第4話「妖精さんとその配下」

 アユムはこのフロアに住むようになってから何度か『妖精』と思わしきものと接触があった。

 その接触は主に手紙だったがアームさんにも読ませようとすると灰になって消えてしまうので読ませていない。きっとアームさんのご主人様かもしれない。


 ちなみにその手紙は必ず『例によって、君、もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで。なおこの手紙は自動的に消滅する。成功を祈る』で終わる。


 アユムは考える。排気口と排水口の設置してくれたお礼を要求されただけなのに殺されるのだろうか?などと不思議に思っていると収穫物をのせたテーブルの横の土がボコりと盛り上がる。


 「あ、ワームさんこんにちは♪」


 1m近くある芋虫が登場する。

 彼は18階層に生息するフレイムワームと呼ばれる口から炎を吐き、強固な皮は剣を弾き飛ばす、その姿から想像もつかない素早い行動を起こす危険なモンスターだった。


 「ボッ(ちーっす。今日も食べに来ました!)」

 「あ、今そこに積んでるけどそれでいいかな? 少し土かぶちゃってるけど」

 「ボッ(バッチリ! ここの土いい味してるからよりおいしく食べれるっす!)」


 踊るようにくねくねしながらトウモロコシの皮や刈り取った草を食み始めるワームさん。

 お昼寝大好き大きなおネコ!ことアームさんは知らないが最近現れるようになった15階層の新たな住人と言って何の差支えない。


 「ワームさん。実の方は食べないの?」

 「ボッ(食べるけど今一、俺はこっちの方が美味いっすからこっちがいい……)」


 アユムは先ほど収穫したリッカの皮をむく。そしてワームさんに提供。


 「ボッボー(うまし! うまし!)」


 アユムは複雑な心境であるが、皮は栄養が詰まっているしそれだけ美味しくできたのだと納得することにした。


 「ボッ(ああ、そういえば移住希望者がいるんすけど……大将、また寝てますね)」

 「そうなんだよ……よし、起こしてみよう」

 「ボッ(大丈夫なんすか?寝ぼけて食べられないっすかね?)」

 「大丈夫。アームさんだし♪」

 「ボッ(その信頼うらやましいような、そうでないような……)」


 アユムは皮をむいたリッカのうちの一つを手にアームさんに近付いていく。


 シュクリ


 瑞々しい果肉に歯が通る。広がるのは頬純な香りと自然な甘み。思わず頬が緩む甘さ。


 「おいし~~」

 「がう!(どこだ! 俺の美味しいものは! 奪うものは出てこい! 神でも食い殺してやる!!!)」


 寝坊助が起きた。


 「アームさん。あーん」


 寝ぼけ眼のアームさんはつられて口を開く。

 そこにリッカが一つ投げ込まれる。


 アームさんの咀嚼。

 無言である。


 無言でアームさんは口を開く。

 アユムは無言で投げ込む。


 咀嚼音、そして口を開く。


 無言。


 繰り返されること10度。アユムが両手を開いて『もうないよ』とやるとアームさんはこの世の終わりのような表情を取る。


 「ボッ(大将……)」

 「がっがう(お、お前18階層の不良じゃないか! なんでここに!)」


 ワームさんは不良だったらしい。


 「ボッ(兄さんのお仕事の手伝いとお食事だ!)」

 「がう(ほう、アユムの手伝いとな……本当だろうな)」


 2匹の間に戦いの気配が充満する。


 「あ、トウモロコシそろそろ収穫しなきゃ」

 「ボッ(皮と葉っぱ♪ おねげーしやーす)」

 「がう(とうきびじゃ! とうきびじゃ!)」


 猫と芋虫の手のひら返しに会い、戦いの気配は1人置き去りにされてしまった。とぼとぼ帰る戦いの気配を置いて1人と2匹はトウモロコシ畑に向かう。


 「ボッ(皮と葉っぱ♪ うめーっす。大将自分これ食べることでどうやら畑に貢献してるらしいんすよ。ここで雇ってくれませんかね?)」

 「がう(うめー! この甘さやめられない止まらない! ……あ? 畑の役に立つなら許可する! ただしアユムを傷つけたら畑の肥やしにしてやる)」 


 「ボッ(まじっすか大将さんくす! あと、もう1匹紹介したいんですけど連れてきても?)」

 「がう(ん? ああ。ちょっとまて焼きトウモロコシうまーーー! ……あ、他のやつな連れて来てみ、おけおけ)」


 こうしてワームさんの正式採用が決まった。


 「ボッ(焦げた葉っぱも中々乙でした! じゃまた!)」


 そういって地中に潜ってゆくワームさん。

 それを見送りつつも収穫したトウモロコシから目が離せないアームさん。


 そこに16階層につながる扉が荒々しく開かれた。

 入ってきたのは巨体のオークジェネラル2体と成人した人間サイズオークが1体。


 「がう(貴様、30階層のオーク帝国の王か……何をしに来た)」


 アームさんの問いに3体は何も答えない。ただただアユムを見ていた。


 「がう(アユムに用か?……何とか言ったらどうだ!)」


 苛立つアームさんだが通常のモンスターに意志などないし指定の行動以外は取らない。


 「ああ、妖精さんのお使いの人たちですね! こっちこちに置いてあるので持っていってください~、あ、カバンとか籠とかありますか?」


 いわれてオークたちは背負っていた籠を降ろしサムズアップ。


 「じゃあ、こちらへどうぞ!」


 ぞろぞろとアユムに連れられてゆくオークたち。


 「がう(……ここの家主俺だよね……)」


 アームさんをスルーしてアユムとオークたちのやり取りは続く。

 しばらくして3つの籠に山盛りとなった作物を背負ってオークたちが帰ろうとする。


 「ああ、ちょっと待って。折角だから食べていってください。食べながら帰ってもいいよ」


 アユムは全員にリッカと皮をむいたトウモロコシを持たせる。

 そして自分はリッカをかじる。


 3体はそれぞれ見様見真似にリッカをかじる。

 そしてここに来て初めて彼らの頬が緩む。どうやら気に入ったようだ。


 「ボウ(美味かった。また来る)」


 オークの王はそうつぶやくと来た扉から帰っていった。


 「がう(なんだったのあれ?)」

 「あれは多分は窯の上に作ってくれた排気口とか、お風呂に排水口とか作ってくれた妖精さんの仲間の人じゃないかな?」


 「がう(あ、それダンジョンマスターね)」


 ようやく納得のいったアームさんだった。 


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