第5話「権兵衛さんはお肉がお好き」

 「権兵衛さん。今日も立派なお肉ですね♪」

 「ボウ(……たいした事はない……)」


 そういって権兵衛は獲物であるリーンラビットという24階層に生息している全長1.5m程あるウサギ型モンスターを壁につるし、腹を裂いて肉の処理を始める。これはアユムが肉屋さんで学んだことをオークの王者権兵衛さんに伝授したものだ。権兵衛さんは非常に刃物扱いがうまい。なので手渡した冒険者の業物短剣で何でもできる。


 「ボウ(とりあえず、ここに置いておく)」


 肉の塊を木の葉が敷かれたテーブルに置く権兵衛さん。新鮮さについて語ったら、倒したその場で血抜きなどの処理をしてくれるようになった。素晴らしきかなお肉屋さんであった。


 「はーい、とりあえず……」


 アユムは脂の乗っている部位はすぐ食べるようにより分け、赤身を冷蔵用の倉庫に放り込む。

 脂の乗っている部位は先日2mほどに成長したムフルの木から樹液を採取し、塩と一緒に1時間寝かせる。


 アユムが料理をしている間、権兵衛さんはモンスターの皮を洗い干している。さらに時間が余ったのでトウモロコシやリッカ畑のお世話まで手を出す。

 対してアームさんは何をしているかと言うと、じっとアユムの行動を見守っていた。万が一に備えあのオークが何かしでかした場合、即座に助けられるように……。


 「がう(じゅる……あのお肉美味しそう……)」


 ……即座に助けられるよう!


 「がう(そうそう、リッカの葉と塩とムフルの木の実をまぜると甘辛くて最高な味、最高の肉の調味料になるんだよなー)」


 ……自宅警備員であった。


 「ボウ(働け駄ネコ……)」


 返す言葉もない。あろうはずもない。


 「権兵衛さん! お風呂沸いたのでお先にどうぞ~」


 アームさんがお肉に目を取られていると反対側にアユムがいた。


 「ボウ(では、申し訳ないが一番風呂を頂く……)」


 権兵衛さんが豪華な衣装を脱ぎ捨てると御付のオークジェネラルがそっと回収する。その手には着替え用の衣装が手にされている。


 「ボウ(貴様もあとで入るとよい。アユム殿、石鹸お借りする)」

 「はーい、あがったら冷たいムフルジュース出しますから教えてくださいね~」

 「ボウボー(了解である。あ~、染みる~。良い湯加減である)」


 権兵衛さんはしっかリ体を洗ってから湯船につかる。

 ちょっと熱めのお湯に声が漏れる。


 「ボフ(王、たくましくて素敵です)」


 ボソッとオークジェネラルが呟いた言葉はアユム以外誰にも聞こえなかった。

 そしてアユムも空気を読んで笑顔でスルーした。


 その後アユムとオークジェネラルが入りその後逃走しかけたアームさんが権兵衛さんに引きずられて放り込まれる。


 大きなおネコのアームさんを洗うのは重労働だ。最近はオークジェネラルさんと言う強力な味方を得て重労働から解放されたアユムだった。


 「がう(あー、いい。そこそこ。ちょっオークジェネラル強い! そそ、そのぐらいで。やるジャンお前、あとでトウモロコシやるよ)」

 「ボフ(あざーっす)」


 そんな光景を眺めながら、ムフルの木でできた椅子に座り、ムフルの木でできたテーブルの上に頬杖を突きながら、ムフルの木でできたコップに満たされたリッカジュースをゆっくりとたしなむ権兵衛さん。


 「ボウ(トウモロコシ、自分も)」


 さて手早く乾燥魔法で体を乾かしたアユムは本日のメインディッシュ、お肉様を窯に入れる。


 しばらくするとたれと肉の焼けあがる香ばしい匂いがフロアに充満する。ここは冒険者の鬼門ダンジョン15階層である。


 「がう(フロアボスの間でいい匂いしたら悪いのか!? ああ? 何が悪いんだ?)」


 いえ、悪くないです……。


 「ボウ(最近の世界の声は教養がないな……)」


 そこまで言われるのは心外です。


 「ねぇねぇ、2人とも誰と話してるの?」

 「「ボウ・がう(気にしなくていい。小物だから)」」


 ……覚えてろよ、くそネコとちび豚。


 ……そんなやり取りの中、お肉が焼きあがる。

 窯から複数個の肉の塊を取り出してゆく、そして。


 「奥義、真空刃斬!」


 アユムが短刀を振りかざすと肉がスライスされてゆく。テーブルの上に乗った大皿にリッカの葉が敷かれ、その上に肉の山が積まれる。


 「「ボウ・ボフ(最高! 早く食べよう!!)」」


 アームさんには大きな木の皿に盛って提供する。


 「じゃあ、皆さんいただきまーす」

 「「「がう・ボウ・ボフ(いただきまーす)」」」


 アユムは気付かなかない。妖精さんからも『残して! 私の分も!!』と書かれた手紙が来ていることに。

 そして完食間際に気付いて保存用の葉っぱにくるんでオークさんたちのお土産と一緒に持って帰ってもらう事にした。


 「あ、そだ。明日当り人間の街に行こうと思うんだけど……畑のお世話お願いできます?」

 「「「がう・ボウ・ボフ(ふぁ?)」」」


 アユムも大概に突然な人間であった。

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