第20話「ドワーフは語る。」
【変態が現れた!】
たたかう
にげる
まもる
≫アームさんを生贄に捧げる
アームさん「がう(蝶ネクタイかゆい…ん?なんか呼んだ?)」
**************************************************
「お前ら! 16階層への探索に出かけるぞ!」
アユムの両手剣の師匠かつ先輩冒険者オルナリスが苛立ち気味に部下を窘める。
「「「「あ、御屋形様だけでどうぞ~」」」」
8人いた部下が声をそろえる。
3人はアームさんにご飯をちらつかせて反応を楽しんでいる。
「うぉーー、この子連れて帰りてー!」
「はーい、リッカあげるよー。あ、お辞儀したこの子賢い!」
「癒される。ちょ~癒される! 領主のくせに毎度政務放り投げて奥方に頼りきりの馬鹿殿のお相手よりこの子見てた方が癒される」
「「「「「ああ、言えてるー」」」」」
アームさんの周りでアームさんの毛皮を楽しんでいた5人も声をそろえていう。
すっかりお忘れの読者皆様に説明しておこう。
オルナリスは領主である。
以上。
…ん? 説明になっていない? ……だってさ。このむっさい竜人のおじさん紹介しても面白くないじゃーん。悪魔ちゃんがいい。神様にとっては人間とか悪魔は子供にしか見えないかもしれないけど、あの出るところ出て引っ込むところ引っ込んでるパーフェクトボデーについて語りたい。あれでイットが手を出さないとか、あいつ付いてないんじゃないのかと疑うレベル!
……はい、やめて恋愛神のお姉様。実力行使に来ないで。
――しばらくお待ちください。世界の声が天界1の美人さんのお仕置きを受けて……喜んでいます……――
ふぉおおおおお! 俺の心に宿る世界の声として情熱が今燃え上がっている!!
では、説明に戻ろう。
オルナリスはもともとこの国の人間ではない。
長い寿命を持つ竜人として、冒険者としてこの国に流れてきていた。
竜人とは手足に鱗を持ち、肌は一見人間の肌だが強度は竜のそれにひけをとらない硬さを持っている。
力に関しては人間の数倍と言われている。
また、顔は人間のそれに近く、違うのは角の存在だけだ。
魔法に関しても過去魔法力で飛翔していた文化を持つためエルフに近い高度な魔法特性を持っていた。
ただ、数が少なかった。
人間との交配可能だが竜人の特徴が受け継がれることは非常に少ない。
オルナリスがこの国に流れてきた理由は嫁探しだ。
この国に先祖返りで竜人の娘が生まれたと聞き、とる物もとりあえずこの国に来た。そして奥方と出会った。
オルナリスはこのコムエンドに住み着き冒険者として名を上げ、やがて隣国との戦争でそれまで、子爵だった領主軍の一員として参加し数々の武功を立てた。
そこで上げたオルナリスの功績の中でも特筆すべきは国境沿いの砦をオルナリス率いる1小隊だけで落としたのだ。
これで侵攻拠点を失った隣国は、ほぼ同時に補給路もたたれ押し返されることとなった。
そして論功行賞の場で褒美を尋ねられたオルナリスは迷わず奥方を所望した。
この国で有名なお話である。王は愛し合う二人を認めるだけでは釣り合わないとし伯爵位を与えた。
本当の所、オルナリスを国外に逃がしたくなかったので責任ある貴族に封じたのだ。
で、その後どうなったかと言うと、子供を3人もうけたところでオルナリスが耐えられなくなり、ダンジョンに逃げ込んでしまうという事件を起こす。
あきれた奥方は自分が政務をある程度肩代わりすることでオルナリスに自由な時間を与えて適度にストレスを発散させることとした。
領民からすれば美談の2人だが、仕える部下たちからすると自由人のオルナリスに振り回される最も可哀そうな人間が奥方だったりする。
「なぁ、今日はやめないか」
「グールガン、お前もか……」
オルナリスは16階層以降の攻略に並々ならぬ熱意を持ってついてきていたはずのグールガンが、焼きトウモロコシを食べながらアームさんを撫でている光景に項垂れる。
「……アームさん、もうそろそろ本業しなくていいのか?」
「がう?(あれ? ああ! もうこんな時間じゃないか! 俺ちょっと本気で行ってくる!!!)」
オルナリスの言葉を聞いて恍惚の表情だったアームさんがハッと現実に戻ってきて辺りを見回し、14層へ走っていった。
残されたのは満足げなオルナリスと、恨みがましい視線を送る8人の部下たちとグールガン。
「さあ、向かうぞ!!」
意気揚々とオルナリスとそのほか9名。大丈夫なのかと思ったのはマールとサントスだけではなかった。
「ボッ(仲間割れしないといいっすね…)」
モンスターであるワームさんにまで心配されていた。
「で、マール売り上げは?」
「バッチリよ♪」
マールは金貨を数える手が止まらい。1枚2枚3枚……いっぱーい! な状況である。
「俺の方は今日は平和だぜ。お、マールそういえば熟成肉はどうする?」
「もらうわ、こっちの保管庫に移しておいて」
そしてマールは夕飯の仕込みをサントスは在庫整理で過ごすのであった。
夕刻、オルナリスの調査隊は大成果で帰ってきた。
マールは、もしかしたら自分の料理を食べに来たモンスターも含まれているのではないかと思うと少し複雑な気分になったが、強引に頭を振ることで考えることをやめた。畜産農家の心情に近いのかもしれない。
実際はアユムの野菜を食べたモンスターはすべからく【知性に目覚め】20階層で共同生活を送っていたのだが……、それもまた謎の事象だった。
「ぷはぁ~~~~うめぇなリッカジュース。割高だがその価値がある!」
風呂に入りながらジュースを飲み、風呂の縁にもたれかかっている白髪のドワーフ、グールガンが漏らす。
「うむ、非常に良いな」
ごねにごねてごねまくってようやく噂の15階層に来られたオルナリスは共感する。
聞いていたアユムのダンジョン作物もうまかったし、ダンジョン内でこんなにもゆとりのあるお風呂に入れる。まさに高位冒険者だけが来られる隠れ家だ。オルナリスは風呂に肩までつかると全身の力を抜く。
「おい、オルナリス。俺ここに住んでいいか」
「いいぞ」
領館よりも広い風呂を堪能するオルナリス。もうはやグールガンの言葉は耳に入っていない。
「あー、でも地上にはチカリんがいるな…たまに戻るでもいいかな?」
「いいぞ」
「アームさんもいいが、やっぱりチカリんもいいな」
「いいぞ」
オルナリス帰ってこい! なんか部下たちがメモしてるぞ!
「この間の子供服よかったな~」
「いいぞ」
もう手遅れな感じがする。
「あ、そうだここで酒造りもしたいな」
「……貴様天才か!!!」
こうしてオルナリスの私財(おこづかい)を使いダンジョン酒づくりプロジェクトが立ち上がった。
おっさんの酒への情熱は地上の師匠たちも巻き込んで進んでゆくことになる。
「がう(酒ですか。私、興味があります。キリリっ)」
駄猫の酒乱が容易に想像できるのでご遠慮願いたい。
こうしてダンジョンの夜は更けていくのであった。
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