第9話「お芋って美味しい」
「がう(まだかな♪ まだかな♪)」
5階から降る階段の下でリズミカルに左右に揺れるアームさん。
「ボウ(まだ朝だ。もっと時間かかる落ち着け)」
「がうっがうっが~(焼き肉~♪ リッカジュース♪ そしてなにより~)」
かまわずリズムをとるアームさん。
「がう・ボウ(焼きトウモロコシ~♪)」
結局、仲良く歌う権兵衛。
仲いいな、このおバカモンスターコンビ……。
「……がう(なにやつ!)」
2番まである歌がループして何十回目かに、アームさんは何者かが下りてくる気配を感じる。
「ボウ(人間の気配だ、アユムか!?)」
コツンコツンコツン
鳴り響く足音にアームさんと権兵衛のテンションが上がる。
そして、人間が下りてきた。
「……」
降りてきたのはアユムと同じ服を着たアユムと同じ年の頃の巨人の少年だった。凡そ2mほど身長がある。
「がう(アユムが巨大化した!!!)」
「ボウ(おっ落ち着け! アレだ。修行したら急に成長期とか来て、ちびっこキャラが高身長イケメンキャラに変わるアレだ! きっとアレに違いない!!!)」
いや、それアユムじゃないから。
「がう・ボウ(……本当だ!!!)」
気づけよ、モンスターなら臭いでわかるっしょ。
「がう(アユムと同じ匂いするよ?)」
「ボウ(アユムが近くに居るという事だな……)」
権兵衛が誤魔化しているけど、さっきバッチリ間違ってましたよね。
……権兵衛は何かを考えるようにダンジョンの天井を眺めると、一冊の本を取り出した。まて……それは……。
「ボウ(邪眼流奥義『邪龍滅殺破壊光線』とはその左目に宿した邪眼を通じて暗黒エネルギーを…( ´,_ゝ`)プッ」
権兵衛さんはホンヲトジテ ナニカイワントシテイル。
・
・・
・・・
…ごめんなさい。
「ボウ(アユム! アユムはどこだ!!)」
「がう(まて次が降りてくるぞ!)」
ガタンガタンガタン
「おい! アンソニー何ボケッとしてやがる! 安全なら荷物降ろすの手伝え!!」
「師匠! 上級モンスターが2体います!」
アンソニーと呼ばれた少年は、よく見ればびっしょりと汗をかき膝が笑っていた。
一見駄猫と子ブタだが、これでも難攻不落の15階層フロアボス『クレイジーパンサー(討伐推奨パーティーレベル50)』と、20~30階層に帝国を築くオークの帝王『エンペラーオーク(討伐推奨パーティーレベル80)』である。出会ったが最後死の宣告を受けるはずなのだ。一見な。見た目だとな。世間的にそう言われてるってだけだけどな。
「大丈夫でーす。かわいい猫の方がアームさんで。真面目系オークさんが権兵衛さんです。アンソニーさん、重い。手伝って」
「お、おう悪い。今いく……」
怯えながら背中を見せない様に後ずさりながら階段を上るアンソニー。
「がう~(可愛いだって♪ 照れちゃうな~)」
「ボウ(真面目……もっとユニークなジョークが必要という事か…)」
腕を組んで唸る権兵衛さんと上機嫌に肉球を見せてアンソニーに手を振るアームさん。
アームさん。その手が恐ろしくてアンソニーさん漏らしそうだからやめてあげようね。
しばらくして。
階段からゆっくりと体を当てながら降ろされた荷車は5台いずれも荷物満載だった。
それらが全てを降ろし終わるとアユムが2匹の所に駆けてゆく。
「アームさん。権兵衛さん。ただいま!」
ほおずりして喜ぶアームさんとアユムの頭をなでて一息つく権兵衛さん。
その様子を油断なく注視していた師匠たちが驚愕している。
「本当だったんだな……」
「まさか、クレイジーパンサーとエンペラーオークとはな……」
「アユムに言わせると、大きな猫と農業アルバイトらしいぞ」
代表してついてきたランカスをはじめとした師匠たち10名とアンソニーが緊張感を緩める。アユムの様子を見ればそうなる。
「皆さん紹介しますね。まずこちらが15階層の家主でアームさんです」
「にゃあ!(そしてアユムの保護者だ! よろしくね)」
片手を上げて可愛いアピール。でもそれで可愛いと感じるのはアユムだけだよ?
「そしてこちらが、30階層の大地主、権兵衛さん」
「ボウ(ご紹介にあずかった権兵衛と言う。まあ、よろしくだ……)」
「照れ屋さんです♪」
それを照れてると感じるのはアユムだけ……。
「そうか、儂等はアユムの師匠ランカスとその他じゃ。この度はアユムを助けてくれてありがとう……」
ランカスが代表してあいさつをすると、まぁ当然こうなる。
「おう、じじい。そのほかでまとめてんじゃねーよ」
家具職人のシュッツが吠える。ランカスと仲がいいシュッツだがそのコミュニケーション方法はもっぱら喧嘩である。子供か!
「ああ? 文句あるのか? 剣(笑)の名手シュッツよ」
「ほう。長い棒でチクチクするしか能のない槍の名手ランカスよ、言うではないか…」
喧嘩が始まる。
「がう(何この人たち、怖い)」
「ボウ(35階層の暗黒竜より気性が激しいぞ。アユムは凄い世界で生きていたのだな)」
何一つ否定ができないアユムであった。
「でも、師匠たちみんないい人達だよ。僕の自慢の師匠だから♪」
大人なアユムに大人気ない二人は仕方なしとして矛を収める。
そして、ランカスをはじめとして自己紹介が始まる。
いずれもレベルにして100を超す猛者。しかも技量は達人の域に到達している。
それが10名いる。何があっても2匹に遅れは取らない。
言い知れぬ緊張感と探り合う空気が流れるなか……。
「アームさん。権兵衛さん。お土産はお芋だよ!」
荷物から芋を取り出し笑顔のアユム。
ブレイクされた空気は帰ってこない。
アームさんたちは諦めて15階層に移動することになった。
「がう(アユム、乗っていきなよ)」
「えー、悪いですよー」
「がうがう(問題ない! 乗ってみ!)」
「じゃあ、ちょっとだけ……」
「がーーう? ぐえ(いっくぞー! ……ぐえ、おも!)」
アユムを乗せるために伏せたアームさんの背に乗るアユム。
軽々とアユムを乗せて他の奴らを置き去りにしようとしたアームさんだったが、立ち上がった瞬間異常な重さを感じてつぶれる。
「アユム! 重さ装備したままだろ? 乗ったら怪我させてしまうぞ!」
シュッツ師匠が叫んだが、時すでに遅し。アームさんのプライドと腰は砕かれてしまった。
ん? そっちかい! って。そうだよ? 修行と言えばそっちじゃん! 重力何倍! にならなかっただけでも師匠たちは自重したのだよ。
ちなみに同時に本格修行を始めたアンソニーは10分でギブアップして何もつけていない。繰り返す。10分で泣いちゃったんだよ巨人の彼(笑)。
「がう(だめだ。世界の声、何かストレスを抱えているのかおかしくなっている)」
「ボウ(今度上司の軽い男に伝えておこうか……心配になってきた)」
やめて! あの男確実に面白がる!
絶対妙な呪いとかかけてくる!
え、ここで終わるの?
まって、創造神には、創造神には伝えないでーーーーーーー!
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