前さんの挑戦受けて立つ。よこせや)」
アユムはそう言われて正気に戻る。だらりと下りていた手にかろうじて握られていた自慢のダンジョン作物ピューレルを握り直ししゃがみ込む。そして、自信に満ちた瞳でウサギに差し出す。
「食べてみなよ」
笑顔である。
「プゥ(まずかったらどうなるか、覚悟しとけや)」
白いウサギがピューレルをその小さな口でついばむ。
口が動く。無言で動く。やがて目を閉じる。
口は動き続ける。
やがてそっとウサギの目が開かれる。
黙ってもう一口食べ始める。そして再び目を閉じる。
周りの護衛達は賢者の娘を守る様に陣形を取りつつ領主の館へと移動し始める。
ウサギの3口目。もう周りに動物たちはいない。ウサギの部隊はクレイマンに指示を伺い、ウサギを置いて任務に戻っていった。
「プゥ(……俺の負けだ……)」
「……ちがうよ、言わなきゃならない台詞はそれじゃないよ」
「プゥ(ああ、そうか……)」
ウサギはもう一口食べる。そしてやがてアユムの目を見て口を開く。
「プゥ(うまかった。ご馳走様)」
「はい、お粗末様でした」
これが動物最強種ハンターウサギのぴょん太とアユムの出会いだった。
「ぴょん太」
そんなぴょん太に後ろから声がかかる。
美丈夫。騎士クレイマンが立っている。
「少年。君からも話が聞きたいのだがいいかな?」
青筋が見える。アユムに拒否権はないようだ。
アユムは促され領主の館へと連行された。
普通に考えて要人警護への妨害行為だ。罰があるのは当然でした。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
タイトル詐欺?…o(゜Д゜ = ゜Д゜)o キョロキョロ
はっ!しっしまった(棒)
・・・
・・
・
うん。皆さんごめんなさい。
「予定は未定で会って決定ではない」
そんな感じでした。
はい、最後に賢者の娘さんから伝言を頂いております。
『出番あるって聞いてたのに出番無かった…。興味ある方はおっさん(3歳)63話後半だけ読んで♪あと64話にもでてるし。4章でも大活躍(魔王視点で)』
…見なかったことにしてもらっていいですか?
うん。見なかった。見なかった。よかった。よかった。
では気を取り直して次回予告
「白い魔獣2」
最強の野生動物ハンターウサギを仲間に加えたアユム一行は15層で最大の敵と遭遇する!農家の最大の敵!白い害獣!奴は神出鬼没!果たしてアユムは対処できるのか!師匠は罠作ってくれないのか!次回アームさんの本気を見流すな!!
…たぶんね…
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