第22話 『タクシーの中で大げんか!』


 シゲル、アキヒコ、ショウの3人は、目黒通りでタクシーを拾うと、一路下北沢を目指した。


「ゥウ、まだギボヂ悪いっす。それで... 先輩、やっぱ、オレら騙されちゃったんすか?」

「ああ、そういう事らしいな」


 シゲルはフテくされた声で答えた。


「まあ、あの山積みの南京錠を見りゃあなあ」

「アキヒコもうるせえんだよ、んなこたぁ言われなくたってわかってらぁ」

「それって詐欺っすよね? だからオレ、心配してたじゃないっすか! 大丈夫か? って...」


「今さらそんな事言ってんじゃねえよ。それとも何か? オメエはオレにお説教でもしようってのか? ええ?!」

「い、いやそんな事ねえっすけど...」


「なんだよ、ショウ、なんか言いたい事あんのか?」

「い、いや、だけどやっぱりオレは最初から怪しいと思ったっす。あのオッさん、とにかく変な英語ばっかり言ってたじゃないっすか? 先輩、アレ分かってたんすか?」


「なんだと、コラ! あんなもんはなあ、フィーリングで分かりゃいいんだよ、フィーリングでよ!」

「でもそれで騙されちゃったじゃないっすか!」


「ショウ、テメエちょっと表へ出ろ! ナシつけようじゃねえかよ!!!」

「まあまあ、シゲルもショウも落ち着けって。今、車走ってんだぞ、外出れねぇっつの! とにかくオレらは全員騙された被害者なんだからよ。ここは内輪もめなんざしないで、協力して三枝をとっ捕まえなきゃいかんだろが...」


「いや、そりゃそうだけどよ。ショウの野郎があんまり生意気な事言いやがるから...」

「すいません...」

「分かった分かった、ここは落ち着け、な? ちょっと黙って冷静になろうぜ! な?」


 アキヒコの提案に、二人は顔をそむけながらムスッと黙り込み、外の景色を眺めていた。


「お客さん、着きましたよ。こちらが下北沢の元田劇場です」


 タクシー運転手は、無言でそっぽを向き合う3人におずおずと言った。


「ん...」


 シゲルは不愉快そうに料金を手渡すと、劇場の前をウロつき、楽屋口を探した。


 開場が始まったばかりの建物の周囲には、足早に場内に入って行くカップルや、ゆっくりとパンフレットを眺める家族連れなどで、ごった返している。


 3人は、その人垣をかき分けながら裏手の楽屋口の方へ向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「関係者の方ですか? パスはお持ちでしょうか?」


 スタッフに尋ねられると、強面のアキヒコが眉をひそめながら、


「ああ?」


 と、すごんだ。スタッフはちょっと引いたが負けずに、


「あ、あの〜パスをですね...」


 と言ったが、3人はそれを無視して建物の中に入って行く。


 ドカドカと足音を立てて突き進む3人の前後を、困り顔のスタッフ達が何やら声をかけながらついて行く。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 "ガシャ!"、3人が楽屋ロビーのドアを開けると、ちょうど目の前に、黒い背広姿の男性と立ち話をする上森がいた。


「お、お客様、困ります。こちら関係者以外立ち入り禁止ですので...」


 その声に気付いた上森が、3人の方に振り向き、


「おや、シゲルさんいらしたんですか? 前もって言っていただければチケットを、お出ししましたのに。あ、スタッフさん、こちら私の知り合いですから大丈夫ですよ。パスは私の方から出しますから...」


 上森の言葉にスタッフ達は軽く頭を下げるとドアを出て行った。


「やあ、シゲルさん、よくいらっしゃいました。他の方はご友人ですか? もう間もなく公演が始まりますんで、スタッフにお席まで案内させましょう」


 シゲルは、上森の落ち着いた紳士的な言葉にイラついて怒鳴った。


「オイ、ここに三枝社長が来てんだろ? 分かってんだぞ! どこにいるんだ?」


 上森はトボけたような表情で言う。


「はっ? 三枝さんですか? ああ、ハイハイ。先ほど、どこかで見かけましたよ。え〜と、どこに行っちゃったかなあ? トイレにでも行ってるのかな? で、何かご用でしたか?」

「ご用もへったくれもあるかよ! オレらはあいつに騙されたんだ! オイ、どっかにかくまってんじゃないのか? 三枝がここに来てるって事は知ってんだぞ!」


「え? ど、どうしたんですか? 騙されるって、ただ事じゃないですよね?」

「ああ、そのただ事じゃない事が起こってるんだよ。オレらんとこにインチキ商品送って来やがったんぞ、あのオッさんは!」


「インチキ商品...? というと???」

「変な錠前だよ! 番号合わせるやつ、南京錠だ南京錠! わかるか?」


「パッドロック?」

「そう、それだよ。お前もインチキ商品が分かってんじゃねえか! グルじゃねえのか? え? どうなんだよ?!」


「いや、しかし三枝さんの会社はパッドロックを中心にした製品の開発をしておられますからねえ...」

「な、何言ってんだオメエ! インチキだろ、インチキ!」


「ですが、フィジカル・ロックの商品は海外でも評価が高いですよ? インチキという事はあり得ないと思いますが...」

「海外ったって、バンドの倉庫の鍵だろ? え? 違うか?」


「はい、三枝さんの会社のパッドロックは楽器倉庫の鍵としては東南アジアの音楽業界では定番のようですよね。フィジカルな部分の堅牢さが最大のウリですからね!」

「ムガ〜、またその言葉かよ! 日本語で話せっての!」


「日本語? すると『構造的にも頑丈な錠前である事が、商品の最大の魅力である』ですかね?」


 上森が、ちょっと相手を小馬鹿にしたような説明をする...


「なんだその訳わかんねえ話は! じ...じゃ、ア、IT はどうなんだよ IT はよ?」


「IT は英語ですよぉ? インフォメーション・テクノロジーでインターネットなんかの事ですけど...」

「三枝の会社はそれで儲かってんだろ? 言ってたぞ!」


「そうですね。商品は IT を大いに利用して、 hamazon などで売られていますからね。別に彼が IT の会社を運営しているわけじゃありませんが、『IT で儲かっている』というのは正解ですよねえ?」

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