第21話「白い魔獣1」
ダンジョン8層に挑む冒険者パーティーがいた。
その日、冒険者は白い影を見た。
この階層では白いモンスターは確認されていない。
新種のレアモンスターかと緊張感が走る。
「撤退するぞ……」
リーダで魔法使いのアンソンが静かに呟く。
PTメンバーは全員頷き後退を始めた。
1歩2歩と下がる。
初めに異変に気付いたのは女剣士のロートラ。彼女は考えるより早く武技を発動した。
大地の構えと呼ばれるカウンター技だ。
ロートラの足が止まったことで、パーティーメンバー全員が異常に気付く。そして急所を守る様に構える。
そのとき不意にダンジョンの照明が落ちる。
暗闇は根源的な恐怖を呼び起こし、人間の体を固くする。その瞬間に襲ってきた。
ロートラは確信をもって技を放つ、そこに来ると確信を。
キン!
金属と金属がはじき合う音、そして少量の光がともる。
薄く短い時間の光がロートラにその白い化け物を確認させた。
「…逃げることを選択して正解だ……あれが噂に聞くフロアボスなのかもしれない……」
緊張の撤退戦は続く……。
ダンジョン脱出まで続く緊張感ですっかリやつれたアンソンパーティは脱出後駆け足で組合へ向かい報告した。
「猫型の白いモンスターが現れた」と。
平均レベル20のアンソンパーティーが撤退しかできなかったモンスターが現れた。
こうしてアユムの作ったダンジョン農園の話に沸いていた冒険者たちは、冷や水を掛けられることとなった。
ダンジョン都市コムエンドは国内3番目の都市だ。
だが、王都よりも交易都市エリエフッドよりも発達しているものがある。学問である。
前領主が巻いた学術という種は特殊技術を持った冒険者が職人として才覚を伸ばし、ダンジョンからもたらされる物資が都市の経済を循環させ、周囲の豊かな農地よりもたらされる豊富な食料が人々を安心させたこの豊かな都市を下地に大きく花開いた。
学問とは豊かさの象徴である。遥か異国では、平和な時代を迎え国民が望んだのは学問だという。禁書の解禁を求め、町々では数式の難問を解けることが教養として広く浸透していた。
コムエンドでも同じ現象が起こっている。
その為知識が終結する場所、魔法組合は領主からの支援と領民からの、特に成功した商人からの支援を受け今多くの著名な学者を世に出していた。
「だから態々大陸西端から賢者の娘が参加するってことらしいのよ……」
チカリはワインを呷りながらアユムににじり寄る。
「その賢者の娘さんっていつ来るんですか?」
「明日」
固まるアユムとワインのお代わりを注文するチカリ。
「へっへぇ、で、その賢者の娘さんっていつ来るんですか?」
「明日」
即答であった。普通に考えれば、賢者の娘なんてアユムでも知っている有名人が来るのだ。警備体制がもっと厳重であるべきだ。しかも明日であればすでに都市全体に物々しい緊張感があるくらいで丁度いいはずである。
しかも賢者の娘とえば、曰く『勢いだけで国の地形を変えた女』、曰く『魔王に土下座させたうえヒールで踏んでお礼を言われた女』、曰く『竜が群れで現れたが彼女を確認して口笛拭きながらさりげなく逃げていった』などと噂を持つ人だ。極めつけは二つ名『歩く神話級兵器』。つまり触れるな危険な人なのだ。
「……この街滅ぼされませんか?」
直球で聞くアユム。
「あははは、そこまで酷い人じゃないよ。多分」
「多分って……」
不安になった。こういう時に領主様は何をしているのだろうと思ったアユムだが、『ダンジョンで遊んでいる』と言う事実を思い出してあきらめることにした。
「先方からも『護衛部隊引き連れて転送でいくから必要以上の警護は不要』って言われてるしね~」
きゃはははと笑いながらチカリはマスターが持ってきたワイン樽からワインを柄杓で掬って一口で飲み干す。
チカリは酔った様子がないのでアユムはこういう人が『ざる』っていうんだなぁと感心しながら見ていた。『こういう大人にはならない』と心に刻みながら。
「アユムー、お姉さん酔っちゃった♡」
あからさまにしなだれかかるチカリだが、喉が渇いたのか柄杓で飲むのが面倒になったのか、樽を抱えてゴクゴクと喉を鳴らしながらワインを飲む? ……いや、吸い込んでいた。
(誰がどう見ても嘘だ……)
「アユム!」
「はい!」
「実は上の部屋取ってるの♡ 介抱し・て~」
アユムはマスターを見る。マスターはわかりやすく手を打つと奥に消えていった。そして代わりにおかみさんが出てきた。
アユムは左を見た。『チカリん♡ 親衛隊』と書かれた鉢巻をした集団が期待のまなざしを向けている。先日気になった白髪のドワーフ、グールガンもその中に居り、サムズアップしたのちに『いけ! 男を見せろアユム!!』とアイコンタクトを送ってきた。
アユムはまだ13歳である。この作品は不健全表現をしないのが信条である。
なのでここで現れる人物も想像つくだろう。そう。あの方だ。
「大丈夫? チカリん」
「メアリー先生!!!」
「良い酔い覚ましがあるのよ。……すこし背が縮むけど……」
チカリは席を立つと直立し敬礼。
「メアリー先生! 自分、酔っておりません!!」
「そう? でも酔っ払いはみんなそう言うから心配だわ。上に部屋を取ってるのよね? 折角だし送って行ってあげるわ。……こういう時に試したい薬もあるし……(ボソ」
メアリーは口に手を当て優雅に微笑むと、反対の手でチカリをアイアンクローの状態のまま釣り上げて酒場を離れていった。
ありがとう! ぼくらのメアリー先生!
この作品を守ってくれて本当にありがとう!
子供同士の性表現なんてしたら消される!(物理的に)
アユムとこの小説が守られた所で物語は翌日を迎える。
尚、チカリん親衛隊はアユムとチカリの清い交際を応援している。
代表が言うには『どこかの馬の骨に奪われるくらいならアユムがいい! むしろ希望! いいカップリングだ』とか。彼らは果たしでどこに向かっているのだろうか……。
「いえ、交際してませんよ?」
親衛隊には気を付けて……。
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