第二話 幼稚園
私が通った幼稚園はその地域では有名で大きな所だった。
有名といっても、とても古くからあって、何だか園長先生が凄い人らしいと言うのと、同じ系列の保育園があるの位だったからだが。
古いからか、園児の間では七不思議みたいなものがあった。
何処の何がどうとか、一つ目二つ目とかはなくて、お化けが出る、幽霊が出る、あの教室で見た、オルガンが鳴ったとかいくつかの曖昧なオカルトな噂話が、七不思議と言う名称を使っていただけの園児らしい可愛いものだった。
祖父が亡くなってから、チラチラと影のようなものを見るようになった私にはコショコショ話してキャーキャー喜ぶには少し複雑な気持ちを持っていた。
秋頃だろうか、ビュウビュウと強い風が吹く日の遊びの時間。二階の教室から出ようとしたとき、サトミちゃんに呼び止められ女の子の集団に近づくとどうやら『七不思議』の話をしていたようだ。
「何か見たことある?」と目をキラキラさせて言うサトミちゃんに苦笑いして、誤魔化した。
そんな私を気に止めることもなく、元気一杯のサトミちゃんは今から噂になった場所をみんなで回るのだと言う。一緒にどうかと言われたが、次の発表会でやる楽器のパート練習にフジタが呼びに来たので断り先生と共に三階の音楽室に向かっていた時だった。
「みんな怖い話が好きなんだねぇ」
若くて可愛いフジタ先生は人気者でいつもにこにこしている。
「先生は怖がりだから、お化けが出てこない方がいいなぁ」
「私も、怖いの嫌い」
でも、さっきから先生の回りにチラチラと影が揺れている。
チラチラしているものは見ようとしても見えないし、よくあることだから特に気にせず進む。
階段に行き着き、上っているところだった。
――ああああいいいだだだーいいぃぃ!!!あああーーー!
野太い声が響く。汗がどっと溢れてきて息が詰まる。空気が冷たい。
フジタ先生にも聞こえたみたいで、凍り付いたように固まっていた。
そんなに時間は経たなかったと思う。凍り付いたフジタ先生がバッと私を見たので、私じゃないよと首を横にふった。
とたんにフジタ先生は上まで走りだし、戻ってきて
「ちょっとここで待っててね?」
と優しく微笑むと、また下まで走り出した。
速いなぁと場違いなことを思いながら私は階段の上を見る。
空気は冷たいまま。そしてだんだん重くなる。
――来る。
そう感じた時には既に階段の上に影がいた。きっとさっきの声はコイツだろうなとわかる。
何だかへちゃげた男の影。
何がどうと説明つかないが、崩れてる?潰れてる?そんな印象のモノが階段を下りてくる。
息苦しいし、心臓はドクドクうるさい。
でも、私は見えてないフリをする。
見てはいけない。いや、見えてるのを知られてはいけないと思ったのだ。
近づいてくる影は私には気付いてないようでノソノソずるずる動いてすれ違う。
小さな声であーいーだーいーと繰り返していたのがすれ違うときにわかったが私も必死に『聞こえない見えないわからない、ただ先生を待っている』を装い、思考も伝わる気がしてずっと、先生まだかなーと頭のなかで繰り返していた。
すれ違って数秒ほどだろうか、フッと重い空気が軽くなり風が冷たい空気を飛ばす。
そういえば、風が強い今日なのにさっきは全く吹かなかったなぁなんて軽く現実逃避していると、下から先生が走って戻ってきた。
「お待たせー、ごめんね?誰か怪我したのかも知れないからちょっと見てきたんだけどなんともないみたい。何だったんだろうね……」
ちょっと泣きそうな先生が、何だか可愛いなと思ったのだった。
あれは、先生には『痛い』と聞こえたのだろうか。私は『会いたい』と言う言葉と誰かを探しているように見えたのだけれど。
簡単に発表会のパート練習(確認?)を終えてまだ時間はあるので園庭まで下りると、サトミちゃんたちが凄い勢いで走ってくる。
なんだろうと見ていたら、何故か手を捕まれ「一緒に来てっ!」と返事も聞かずに引っ張られて園庭に居たサイタニ先生のところまで連れていかれた。
皆の様子を見てサイタニ先生はどうしたのかと慌てたが、サトミちゃんの「お化けがいた」の一言で苦笑いしながら落ち着いてとしゃがんで話を聞く体勢になる。
サトミちゃん達曰く、
怖い話のスポットを巡って何もなかった。つまんないから諦めて、園で飼っている犬の小屋に犬を見に行った。そしたらいつもは絶対そんなことしない犬が急に唸り始めると、犬小屋や回りにあったおもちゃなどがガタガタ揺れはじめて、最後には軽いおもちゃが犬めがけて飛んだと言う。
その後サイタニ先生が犬小屋を見に行ったが特に異常はなく、不思議なことがあるんだねとみんなを宥めてお開きになったが、そういえば、モノが浮く話も七不思議にあった。嘘か真かわからないけれど。
ただ、何で私を引っ張って先生の所に連れていったのかは未だに謎である。サトミちゃんとはそもそもあまり仲良くもなかったのに。
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