第19.5話「悪魔ちゃんの企みとチカリん親衛隊」

 これはアユムが2度目の帰還を果たしたころ、そう筋肉信者になりかけていたころのお話。


――とあるダンジョン中層


 「なんで! なんで誰も敵を迎撃しないんですか!!!」


 本日何度目かのシスターアルフノールの叫び声が聞こえる。

 手っ取り早くレベルを上げるための穴場に籠って5日。彼らは一向に向上しない。

 いや、モンスターは退治できているのでレベル数値は上がっている。


 「いや、それはいつもアユムがやっていた事であって、俺たち向きではない」


 ……初めはよかった。そう初めは。


 このダンジョンは『あの』悪魔ちゃんがダンジョンマスターを兼任するダンジョンである。

 交易都市エリエフッドから、東に3日程進んだ場所にそのダンジョンはある。冒険者向けビジネスが盛んなため、そこそこの村もあった。コムエンドとは比べ物にならない程度の小ささではあるが……。


 さてダンジョン上層は問題なかった。聖剣使いイットも聖剣に使われている感はあったが一撃でモンスターを退治できた。タナスの攻撃魔法も威力十分だった。サムも魔法戦士として初歩は理解しているらしく、成長が楽しみだった。何よりアンバランスな、いや個性的なメンバーをまとめ上げる一見、いや全面的にチャラいセルがいてくれて、アルフノールは安堵していた。


 だが、いざ中層攻略に行こうとした時だ。セルが師匠の伝手だか何だかでアユムの生存を聞きつけた。そしてメンバーの間で亀裂が入ってしまった。


 アルフノールは不味いと感じて割り込もうとしたがセルの方が早かった。


 「俺、行ってくる! 許してもらえなくても行ってくる! 冒険者やめることになろうが、それでも俺は行かなきゃならない! 皆とはここまでだ。悪い!」


 普段チャラいが冷静な行動をとるセルが、それだけ言うと走りだしていた。呆然と見守るアルフノール達を尻目に、知り合いだと言う商人の馬車に乗り込み、気づけば村を出て行ってしまっていた。


 「行ってしまったな……」

 「行ったわね」

 「……」

 「仕方あるまい。セルと言う男はそういう男だ」


 イット、リム、タナス、サムの順に語る。


 「皆様はこのまま残っていただけるのですよね……」

 「ああ、もちろんだ! 超級モンスターの出現が予知されているなら、世界には英雄が必要だ! この聖剣にかけて、俺たちは強くならなければならない!」


 イットが街中だというのに抜き身の剣を振りかざす。


 「ああ、イットさすがだわ。私も聖女として貴方にお仕えします」


 リムはうっとりしながらイットに寄りかかる。

 他の人間を放置して2人の時間が始まる。


 アルフノールはこの時まだ知らなかった。このパーティーでアユムとセルがどれほど重要な役割をしていたのかを。


 「いや~~~~、今矢が頭かすめた!かすめたよ!!!!」


 中層にはいってからアルフノールはどんどん疲れがたまってきていた。


 まずこいつら。一撃で倒せないモンスターをけん制して後衛に回させないとかしない。

 だって『それアユムがしてたよな(笑)』と言う。


 なのでアルフノールは一応持ってきた盾とメイスを振り回す。


 次に、こいつら罠とかモンスター感知としないで進む。

 アルフノールは『そんなバカな。いざと言うときの為に複数名できるようにしているとかしてるはず』……すぐに後悔した『だろう、かもしれない』は事故の元。すぐに何ができるかを再確認した。


 結果、何もできないことが判明した。

 キャンプで料理もできない。

 簡単なものをかじるとかはできるけど、食糧管理もできない。

 と言うか誰が持っているのかも知らない。

 罠の解除ができない。

 敵の感知ができない。

 連携攻撃ができない。

 モンスターと一対一の戦闘をしたがる。


 何度アルフノールが叫んだかわからない。後衛であるタナスが魔法を放った後、前衛が何もしないで素通り。アルフノールが咄嗟に盾に入って事なきを得たが……。アルフノールは後悔を始める。人選を間違ったと……。


