第14話「魔法を究めるコツは…フロント・ダブル・バイセップス!」

 「僕、魔法がわからないです……」


 冒険者組合の酒場でミルク片手にアユムが落ち込んでいる。小刻みに左右に揺れる木のジョッキがアユムにしては珍しく苛立ちを現している。


 そこにそっと皿が置かれる。


 「あちらのお客様からです……」


 ステーキだった。酒場でステーキだった。ほっかほかの焼きたてである。

 アユムはあちらと示されたほうを見ると、ギュントルが酒場の入り口に立っていた。アユムに背中を向け今まさに出ていこうとしている。


 「師匠!」

 「……筋肉……。付けろよ……」


 振り返ってサムズアップの筋肉(禿)。そしてゆっくりと去ってゆく…

 なにこれ?いい場面なの?どうなの??


 「師匠、僕頑張ります……」


 そしてアユムはステーキにかぶりつく。濃厚な牛の味がした。牛ステーキだった。

 マスターがそっとパンを置く。心憎いサービスだ。


――


 翌日、アユムは朝一番に魔法組合に訪れチカリに教えを乞う事にした。賢い方法だ。


 「ぐっと持ち上げて、ぎゅるんと回して、パッと出す。これで魔法が使えるはずよ」


 赤毛ショートカットの見た目ロリ(16歳)のチカリさんが笑顔で言う。

 ああ、こいつも脳筋。しかも天才型だ。


 「えっと、それが土魔法ですか」

 「ええ、でね。火魔法は……」


 チカリに後ろに回られて抱きつかれる。


 「ここ、おへその辺りから力が出てこの背中に抜け出すように力を動かすの♪」


 (アユム、あててんのよ♡)

 (チカリさん。当たってません。遺憾ながら。……どちらかと言うとお腹が当たってます。)


 チカリさんは幼児体系である。繰り返す…事はしません。はい。自分大事です。


 「でね、水魔法は……」


 チカリさんのセクハラ行為は続く! 魔法組合、碌な人材が居ない!!

 その後しばらく座学? が続く。


 さてアユムが勉強しているうちに、昨日測定したアユムの属性について語っておこう。

 アユムの属性だがやはりと言っていいが【土】だった。


 思えば相性の良い奥義も必殺技も土属性が多かった。

 何よりアユムは農家である。土いじりはなじみの作業だった。

 そして1番の師匠ランカスの手によって、基本の土魔法より先に応用発展分野である岩石魔法を覚えさせられていたことも手伝い、土魔法の習得が早い様だった。


 そして組合の裏庭にチカリとアユムは対峙していた。ここはいわゆる魔法実験場である。


 「とりあえず、今の魔法を見るわ、土、風、火、水の順番でボール系を撃ってみて」

 「え? 当たっちゃいますよ?」

 「大丈夫よ。相殺するから」


 からからと笑いながら言うチカリに、少しむっとしてしまうアユム。

 アユムは理解していない。


 何故チカリが組合長ギュントルと接する立場にいるのか。

 何故気軽に組合長ギュントルを殴り倒せるのか。


 つまり、魔法と言う1点だけ見てもチカリはアユムのはるか前を進む達人の域にいた。そう言う事であった。


 なのでチカリはアユムに才能があろうがなかろうが、昨日今日で本格的に修行を始めたばかりの人間に魔法で後れを取ったりしない。


 「サンドボール!」

 「はい、サンドボール」


 圧縮された砂の塊がぶつかり合いアユムが放った球が砕け散る。チカリの球は健在でその場にとどまりチカリが指を鳴らすと消える。


 「次♪」

 「はい! ウィンドボール」

 「ウィンドボール」


 圧縮空気弾は先ほどの砂の球と同じ末路をたどる。


 「次♪」

 「はい! ファイヤーボール」

 「ファイヤー」


 アユムの火球はチカリの、本来たき火やかまどの火つける着火用の、魔法で吹き消される。


 「次♪」

 「はい…。ウォーターボール…すみません。出ませんでした…」

 「…いいよ♪ もう1回」


 アユムの苦手属性は水である。それもそうだ。これまで鍛冶場の水とか掃除用の水、畑の水やり用の水。あとは飲み水しか作ってこなかったのだ。いきなり攻撃用の圧縮水弾を作れと言われても無理だろう。


 「ウォーターボール」

 「…ふん」


 アユムが放ったこぶし大の水弾は、チカリの手によって握りつぶされた。


 チカリは高速で飛来したはずの魔法を素手で握りつぶす。素人であるアユムには理解できなかただろうが、動体視力や反射だけで語れる技術ではない。魔法操作。主に魔法力を自然界に放出しながらと現出した法則性を読み解き解除する。極めて高度な技術を披露しいた。


