第12話「勇者と聖女と悪魔の企み」

 「残念ながら貴方達にご紹介できる案件はございません」


 冒険者組合の受付嬢から突き付けられた言葉に唖然とするイットとパーティーメンバー。


 「なんでよ!」


 食って掛かるのは決まってリムだ。


 「領主様からあなた方5人に対して冒険者殺害の嫌疑がかかっております」


 リム以外の4人は血が引くような寒気に襲われる。なぜ領主がという思いがあるが、それよりも領主に目をつけられては生きてゆけない。この地では領主こそ法なのだ。


 「正直申し上げますと、冒険者組合といたしましては冒険者が犯罪者と言うのは、外聞的に悪うございますので……できれば……」


 できれば辞めてほしい。


 言外に『今まで世話をしたのに犯罪とは……貴方達は冒険者ではない、そうやって捕まっていただけないか』と言われている。


 「……わか「ふざけないで! 何もしてないのに咎められるとか証拠はあるのでしょうね!」」


 イットが承服しようとした所でリムがかぶせるように否定する。


 「そうですか。では現在領主命により冒険者免許停止中になります。嫌疑が晴れましたらまたお越しください」


 彼らは脱力したまま冒険者組合を出た。


 イット、タナス、サム、セルのアユム置き去りに関して罪悪感を感じていた面々はどこをどう歩いた覚えていない状況でエリエフッドの街を歩く。


 空は透き通るように高い青空。吹き渡る風は初夏の爽やかな風である。

 散歩するには非常に良い日だ。


 「イット、どこに向かっているの?」


 街を出ることはできない。領主による嫌疑がかけられたのだ。脱出手段などない。

 生活するにも金が残り少ない。冒険者として活動できないのであと10日分の蓄えしかない。

 路頭に迷った人間が行くところは一つである。


 「神殿に行こうと思う」


 イットが決意をはらんだ眼で言う。先ほどのショックからようやく戻ってきたようだ。


 「神殿か……一時しのぎの仕事を斡旋してもらって、嫌疑が晴れるのを待つしかないな……」


 普段冷静な魔法剣士のサムがイットに続いてショックから目を覚ます。


 「ああ、ついていくさ……」


 逆境に強いはずであった軽業師のセルは戻ってこない。彼の夢はダンジョン攻略であった。

 最下層にたどり着くと、ダンジョンマスターから褒美とそのダンジョンの入り口に名を刻まれる名誉与えられる。


 セルの地元もダンジョン都市だった。だから子供の頃ダンジョン踏破した英雄たちに憧れた。英雄のその後物語にも胸が躍った。だから大好きな英雄が生まれた地コムエンドに来た。


 だが、今その夢が潰える。嫌疑が晴れたとしても依頼は受けられないだろう。モンスター討伐さえさせてくれないだろう。国が管理するダンジョンなど入れてもくれないだろう。その他のダンジョンは危険指定されたダンジョンだ。今の実力で挑むのは無謀もいいところだ。


 「……」


 タナスは静かにうなずくだけだ。


 「あなたがイット様ですね」


 神殿の門をくぐるとそこで待ち構えていた若い女性神官に手を取られる。

 その時彼女のはじけるような笑顔が暗く沈んだ一行のとって、沈んでいた気分を救い上げる女神の様に見えた。


 「お待ちしておりました勇者様、聖女様、そしてそのお仲間のみな様!僕はアルフノール。早速こちらへ!」


 あれよあれよと奥の間に連れてゆかれる一行。


 「さぁ。この剣を抜いてください」


 言われるがまま石の台座に深く刺さった剣を抜き放つイット。

 詰めかけた神官から巻き起こる歓声。


 調子に乗って剣を掲げるとその剣は金色に輝く。


 「さぁ、聖女様はこちらの指輪を!」


 背中を押されてリムも指輪をはめるとこちらは白銀の光を放つ。


 「ああ、さすが神託の勇者様と聖女様!ぜひ我らをお救いください」


 アルフノールを筆頭に神官たちは涙を流しながら2人に祈りをささげる。

 こうして犯罪者が半日で英雄候補に変わった。そんな日だった。


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 はい、やってきました。今日のMVPインタビューコーナー!

 ゲストは悪魔さん!


 どんどん、ぱふぱふ!


――お疲れさまでした。

 悪魔「いやー、ちょろかったっす!聖剣の適合者があんなチョロイとは、ちょっと情報操作しただけで騙されてくれました!犯罪者認定されたら門で捕まるっていうのにね(爆笑)」


――見事なお手並みでした

 悪魔「あはは、僕達神様の部下ですからね。なれたもんですよ」


――今回の聖剣使いいかがでしょう?

 悪魔「いや~、そこなんですよね。あの子ら弱すぎて話にならないんですよ」


――弱いですか?

 悪魔「これから鍛えますよ!きっと強くなります。ならなかったら他の適合者が探しますよ。近くに2~3人いますからね(笑い)」


――ちなみにあの聖女って本当ですか?

 悪魔「親は本物でしたね。親は。娘はどうなんでしょうか。わかりません(爆笑)」


――目的達成できますか?

 悪魔「これ以上あの女にでかい顔されたくないですからね。最悪あの子をこっちに拉致できれば…ですからね。聖剣を囮にしてでも達成しますよ」


――なるほど、今後のご活躍期待しております

 悪魔「任せてください!みんな!今後、僕の活躍に期待してね♪」


――以上、僕っ子神官さん 兼 冒険者組合受付のお姉さんでした~

 悪魔「まったね~」


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