 そんなお疲れのアルフノールは、メンバーに休日を提案する。


 「馬鹿な! 俺たちは世界の為にも一刻も早く強くならなければならないのに!!」


 アルフノールはのどまで駆け上がってきた、『どの口がほざくか! このくそ脳筋パーティーが!!!』と言う言葉を飲み込んで言う。


 「根を詰めては逆に成長が遅くなります。頃合いを見計らって休み、自分を見つめ直すのです」


 一同が押し黙ったのでアルフノールはこっそりリムにささやく。

 『休日デート……楽しそうですね♪』

 リムはあっさりと理解してメンバーを促し、休みが確定した。


 そして休日の午前、アルフノールは今、神殿にいた。

 神に祈りを捧げている。半分謝罪だ。だがアルフノールの神はちょっとあれだが基本優しい神だった。

 祈りを解いた後、アルフノールの表情には若干の余裕が浮かんでいた。


 そこで、彼女の耳にそよ風が流れ込んでくる。


 「……白が動きましたか……先を越されましたね……」


 余裕の笑みを浮かべるアルフノール。

 先の事を気にしても仕方ないと開き直っているのか、それとも……。


――――コムエンド


 「グールガン。やけ酒か?」


 冒険者仲間がグールガンの隣に腰掛ける。まだ2度しか会っていないのに図々しいことこの上ないが、これが冒険者標準であった。


 「ったく、なんだよこのダンジョン。15階層にクレイジーパンサーとフレイムワームとエンペラーオークとかそろってやがるんだ。ソロ殺しか!? ってんだよ」


 グールガンの愚痴に冒険者は太い声で笑いながらグールガンの肩をバンバンと叩き、自分のつまみを少しとるように促す。

 つまみはこの地方で大量生産されている豆だ。過去冷害対策として作られ始めたものだが、現在ではおつまみから主食まで広く愛されている。


 「うまいな、そして酒に合う」

 「だろ? このあたりの自慢だ。もっと喰いたければ追加注文しな」


 ガハハハッと豪快に笑う。


 「冒険者なら地元産業に金落とすのは当然だぜ」

 「すごいこと考えるな、この都市の冒険者は」


 グールガンは苦笑しつつも豆と肉を注文する。


 「すごい事と言えば知ってるか? あのメアリー女史が『チカリん親衛隊』っていう組織を立ち上げるらしいぞ」


 冒険者の言葉にグールガンはぐっと距離を詰めて低い声でつぶやく。


 「……詳しく」


 グールガン。神出鬼没のソロ冒険者。万能ゆえに群れない男。

 そんな彼がとある組織に所属した。その名も『チカリん親衛隊』。会員NO37である。


 翌日入会金を支払い、姿絵と次回のイベント予定をもらうと、グールガンは宿の部屋に駆け込んだ。

 姿絵をうっとり見つめながら、隊から支給された応援のポーズを練習する。鬼気迫る表情だった。


 彼はグールガン。

 孤高を愛するソロ冒険者。

 【白髪のドワーフ】グールガン。



*****************


ここまでお読みいただきありがとうございます。

あと、評価&ブクマありがとうございます。


では!


本日もやってきました、このコーナー!

「悪魔ちゃんの懺悔室!!」スタートです!!


コンコン


軽いノック音が響く。

どうやら奴が来たようだ。


「どうぞ…」

「失礼します」


入ってきたのは少しやつれた悪魔ちゃんだった。

やべ、やつれたその顔もかわいい!よし、持って帰って人形にしよう!


「神よ、それ犯罪ですからね?」

「そっそうか…」


痛恨の極みだ。


あ、私は神だ。担当はまだない。いやごめん、あるけど教えてあげない♪

でだ、最近部下で悪魔族のアルフノールちゃんがやつれてきてるっていうので今日は私の部屋に呼んでみた!ここから始まるピンク色の世界!うふふふふ。


「…神よ、懺悔してもいいですか…」

「うむ。今日はお前のストレス源を聞くために呼んだ。存分に愚痴れ!!」


腕組をして書きかけのデータを保存。そして録画モードを始める。


「ありがとうございます。聞いてくださいよあの聖剣使いども!!もうどうやって生き残ってきたのよって感じの…(以下愚痴」


(うんうん。愚痴に歪んだ顔も可愛らしい♡)


「聞いてますか?」

「聞いてる聞いてる、もう1杯どう?異世界から聖杯っていうアンティーク物が流れてきたんだけどこれ使ってみる?」

「バッチいいのでお断りです」


いい!その拒否する表情もいい!!


・・・

・・


「神よ、私は罪深い生き物です。ですが、神の為、私の為、ボーナスの為、新作のバッグの為、頑張ろうと思います!!ファイト、私!!」

「がんばるがいい、神はいつも…たぶんいつも、君をだれか経由で見守っていると思う。存分にやりたまえ!…やりすぎたら切り離すけどね♪」


「はい!最後の一言なければ惚れそうでした!では、今度は良い報告をいたします!!」


なん…だど……。悪魔ちゃんの好感度下がた………だと………


カチャ パタン パタパタパタ


元気になって去ってゆく悪魔ちゃん。

私はそっと録画を終了する。


若干の賢者モードを経て私は仕事用ではない端末を立ち上げる。

起動先に映し出された掲示板に、この純粋な神の感情を書き込む。


『本日、部下ロリっ子にときめいた。歪んだ表情もありだな!と思わず叫びそうになった。ああ、神よ、この罪深き私をお許しください。』


ポチっとな。


早速レスが何件かつく。

『罪深きあなたを許しましょう(by神)あと通報しました。』

『触れなかった貴方に喝采を、YESロリータ、NOタッチ。』


私はふふふと余裕の笑みを浮かべながら紅茶を楽しむ。

差し込む日差しが心地よい。まさに神がいるべき厳かな空気だ。


そして私は端末を閉じる。

『悪魔ちゃんの懺悔室!!』という掲示板を開いたままで。


以上、「悪魔ちゃんの懺悔室!!」でした。

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