第12話 『オレらってやっぱ庶民派?』


 会食後の夜11時過ぎ、生まれて初めてのフランス料理を体験したアキヒコ達一行は、途中リコと別れると、酔い覚ましを兼ねてブラブラと歩きながら話していた。



「う〜、まだ酔っ払って足元フラフラだぜぃ! いやぁ、それにしても食ったわ飲んだわフランス料理」

「美味かった...か? フランス料理」

「エ〜っと、微妙だったっす、フランス料理」


「ああ、そうだよなあ。美味いっちゃあ美味いけどよ」


「うん、オレどっちかっつ〜と、のんべい横丁で子持ちシシャモに手羽先と枝豆にチューハイって方が好きかも知らんなぁ」

「あ、オメエもそう? オレっちも、それに板わさ、豚キムチ、シメはラーメンとかな」

「お、先輩そう来ます? それ来るならオレ的にはタコわさ、コーンバターに馬刺しユッケとか行きたいっすよ!」


 となんだか今夜のディナーぶち壊し会話が飛び出した。


「だけどシゲル、さっき投資だの何の言ってたけど本気かよ?」


 アキヒコが少し心配そうな声で聞いた。


「まっな。別にそんなそぶりをしただけなんだけどよ。だって、あのオッさん金持ってそうじゃん?」

「おお、それってオレら的ビジネス展開な?」


「そんなとこだ。オレらの電話ビジネスも、そろそろヤバイ気しねえ?」

「ヤバイのはいつもの事っしょ」


「そうだけどよ、東京じゃ大分だいぶ稼がしてもらったし、そろそろ潮時なんじゃねえかと思ってるわけだ、俺的にはな」

「ああ、そういう事ね。確かに結構金稼いだよな」

「こないだが120万で... その前が250万、あと400万に230万に、調子良かった時は800万以上なんてのもあったっすよね」


「それそれ! 最近売り上げ減ってると思わね?」

「ああ、確かにな。最近は警察もうるせえし、オレら的な職業は肩身が狭いよな。もう少し自由にやらせろってのな」


「そこよ! んだからよ、ここはひとつドカ〜ン! っと大物を狙ったら東京からオサラバして大阪とか福岡とかで事業再開とか、そういうパターンってのはどうよ?」

「なるほど、鋭い! さすがシゲル、将来の事考えてんだな! けど、俺的には大阪とかじゃなくてフィリピンとかも狙いたいっすな。ネットのニュース見てっとあっちの詐欺は億単位のやつ多いじゃん。一発稼いだら、あと向こうで余生を遊んで暮らすとか良いよな! もちろん美女に囲まれてな!」


「オメエ美女んとこ力入ってんぞ。ホントはそっちが目的なんだろ? ま、しかし、そういう楽しい人生を送るのに、ちょっとここで踏ん張るのが良いと思うわけだぁな」

「さすが先輩っす! それで、さっきのオッさんっすね?」


「それよ! 金持ってそうじゃん? それにオメエ IT だぞ、IT」

「あんの〜、IT ってなんすか?」


「え?! それ聞く? そ、そりゃオメエ IT は IT だろ、金儲かるやつ。なんかインターネットに数字打つだけで億とか儲かっちゃったりすんだぜ」

「ハァ〜...」


「1秒で億稼ぐとか、オメェ知らねえのかよ! テレビとか見てみそ。六本木ヒルズとかで豪遊したりとか、クラブで怪しいオクチュリやって楽しくラリラリ〜とか、おいしそうなタレントと結婚してんのって、みんな IT の奴らだぞ。そりゃ乗っかるしかないっしょ」

「なるほど、おいしいタレントにも乗っかると!」


「お下品な事言ってんじゃねえよ。俺ら、おフランス料理食って来た金持ちだぞ」

「う、ウス...」


「んでだな、オッさんの話だとフィンランド・ロック・ソウルとかって会社、儲かってそうだろうがな。さっきの話じゃ1口80万っつってたから、ま、お付き合いで投資するフリをしてよ... どっかでうまいこと言って、お金いただいてドロン! どうよ?」

「こないだ、トミ子さんから頂いたお金使っちまって大丈夫か?」


「いいんじゃね? まだ前のお仕事の残りも銀行にあんだろ? それに、またオッさんに飯おごってもらったりすりゃあ、いいんだしよ。なんたってオレら命の恩人だぜ! うん、そうだ今度はフランス料理よりイタリア料理がいいな。ピザ食わしてもらって酒飲む! いくね???」

「いいねいいね! アミーゴ! んでやっぱフィリピン?」


「オメエこだわってんな。ま、ヤバくなってトンズラならフィリピンもありだよな」

「だけど、オレらがトンズラしちまって、シゲルはリコどうすんだよ?」


「ああ、まっな。あいつとも長いしよ、そろそろ別れてもいいんじゃねえかと思ってるわけだ、オレ的にはな」

「え? 先輩すれひどくないっすか?」


「いいんだよ、んなこたぁ。あいつだって、そろそろ飽きてるみたいで一緒に居ても会話が続かねえ事多くなっちまったしな」

「え〜、でもなんだかなあ...」


「ショウ、オメエこだわるなあ。そういう性格は良くねえぞ! オメエだって見ただろ、ユッコにミマ。ゲロマブじゃん。今日のオッさんとくっついてりゃ、ああいう上玉がワンサカだぜ、きっと」

「う〜ん、まあそうっすけどねえ」

「ま、確かにシゲルの言う通りかもな。リコだって可愛いけどよ、タレントさんにはかなわねえかもだし」


「だろだろ? 人として、やっぱ上を目指さないと神様に怒られるだろっての。んだからよ、リコにはこないだうち稼いだ金でもちょこっとやってよ、喜んでる所で、オレらはオッさんから金もらってトンズラってのが、いくね?」

「ああ〜、なるほどあと腐れなくていいか、それ!」

「う〜ん、先輩がいいんならオレはいいっすけどね...」


「だんしょ? さっきオレが興味あるフリしてたら、あのオッさんエッレ〜乗り気だったわけだし、ここはもう一つ押して IT で儲けさしていただこうぜ!」

「そういや、さっき貰った名刺にインターネットのアドレス出てたよな? これ入れりゃ会社の事が見れんだろ? 明日にでもチェックしてみようぜ!」


 3人はそう言いながら、シゲルのマンションになだれ込むと、前祝いの祝杯をあげながら雑魚寝ざこねしてしまったのだった。

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