姫百合のせい
~ 六月二十七日(火) 放課後 十九センチ ~
姫百合の花言葉 強いから美しい
なぜか昨日より離れた隣の席に腰かけるのは、たまに尊敬してしまう
軽い色に染めたゆるふわロング髪を、今日は下ろしたままで編み込みだけ作り、その結び目にオレンジ色をした大きな姫百合を一輪挿している。
バカに見える。
でも、美しくも見える。
放課後の教室に二人、いつもの席で学級日誌に向かう。
今日、俺たちは揃って日直なのだ。
だが花瓶の水替えも黒板掃除も戸締りも、そして学級日誌を書くのも全部俺。
穂咲と言えば、また例の考え事をしながら棒菓子をかじっていた。
「放課後だし、お菓子を食うなとは言いません。せめてその癖はやめなさい」
俺が見つめる目線を追って、穂咲の目が自分の机に落ちる。
そこには、棒菓子の端っこが穂咲の食べた本数分転がっていた。
チョコが付いていようがいなかろうが、手で持ったところは残す。
最近やり始めた悪癖を指摘したら、穂咲はふるふると首を横に振った。
「ここを、ハトさんにあげるのが好きなの。正門のあたりにいつもいるの。でも、あげ過ぎちゃうとあたしの分がなくなるの」
「あげちゃだめです。もろもろアウトだと大人が言うだろうに」
ハトには塩分多いだろうし、人を怖がらなくなると公害とかあるだろうし。
「どうしてなの? ちゃんと分からないと、分からないの。捨てられてる猫さんに食べ物あげちゃダメって言ったこともあったよね? なんでなの?」
……確かに。
大人がそう言うから、なんとなくそれが正しいもんだと思ってた。
「お前はたまに良いことを言う。猫については俺が間違ってたかもしれない。正直に言うと、正しいのか間違ってるのか、ちゃんと知らない」
穂咲は俺の言葉を聞いて、一生懸命考え始めた。
そう、たまになるんだ、この状態。
こいつは、常識が足りてない。
世に言うバカという奴だ。
だが、だからこそ誰も真似ることのできない強さを持つ。
それは、ちゃんと自分で考えること。
人の意見を鵜呑みにすることなく、咀嚼して、必ず自分で考える。
……穂咲は強い。だからこいつは、美しい。
「じゃあ、どうしてダメなのか調べてみるの。図書館、寄ってもいい?」
「遅くなるとおばさんが心配するからな。メッセージ入れときなさい」
穂咲は生真面目な顔で頷くと、携帯を取り出しながら机の上を見た。
「これ、どうしよ」
その見つめる先に転がるのは、棒菓子の余り。
ハトにあげるなと言った以上、責任は俺にある。
仕方が無いから、まとめて掴んで口に放り込んだ。
「ハトさん用なのに」
「くるっぽー」
「お腹空いてるの? 目玉焼き作る?」
「こけこっこー」
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