第10話『いざ、おフランス料理を食いに!』:
翌日の夜、アキヒコたちはネクタイ姿に身を固め、青学の
田舎の成人式に招待された暴走族が、生まれて初めて背広を着たようなチンケな格好で歩く一行。
南青山の骨董通りも一本裏手の道に入ると比較的静かでノンビリと歩く事ができる。
「先輩〜... な〜んか首が締まりそうで苦しくねっすか?」
首元の服を指でグイグイ引っ張りながら言うショウの言葉にアキヒコも同意した。
「んだな。タイマンはって
その言葉にシゲルが言う。
「おめ〜ら、そういうお下品なお話をするんじゃございませんですぜ! 今日はオレらフランス料理だぞ、お・フ・ラ・ン・ス!」
フランス料理というフレーズに、ショウもアキヒコも盛り上がる。
「おう、そうだよ、おフランスだろ、おフランス。オレなんか昼飯抜いて来ちまったぜ! 食うぞ〜!」
「アキヒコさんもっすか? オレなんか朝メシまで抜いて、ついでにジョギングして腹減らして来てっからゲロ腹減り的状態っす!」
「おまけに今日は、社長のオゴリだぜ! 社長!」
「そうっす! 社長におごってもらうって聞くと、なんか偉くなったみたいで、盛り上がるっす!」
「んだんだ、んで、なんだっけ会社の名前?」
「なんか〜、フィリピン・ロック・ソンブレロ的な〜、そんなんじゃなかったっけ〜?」
と、リコの脱力するような答え... しかし、シゲルの答えはもっと凄かった。
「いやお前、ソンブレロはねえだろ、ソンブレロは... え〜とだな、フンボルト・ロック... 最後は『ソ』だっただろ? ソ、ソ、ソ... フンボルト・ロック・孫正吉?」
「ギャハハハ、誰だよ孫正吉」
「それ〜、ロボット売ってる有名なハゲの人だし〜」
「リコさん詳しいじゃないっすか! すっげ〜っす!」
「んだどもロックだけはあってんだろ? ロケンローだぜ。外田裕也だろ?」
「外田裕也って政治評論家じゃねえのか? なんでロケンローなんだよ?」
「え〜、それって〜、有名な映画俳優の旦那さんでしょ〜?」
「そうなのか? なんだか分かんね」
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とまあ、日本の未来が暗くなりそうな会話をしながらダラダラ歩いた彼らは、ほどなく指定の場所に到着した。
その辺りは、少し先に六本木通りと首都高が見えはしているが、何の
「ここ... か? 店なんてないぜ?」
「てか、ここって、ただの住宅街だし〜...」
「だども、この看板に書いたる数字ってば、昨日ミマちゃんが言ってた数とおんなじでね?」
「"1・9・3・4"、あ、ほんとだ。で、なんか書いてあるんっすけど、何なんでしょうね、これ?」
「の・う・べ・れ く・い・し・ね(nouvelle cuisine*)???」
「リコさん、すっげ〜っす! 英語がしゃべれるんっすね!」
(注:nouvelle cuisine=英語じゃありません。正しくはヌーベルキュイジーヌ。フランス語で『新しい料理』の意味。レストランの名前によく付いている)
「で、ノウベレクイシネってなんね?」
「そりゃおめえ、やっぱノーベル賞がもらえるくらい美味いから食い死ねって事じゃね? レストランだしよ」
「ナルホド〜! 大阪の食い倒れのフランス版みたいなもんっすね?」
「それそれ!」
と、フランス人が憤死しそうな会話が響く中、石造りの古風な建物の車寄せ玄関から小野寺演ずる三枝祐一が登場した。
「ああ、皆さんが先日、娘の
小野寺はそう言いながらアキヒコ達を建物の中に招き入れた。
昭和初期にでも作られたような重厚な石造りの玄関を入ると、梶宮扮するレセプショニストが、
「ヌーベルキュイジーヌ1934へようこそ、いらっしゃいました。お客様、上着はこちらでお預かりさせて頂きます」
と
「う、上着? オーバーとかここで脱ぐんけ?」
そう言いながらアキヒコ達は背広まで脱ぎ、ネクタイを取ろうとした。黙っていたらパンツまで脱ぎかねない状況に梶宮は、
「お客様、上にお召しのコート類だけお渡しいただければ結構でございます」
と微笑みながら言う。いや、内心は爆笑していたわけだが...
「ああ、そうでございますか、んじゃコレ...」
一行は上着を渡し、玄関ホールに
「三枝様のお連れ様でいらっしゃいますね、どうぞこちらへ」
と奥の部屋へ案内した。
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