ストロベリーキャンドルのせい
~ 六月二十二日(木) 一時間目 三十一センチ ~
ストロベリーキャンドルの花言葉 私を思い出して
昨日の一件のせいで、かなり離れた席に腰かけるのは、ドラマが大好きな
そんな彼女の今日の髪形は、ひとつの芸術、その終着点である。
軽い色に染めたゆるふわロング髪を三角形に結い上げ、その上に白い綿が薄く乗っている。
仕上げに、遠目にはイチゴにしか見えないストロベリーキャンドルが挿さる。
歩くショートケーキ。
見事なまでのバカがここにいる。
いや、穂咲のことを、俺はバカとは呼べないな。
なんで毎週水曜日、必ずドラマを見忘れるのか。
木曜日、一時間目のチャイムが鳴る。
ドラマの再放送、開演の合図だ。
授業が始まると同時に、名監督はセットとキャストを真剣な表情で配置する。
そんな中、びっくりする新人さんが鞄から現れた。
「懐かしいな、その人形。まだ持ってたのかよ」
古くなったせいでちょっと金髪がぼさぼさになった着せ替え人形。
よく、その子をお店の花の間に突っ込んで、写真を撮ったっけ。
……カメラを握っていたのは、今は亡き穂咲のお父さん。
おじさんとの思い出の品。
写真も人形も捨てられないって言ってたな。
だが、あいや待たれいお嬢さん。
「なんだよそのセクシードレス。胸元見えすぎ。太もも出し過ぎ」
「作ったの。こんな感じの探偵さんが、逃げたヒロインたちを追いかけるの」
そんなの出てきたんだ。
しかしほんと、君は裁縫と目玉焼きだけは才能あるよね。
他のキャスト人形も、それが着てる洋服も、全部手作りだし。
これだけ役者のレベルが高くなると、赤黒消しゴムがレギュラー復帰するのは難しいな。
……そんな彼は着せ替え人形の椅子にされていた。
さすがに不憫だ。
「こら、俺はその俳優さんのファンなんだ。その扱いはやめなさい」
抗議すると、穂咲はふるふると首を横に振った。
「悪徳プロデューサーを四つん這いにさせて、そこに座るとか。びっくりしたの」
「配役戻ってる! 奇跡のレギュラー復帰!」
「騒ぐな秋山! あと藍川も! 立ってろ!」
今日のは納得だ。
さすがに騒ぎ過ぎた。
でも、俺が席を立ったその隣では、穂咲が教科書を逆さに持って、人形を懐に隠している。
このまま立ったら、おじさんとの思い出の人形、取り上げられちゃうな。
「こら藍川! お前もとっとと立て!」
仕方が無いので、俺は穂咲からイチゴを抜いて、無言のまま頭に挿した。
「俺は、藍川穂咲です。ショートケーキのイチゴは、最初と最後に食べる派です」
「ばかもん。じゃあ秋山はどこ行った?」
「俺は、秋山道久です。イチゴは、取られるので食べたことがありません」
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