第15話「気付いたらひ弱な僕もコンナニタクマシクナッテ、オンナノコニモテモテ」
「が~う(かりかりチーズ♪)」
「ボウボウ(ピッザ~♪)」
「ボッ(いぇい!)」」
「がっがう~(ゆでると最高♪パリッと美味しい~)」
「ボボウ(ソーセージ♪)」
「ボッ(いぇい!)」」
15階層。フロアに半ば村ができているこの場で収穫後のリッカを食べながら3匹はノリノリで歌う。
明日アユムが帰ってくるので3匹とも上機嫌である。
特にアームさんなどはついこの間まで、このフロアでは入り口を見る以外何もしなかったのに、今では『そんな使命あったけ?』とばかりに入り口など見ない。
そんな注目されていない入り口でそっと気配を消しながら、一人のドワーフがアームさんたちの様子を見ていた。
「ここ15階層だよな……もしかしたら素通りできる? ……いや待て、そう見せかけているだけかもしれん。なにせエンペラーオークとフレイムワームとクレイジーパンサーだ。どれか1体相手にするのも無理なのに、あんなに仲良さそうにされると仕掛け辛い……引くか……」
こうして上級冒険者たる白髪のドワーフは闇に溶けて消えた。
「がうがうが~~~~~~~~~~(肉を焼くならやっぱり~~~~~~~~~~♪)」
「ボウ・ボッ~~~~~~~~(やきにくのたーーーれーーーーーーーーーーーー♪)」
こいつら幸せそうだな……。
「がう(明日は焼き肉の帰宅する日だぁ!)」
「ボウ・ボッ!(おー!)」
「がう(食うぞ焼き肉!!)」
「ボウ・ボッ!(おー!)」
「がう(飲むぞリッカジュース!!)」
「ボウ・ボッ!(おー!)」
「がう(そして何よりシチューをたべるぞ~~~!!)」
「ボウ・ボッ!(おー!)」
「ボッ!(俺は新種の作物に期待っす!)」
はい、その頃地上のアユムは。
「アユム、料理は魔法力」
「マホウハキンニク」
「……」
無言で逃亡したギュントルが捕まる。
「キンニクハスバラシイ! チカリサンハセクシー」
隠れようとしたチカリが捕まる。
「俺たちは魔法を教えるようにと言ったよな?」
「てへ♪」
「てへ♪」
「ミヨ! キタエアゲタ三角筋ヲ!!」
ギュントルのスキンヘッドの頭に、油性塗料で書いたとわかるように髪が書き上げられる。
チカリはアイアンクローの刑に処される。
「これどうしろと……」
「ついうっかりやりすぎちゃった、えへ♪」
「ついうっかり魔法打ち込みすぎちゃった、えへ♪」
「キンニクコソマホウ! セカイノコトワリヲシレ!!」
ギュントルの顔にヒゲと頬に赤い塗料が追加される。
チカリは、女性で回復術の師匠メアリーに連れて行かれ、子供服1週間の刑を追加された。
「チカリんはかわいいでちゅねー」
チカリを連れて戻ってきたメアリーのセリフである。その瞳に一片の優しさもなかった。頭をなでる手に力がこもる。メアリー、ゆったりとした白衣の上からでもわかる出るところ出ている体と子供が4人成人しているとは思えない、30代前半にしか見えない美貌。まさに美魔女である。
「あら、チカリん。ちょっと大きいかな……。可愛くないわね……。そうだ、いい薬があるの♪ ちょっと縮もうか? チカリん」
床にめり込む勢いで土下座するチカリ。『可愛くないわね……』という言葉に背筋が寒くなったようだ。
「いやです。ごめんなさい。反省しますので、その薬だけはご勘弁ください。せめて逆の薬を!!」
切実な願いであった。
「私、もうちょっと縮んだ方が可愛いと思うの。ねぇ、皆もそう思わないかしら?」
「うむ」
「まぁ、ほどほどにな」
「チカリは猛省すべきだな。だれがアユムを治すと思っている……」
「チカリんは縮むのがいいと思う。さらに理想に近付く!」
「いや~~~~~~~、変態がいる! 幼女趣味の変態がいる!!!!」
逃げ出すチカリはあっさりとメアリーに捕まる。一見優しく抱きかかえられているが、チカリの表情を見れば脱出できないホールド状態であった。
「やだな~、チカリたんは大人だよ。……年齢は……。つまり……」
「「「「合法ロリ! タッチ解禁だ!!」」」」
罪深い。なんとも世の中罪深い。
「俺もあんなことになるの?」
ギュントルは頭全体を塗装されながら恐怖に震える。
「大丈夫だ。お前はこのまま学会に出てもらうだけだから」
「まて! それ学者として死刑宣告!」
逃げようとするギュントルだが、魔法の為の筋肉が戦闘の為の筋肉に勝てるはずもない。一歩も動けずにいるとどんどん周りを囲まれる。
「ギュントル。大丈夫。学会の日までうちの店で下働きさせてやるから。万が一、塗料メイクが落ちたらすぐ塗れるぞ♪ あ、そうだ。自慢の筋肉は白塗りにしよう。黒光りしてて気持ち悪かったんだよね」
「「「「イイネ!!」」」」
満場一致である。
「いや~~~~~。筋肉だけは筋肉だけは御助けを! 後生ですので!!!!!」
「「「「却下」」」」
連れてゆかれるギュントルは魔法組合の長、この国最高の魔法使い。そんな面影がなく、まるでドナドナされてゆく子牛のようだった。
やりすぎ師弟が粛清された翌朝。アユムは昨日半日の記憶がないままダンジョンへ向かう事となった。
「では行ってきます! ギュントル師匠、1週間ありがとうございました! ……ちなみにそれイメチェンですか?」
押し黙るギュントルを後ろから誰かが小突いた。
「うむ、学会まではこれで過ごそうと思ってな」
「さすがです! 白ペンギンみたいで可愛いです! きっとインパクト抜群で発表もうまくいきますよ!」
爆笑が巻き起こる。落ち込むギュントル。
何が起こっているかわからないアユムは頭上にハテナマークを浮かべ只々唖然とするだけだった。
「チカリさん。いろいろご指導ありがとうございました」
「う、うん」
次は自分の番とばかりに過剰に警戒するチカリ。
「その服…とっても似合ってますね♪」
「ぐはっ…衛生兵! 衛生兵!」
「よんだ?」
大げさに倒れ込むチカリを支えるメアリー。まさに墓穴!
「チカリさん。無理に大人ぶるよりよっぽど魅力的だと思いますよ?」
「「「「L・O・V・E! チッカリーン!!」」」」
「私はこの屈辱をわすれない!」
「自業自得ってことも忘れないようにね♪」
「……はい……。わかった! わかったので頭抑えないでください! 縮む縮む! これ以上縮みたくない!!!!」
またもアユムは蚊帳の外である。
更にクエスチョンマークを大きく浮かべるアユムを、今回の同伴組が促してダンジョンへ潜る。
こうしてアユムは、少しの筋肉と弱点の克服と言う成果を得てダンジョンへ帰っていった。
「本当に、学会だけは勘弁して。今回賢者の娘が来るの! あの子むちゃくちゃだから絶対よからぬ方向に事が動くの! だから……」
「組合長、あきらめましょう。私もこの格好で参加することになりました……。諦めから開く道もあります……きっと……」
「チカリぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
結局、後日学会はさすがにまずいとエスティンタルが全員を説得してギュントルとチカリは解放された。
その後魔法組合から『筋肉!』の雄たけびの回数が減ったことが確認され周辺住民が安堵した。それだけ記載しておこう。
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