 「アユム。筋肉と向き合いなさい」


 筋肉魔法理論だ。


 「魔法放つときに昨日組合長に教わったことを意識しなさい。じゃあもう1度」


 腑に落ちないアユムだった。だが、それでも理解はできる。きっとこれは個人の感性や感覚によってとらえ方が違うものなのだ。だから、自分なりのやり方を見つけなければならない。これまでの師匠たちとの修行で体が自然とチカリが言わんとしたことを理解した。


 「サンドボール!」


 アユムが放った一撃にチカリは目を見張った。そして褒め称える様にに右手に魔法を宿し迎撃する。


 (この子、既に理解しかけている……面白いわ。皆これにはまっているのね……でもちょっと悔しい)


 「次」

 「はい! ウィンドボール」

 「ウィンドボール」


 簡単に押しつぶされる魔法。だがアユムに先ほどまでの無力感はない。少し進んだのだ。なんとなくで理解できた。それが、アユムに無限の推進力を与える。


 それでも……。

 魔法発動速度はチカリの400倍かかり。威力については比べ物にならず、魔法効率に至っては1000倍効率が悪い。


 だが、その間を1/10000でも1/100000でも着実にアユムは進む。あるときは苦手属性で戻っているように見えるが、繰り返すことで進歩する。


 (これが追われる者の恐怖……。組合長。これは私に対しての刺激ですね。うふふふ。これは本当に恐ろしい。そして、同時にこれはとても楽しい♪ 追う立場から追われる立場に変わる。なるほど刺激的ね……。いいでしょう。乗せられてやりますよ。でも覚えておいてください。その結果私があなたを抜くかも知れないことを……。これでも花も恥じらう16歳。まだまだ成長期! きっと背も胸も魔法技術も成長しますよ)


 「サンドボール!」

 「サンドボール! …て、ああ、ごめん。威力付けすぎた! アユム―! アユム―! やっば、起き上がらない! 回復魔法、えっと回復魔法!」


 師匠! ギュントル師匠! あなたの一石二鳥作戦失敗してる気がするよ!!


 アユムのチカリ恐怖症が筋肉痛と共に3日ほど抜けなかった。

 そして修行を終えたアユムはちょっとだけ筋肉がつきました。


 「魔法は筋肉!」


 スキンヘッドの国内最高の魔法使いは、笑顔でフロント・ダブル・バイセップスのポーズを決める。

 通行人がギュントルを避けて通ったのは、きっと魔法の効果に違いない!


************************************

さて、今回の後書き!はっじめるよー!!

題「ギュントル先生のなんで筋肉?~魔法は筋肉でできている!!~」


 世界の声(以下世)「はい、個人的には悪魔ちゃんと話したかった世界の声です!こんにちは!」

 ギュントル(以下ギ)「何故か本編よりこっちで喋る!コムエンド魔法組合組合長。筋肉魔法のギュントルだ!」


 世「暑苦しいので単刀直入に聞きます!なんで筋肉が魔法に重要なのでしょう?」

 ギ「暑苦しい…ふむ。誉め言葉だ!」


 世「あの…回答をお願いします」

 ギ「すまんな嬉しくて忘れていた。魔法と筋肉の関係だったな?」


 世「ええ、謎です」

 ギ「それは簡単な話だ。魔法とは我らの体を通して発現する事象である。いわば人間の体を媒介、フィルターと言ったほうが良いか、つまるところ体にエネルギーを流し発生するのが魔法なのだ」


 世「へぇ(話長そう…だんだん眠くなってきた)」

 ギ「多くの魔法使いはそのことを理解せず、折角魔法回路を通しているのに詠唱やら態々杖を使ったりしている。甚だ無駄なことだ」


 世「ほうほう(…あ、今日の社食のイベントランチ豚丼か…650円。うーん悩む。パスタでいいかな…)」

 ギ「根源の話なのだ。体のエネルギーを使い、体を経由して法則性を付与し、事象を発現するのが魔法だ。故に効率的に魔法を行使するためには発生装置たる体と向き合う必要がある。すなわち筋肉と向き合う事!それこそ魔法の奥義である!」


 世「でも、大賢者様って細身の女性ですよ?」

 ギ「あれは細マッチョだ…」


 ギ「一度握手したことがあるが、戯れに力を入れたら握りつぶされてしまった…良い経験だった」

 世「(人外…大賢者って可愛い顔してたのに…)はい、お時間ですので本日の講義はここまでといたします。ギュントル先生ありがとうございました!皆さんまたお会いしましょう~」


 ギ「良いか、重要なのは腹直筋だ、この…【放送は強制終了しました。 ギュントル先生の今後の活躍にご期待ください!】」


 ちなみにアユムは農筋目指してます。

 またね!


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