第7話「レベルアップは突然に…」
ここでレベルについて触れておこう。
この世界にはレベルと言うものが存在する。
レベルとは何か?
人類と呼ばれるある一定以上の知性を持った生物に対して神が与える恩恵。主に、モンスター討伐などの貢献、経験によってその数値が上昇し筋力、魔法力適正などの基礎能力を向上させる。
一般的にはそう捉えられている。
ではどのようにレベルアップするのか?
コンソールが現れて世界の声が【勇者はレベルが上がった!】と一々報告してくれる……などという事はない。世界の声もそこまで暇ではないし、それをしたらストーカ疑惑が発生する。そもそも生物にそのようなおかしな機能を内蔵するような余裕はない。
基本的にレベル神が降臨し本人に応じた存在へと存在進化を促すのがレベルアップである。
これに関しては人間、魔族問わず同じルールが適用される。
繰り返すが自動で上がるような、管理上面倒くさいシステムではない。
ちなみにアユムのレベルは5である。
これはレベル神殿で行われる神降臨時に職人お手伝いをしていてすっかりレベルを上げ忘れていたからである。
ゴキッ
「ぐああああああああああああ!」
「ルーカス!」
「きゃああああ!」
「落ち着けハーティ!」
5階層のレアモンスター、モンクコボルトが彼らのパーティーメンバーを捕えると見せつけるように右腕をねじ切る。壊れた人形を扱う様に悲鳴を上げ続けるルーカスを仲間に晒すモンクコボルト。
全長2m。通常のコボルトが1~1.5m程度であることからも巨大な体躯であり、その筋肉は鋼の剣すら通さない。ダンジョン5層に稀に表れる凶暴なモンスターだ。冒険者組合ではこのモンスターと対峙した時の為に逃走用の道具を配布している。当然ながら彼らも所持しているはずだが、仲間の、ルーカスの四肢をねじ切られる光景を目前にして心かき乱され対応できていない。
このままでは待ち受けるのは死のみ。4人パーティーのリーダ、フィアルは冷や汗を流しながらそれだけは理解した。紅一点魔法使いのハーティは戦士ルーカスの悲惨な状況に、未だモンクコボルトにつかまれているルーカスへ回復に向かおうとしている。パーティーのバランサーであるヒルメはそのハーティを止めるので手一杯の様子だ。
5分。
5分持てばいいほうだ。そんな状況をモンクコボルトは愉快そうに眺めている。
そうダンジョンモンスターの暴走。
本来はダンジョンで自我を得るはずのないダンジョンモンスターが長い時間討伐されずに残ると、狂化しダンジョンに漂う魔法力をその身に取り込み更に長い時間をかける事で自力で存在進化する。そして、暴走し進化したダンジョンモンスターは積極的に人を襲う。
冒険者を殺しつくせば外に出て無作為に人を殺す。だが、殆どダンジョンには脱出防止用の結界が標準装備とされている。が……冒険者や土地の権力者が破壊。または悪意あるダンジョンマスターが解放などした場合、近くに村で悲劇が発生する。
モンクコボルトは彼らの混乱に拍車をかけることにした。
グシャ
力任せにルーカスと呼ばれた少年を壁に叩きつけ、更に混乱するパーティメンバーに投げ込む。
両手剣を構えるフィアルはじりじりと後退を始める。構える両手剣が小刻みに震えている。
モンクコボルトはこれを脅威外と判断する。
ハーティはルーカスへ応急処置をしながらも、復讐の炎を瞳に宿しモンクコボルトを睨んでいる。
モンクコボルトは口角を上げて挑発することにした。するとハーティは杖を振り上げ唸り始めた。魔法使いが物理攻撃をしようとしている。モンクコボルトは愉悦に溺れる。
しかし、一人冷静になった男がいた。ヒルメだ。カバンに手を突っ込むと対策道具を引き出しモンクコボルトの隙を伺っている。
モンクコボルトは次にこの男をやることにした。そして踏み出すため体に力を入れようとしたところで、モンクコボルトは力が入らない事に気付く。
「炎剣」
最後に少年の声を聴いてモンクコボルトの意識は消えていった。
ヒルメは奇跡を眼にした。
最悪仲間を見捨てでも逃げる。フィアルとハーティの様子を見て冷静に判断した。
そこで目が合う。
自分たちのとって死の化身であるモンクコボルトに気配を悟られず、音もなく忍び寄る少年と。
ヒルメはモンクコボルトの次の標的が自分であることに気付いたが、少年のその自然な跳躍に目を奪われる。
そして、透き通る声で奏でられた技名【炎剣】。上級冒険者となり魔法戦士の資格を得たものが覚える剣技だ。
振り切られた剣はバターでも切るかの様にモンクコボルトの首を断つ。一見斬れ無かった様に見えるが首の断面周辺が赤い。そして少年がモンクコボルトの足元に降り立つとその衝撃でモンクコボルトの首が滑り落ちる。
助かった。その安堵に腰が抜ける男2人を横目にハーティが叫ぶ。
「なんで今更現れるのよ! もっと早く来てくれれば! ルーカスは!!」
その後意味の分からない事を喚き散らすハーティをヒルメは抑え、少年に礼を言おうとしたが再び少年に顔を向けるとそこには誰もいなかった。
「俺は夢を見ていたのか……」
「いや、何も言わずに行ったよ」
フィアルは額に手を当て自分のふがいなさを責めている様子だ。その気持ちはヒルメも同様だ。
「せめて礼ぐらい言わないといけなかったな…」
「ああ」
その後彼らは気を失っているルーカスを担ぎ上げると、警戒しながらダンジョンを脱出した。
その間モンスターに出会わなかったのはきっと少年が間引いてくれたからだろう。
さて、その少年ことアユムだがダンジョンを脱出し、詰め所で兵士にいくつか詰問されたのち街に戻ってきていた。
(あー、怖かった! あの女の子街で会ったら僕のこと殺しそうな勢いだったな……ピンチそうだったから手を出したけどもしかして横取りしたのかな……出会わない様に注意しなきゃ……)
アユムはどこにいてもアユムであった。
「すみませーん。この間の調味料一杯欲しいんですけどありますか?」
薬師の家の扉を開く、ここの薬師は面白いものを仕入れるのが好きで薬のほかにもその伝手で珍しい香辛料をそろえていたりする。
ちなみに、アユムの師匠その13ぐらいである。
「おう、アユ坊。あるぞー、後味噌っていうのも仕入れたぞ買うか?」
「一杯ください。あと薬になりそうな素材を……」
言い切る前にアユムは店主に両肩を掴まれる。目が怖い。そう思っていると店主が奥に向かって叫ぶ。
「おい! 冒険者組合と職人組合に走れ! 『アユム発見! 冒険者組合に移送する』だ!」
「「了解です!」」
目が店員合っているうちにあれよあれよと連れ去られアユム。モンクコボルトに圧倒的な力を見せたアユムだが、師匠にはいまだ程遠かった。
そして30分後何故だか冒険者組合のカウンターの上に正座させられる。
「あれ? これ、なに??」
どうやら自覚がないらしい。
どんどんと集まってくる高位冒険者と有名職人たち。
彼らが発する殺気にアユムは只々戸惑うばかりだった。
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