第13話「魔法とは何のためにある?料理の為です!(即答)」
「じゃあ、また行ってきます!」
あれから1週間。劇的ビフォーアフター的な15階層の改装工事がひと段落。
アユムが地上に一時帰還する日を迎えた。
「がう(えー、師匠ズが行き来すればいいじゃん。アユムこっちに居ようよ)」
「ボウ(1週間づつ往復すると決めたばかりではないか……)」
物わかりのいい権兵衛さんとは違い駄ネコは相変わらずである。
「がう(師匠いなければあの地獄の特訓もないよ♪ ゆったりまったり農家ライフ保証だよ?)」
「うーん、すごい魅力的だけど……ハインバルグ師匠がね、料理は魔法力だ! っていうんだよ」
はい? アユムの言葉の意味が分からないモンスター一同は呆然としている。
「おう、猫。戦闘は火力。料理は魔法力だ。アユ坊には根本的に魔法の知識が足りん。身体強化すらできん。危険で料理が仕込めないじゃないか! 猫よ、これも美味いものを食べるためには必要なことだ。理解しろ……」
「がう(うっす! ハインバルグ師匠がいうならその通りっす!)」
賢明な読者諸氏であれば気付いていると思うがモンスター言語を理解できるのはアユムだけである。ではこの2人何故通じ合っているかと言うと。
「がう(師匠。また来てね♪)」
「猫よ期待するがいい!」
料理にかける情熱?で通じ合ってます。食欲と創作意欲で若干すれ違ってるけどね。
「がう、がっう~♪(獅子は我が子をそっと千尋みたいな谷にポイ捨てして楽しむという。アユム、立派になって美味しい料理たのしませてね♪)」
「うん! 頑張って料理の為に魔法覚えてくるよ!」
そう言った師匠ズとアユムは階段を駆け上がってゆく。
「がう(あの重い服でよく走れるなぁ……)」
「ボウ(あれが人間の言う、努力と根性と言うやつらしいぞ)」
「がう(努力……根性……それよりもご飯!)」
尻尾全開の駄ネコとあきれがちの子ブタを置いて、舞台は再び地上に戻る。
――
「ハイ吸って吸って吸って吸って!」
豪華な飾りつけをされた一室で、スキンヘッドで筋骨隆々の大男が胸筋を膨らませがら、アユムに指導していた。果たして何の指導だ? 筋肉か? 筋肉なのか? アユム魔法習いに来たのではないのか?
「はい、そこで止めてー。そして感じてー。そう筋肉を(キラッ」
白い歯が輝くそして中年スキンヘッドは無暗に筋肉が盛り上げさせる。
やめてください。うちの主人公を筋肉ダルマにしないで! 成長期に無駄な筋肉付けると背が伸びないよ?
「…………くっは、ギュントル師匠! 筋肉が感じられません!」
「この馬鹿野郎!」
筋肉の塊(禿)がビンタを振りぬく。少女漫画の乙女の様に吹き飛ばされるアユム。
「お前は筋肉への愛が足りないのだ! そんなことで一流の魔法使いになれると思うなよ!」
「でも分からないんです!」
珍しくアユムがネガティブである。いや、ネガティブにもなるよねこれだと。
「あ、組合長またやってるー」
「貴様も筋肉が足らん!それでは立派な魔法使いになれんぞ!」
はい、という事でギュントルさんは魔法組合の組合長さんでアユムの肉屋の師匠です。
「肉はいいぞ。食肉であれば赤身も良いが、差しの入った霜降りも良い」
肉を想像して恍惚の表情である。変態さんです。
「はいはい。アユム君。基本魔法の教本これね。このあと属性調査するけどいいかな?」
「チカリさん、ありがとうございます。調査お願いします!」
「まて、アユムと私は筋肉についてこの後語らう予定なのだ! 師弟の絆に無粋な水を差すでない」
ふふんと自慢げに言うギュントルの眼には暗に『アユムと一緒でうらやましかろう』と映っている。そしてチカリもそれを正確に読み取る。
「組合長♪」
チカリの笑顔。そして最小の動きで投げ飛ばされるギュントル。
「見事だ。それで筋肉がついて、背が高ければ理想の女なのだがな」
「そんな気持ち悪いのやだ!」
即座に反論する赤髪ショートカットの活発系乙女(16歳)チカリさん。
「そもそも髪だって伸ばしたいのに、うちの馬鹿親父と組合長のせいで!」
「それはすまぬ! だがお前の格闘センスが勿体なくてな」
チカリさんの額に青筋追加注文はいりました!
「ふむ、本当に背がもう少し高ければ…」
恋に恋する乙女(135cmAAAカップ)チカリは今のアユムでは目ですら追えない速度でギュントルに接近して閃光の様な速さのラッシュを見舞う。
ドオオオオオオオオオオオン
とどめの蹴りで魔法組合壁のオブジェと化したギュントル。
ふしゅうううう、と蒸気機関車の様な恐ろしい息を吐き出したチカリに声を掛けずらいアユム。
「はい、じゃあ別室で測定するよー」
「アユム。先ほどの呼吸法忘れるなよ。それこそ魔道の基礎にして極意」
オブジェがしゃべった。
「はい、ギュントル師匠。明日もよろしくお願いいたします!」
「うむ(がくっ」
「あー、組合長寝るなら仕事してくださいね。いっつも午前中本業してるとかで留守にしてるんだから仕事溜まってますよ~。戻ってくるまでに終わってなかったら……」
オブジェが再起動しました。
アユムは黙って魔法組合の覇王に従い別室に向かう。
もう一度言おう。ここは魔法使いを束ね相互互助を目的とした組合である。国内の他の都市からは『知恵の牙城』と呼ばれるほど魔法レベルは高く、新しい取り組みを次々に生み出す国内最先端の魔法研究機関でもある。
嘘じゃないよ。
「はい。アユム君手を出して~」
アユムは自分より小さなチカリにドキドキしていた。
決して恋愛的なドキドキではなく、恐怖のドキドキである。
(もう、アユム君たら緊張しちゃって♪ お姉さんが優しくしてあげようかな~♡)
重要なので二度言おう。恐怖のドキドキである。
頑張れアユム! そこで魔法が学べるか全く分からないが、とりあえず生き延びれば何とかなるさ!
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