クジャクサボテンのせい
~ 七月四日(火) 五時間目 九センチ ~
クジャクサボテンの花言葉 危険な遊び
浴衣というキーワードを思い出した功績により、かなり近付いた席に座るのは、たまに俺の知らないことを教えてくれる
軽い色に染めたゆるふわロング髪を、今日は頭のてっぺんで随分しっかりとしたお団子にして、そこからクジャクサボテンを生やしている。
美しい、真っ赤な大輪が三つほど開いているが、それよりとげとげが怖い。
だから今日は、バカなんて思わない。それで攻撃されたら怖いから。
そんなバ……、穂咲は、昨日別れた時の元気な笑顔はどこへやら、今日も結局首を傾げ続けている。
「パパの浴衣、二着も貰ったはずなのに、どこにも無いの。どこなの?」
……これである。
知りませんよ。
俺は君の外部記憶領域なの?
しかし浴衣って、おじさんの浴衣のことだったんだ。
それをどうする気なんだろう。
「でもね、どこにやったか探してたら、いいものを見つけたの」
「携帯の充電器? 今までどうやって充電してたのさ」
「なくしたと思ったから、もう一個買ったの。一個はお家に置いといて、一個は持ち歩けるの。これでどこでも充電できるの」
……もともとの一個を持ち歩くという発想には至らないんだね、君は。
そして、朝から無駄にぴこぴこ携帯を触ってた理由はそういうことだったのか。
どれ、電池残量は……って、あかっ!
既に充電切れそうじゃないか。
俺が残量のあたりを指差すと、穂咲は口をあんぐり開けた。
いやいや、慌てて充電器繋いでもね。
コンセント渡されてもね。
「俺に一体、どうしろと?」
首だけ先生の方に向けて警戒している俺の手を、穂咲が勝手に操縦する。
右手、左手、二つの指先でコンセントのでっぱりを持たされると、今度は背中をごしごし擦られた。
ほんと、なにしたいんだよっ! あついわ!
「よいしょ。よいしょ。……ふう、増えてきたの。ありがとうなの」
何の冗談だ。やっぱりバカだ。
そう思いながら半目で覗き込んだ穂咲の携帯。
…………電池残量のゲージが増えていた。
「うそでしょ?」
…………え? ちょっと待ってね。初耳。
右手を見つめてみたけど、どう見ても普通の手。
背中を触ってみたけど、いつもの俺の背中。
「放しちゃダメなの」
え? え?
人間、パニックに陥ると頼れる人物に救いを求めるものだ。
俺は無意識のうちに先生を見つめていたら、怪訝な顔で見つめ返された。
「なんだ秋山。前に出てこの問題を解きたいのか?」
席を立って手の平を差し出す。
先生が、俺にチョークを渡そうとする。
……そこに、目に見えるほどの、ばつんと音が響くほどの雷が発生して、チョークが粉々に砕け散った。
「秋山よ。今のはただの静電気じゃないな? 何のいたずらだ!」
俺が手の平を見つめながら、逆の手を教室のみんなにかざしたら、今度は一斉に携帯の着信音が鳴り響いた。
……ほんとに、俺の体から何が出てるの?
「うるさい。そのままここに立っとけ」
「そんなリアクションでいい話か、これ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます