第10話「師匠ズ!…暇なん?」
「これは……魔法力循環不順ですね……」
「ボウ(ほう、魔法力を込めるだけではいかんのか……ふむふむ)」
アユムがトウモロコシに手を当てると、色が褪せていた幹に緑の色が戻る。アユムが発見したことだが、ダンジョン内部の濃い魔法力を養分として植物内に循環させると作物の元気がよく、そして甘く出来上がる。
「自分の魔法力は添えるだけです」
「ボウ(添える? 送り込むんじゃないのか?)」
「ええ、外にいっぱいある力の流れを取り込む感じです。そっと添えてあげると5日ぐらいは自分で取り込んでくれますので……」
「ボウ(さすが、アユム)」
褒められて照れるアユム。権兵衛さんとアユムがその時師匠たちは何をしているかと言うと……。
「おい、トイレに扉付けてるから手伝ってくれ」
「調味料運ぶの手伝ってくれー」
「冷凍保存庫作るからランカス、穴掘ってくれ」
「儂の槍は穴掘り用じゃないんだがな……」
「手空いてるやつ狩りに行くぞー」
「おー!」
各自自由時間のようです。
……あれ? 家建ってない? 石造りの……あれ? 壁が削れまくってない? その辺りどうなんでしょう
「がう(人間コワイ……見てない見てない。僕そっち側見たことない)」
駄ネコはそれだけ言うとアユムの方へ逃げていった。
「石材切り出したところ不格好じゃのう……彫るか……」
自由人は行動を開始する。
「ボウ(甘みが増した!)」
「でしょ?」
「がう(一本おくれ♪)」
そして半日が経過する。このダンジョンだが、外部の時間に合わせて明るさが変わる。今は丁度夜である。師匠たちが持ち込んだ魔法道具で明かりをつけ夜ご飯の時間である。
「俺の料理を喰いな!」
師匠の一人。元双剣使いの料理人ハインバルグが吠える。
並べられたのは各自にスープと大皿でピザだ。
小麦とチーズはどうしたのか!
小麦は甘味が低いトウモロコシを粉にして作成。チーズは……輸入した。つまり持ってきた大荷物の中にチーズが鎮座しておりました。こだわりだそうです。
「あ、その前に……」
アユムはピザの大皿の隣に焼きトウモロコシを積んでゆく。そして師匠たちにリッカジュースを配る。
アユムは笑顔。師匠たち苦笑いである。
ダンジョン作物の不味さを知っている強者たちだけに手を出し辛い。だが、可愛い弟子であるアユムが期待の眼差しを向けてくる。
誰かが決心したように生唾を飲み込んだ。だが誰の手も動かない。
「がう(あれ? 食べないの? じゃ、ください! もう全部いける意気込み!!)」
ピザを食べ、その後トウモロコシを芯ごと食べていたアームさんは目ざとい。何せ配られた焼きトウモロコシは1本なのだ。今もそれを大事にキープしている。
「がう(アツアツで食べたいけど、なくなるのも寂しい!)」
「ボウ(うまいものは美味いときに食べるのが礼儀だ)」
よだれを垂らしながら『要らないならくれ!』とアピールするアームさんに押される様に、ランカスが意を決してトウモロコシにかぶりつく。
目をつむって『ええい、ままよ!』と口を開いて食べる。
ランカスの咀嚼音だけがフロアに響き、師匠たちはランカスの表情に注目する。
初めは眉を寄せて味わうが、やがて思ってもいない味わいに眼を開き眉間のしわが消える。そして周りを見回してまた眉間にしわを作り食べる。本人は気付いていないが最後食べるペースが速くなっている。
「「「「「この爺! 『まずい』と臭わせて独占する気だ!!!」」」」」
すぐにばれる演技でした。それがわかると師匠たちは我先にとトウモロコシとリッカジュース、そして後から運ばれてきたムフルの実で作られたタレを十分に染み込ませた肉にかぶりつき……。
「「「「「うまい!!!!」」」」」
ゆっくりとアユムはガッツポーズ。
「がう(ああ! 残ると思ったのに…)」
「ボウ(もう冷えてきたぞ? 喰わんなら貰うぞ?)」
「がう(食べる! これは俺んだ! 取ったら戦争だぞ!)」
アユムも席についてピザを堪能する。うまいなぁと思いながら何かを忘れている気がしていた。
「ボッ(ばんわーっす。アユムん帰宅したと聞いて!)」
アユムは討伐されかけたワームさんを救出した。
「がう・ボウ・ボッ(人間コワイ!)」
……師匠たちいったい何しに来たんでしょうね…
「ボッ(俺だけ世間の風当たりが強いっす。虫差別反対!!)」
虫だけに無視……ブブブッ。
「ボッ(あ、ダンマスっすか? 神様にコネとかありませんかね? ええ、コンプライアンスとか世界の声に……ええ、ある。ほうほう……)」
ワーム先生、ちょっとだけお話が…
あれ? なんで距離とるの?
「ボッ(虫世界でモテなくなりそうなんで、無理っす!)」
ウワァァ----------ン!!!!
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