第9話 『犯人の余罪?』:


 翌日の午後、上森と斯波は分室でコンピューターの画面を見ながら話し合いをしていた。


「昨日、みんなが撮った写真と調査依頼が来ているファイルの人物像を比べてみると、幾つかのファイルで共通する部分があるように思うんです」


 斯波は Mac に表示された Excel のファイルリストを指しながら上森に言った。


「それは他の案件にも、昨日の詐欺犯たちが関わっている可能性があるって事ですか?」

「そう思います。もちろん法的な証拠があるわけではありませんが、叩けばかなり余罪が出るように思いますね。他の案件に出てくる外見的特徴とかですね...」


 斯波は Excel の案件ファイルを開きながら説明を始めた。


「例えばファイル『S-104』にある小柄な男とガタイの大きいスポーツ刈りの男、それからファイル『E-005』にある電話の男のしゃべり方の特徴、ファイル『K-313』にあるメガネをかけた学生風の男と小柄なネズミっぽい男の組み合わせ、なんかです」


「なるほど、似ている部分がありますね。しかし、それだけだと人物や犯行の特定には至りませんよね」

「そうです、で、色々調べてみたんですが...」


 そう言いながら斯波は、昨日キラウラや高野達の隠し撮りした画像を Mac の画面に出し、


「この辺の写真ですね、これをですね、最近流行りの顔認識機能で読み取らせるんです」

「ほうほう...」


「で、さらに FaceBook に登録してある人物名で、昨日のターゲットに近い名前をピックアップして、その投稿写真を比べてみたんです」

「なんだか、大変そうですね」


「まあ多少は... で、例えばですね、シゲルは『シゲル』『茂』の他に、『シゲ』とか...アキヒコは『アキヒコ』『昭彦』なんかの他に『アッキー』とか、そう言った可能性のありそうな名前を適当にピックアップして、その人物のプロフィール写真なんかをダウンロードして、顔認識機能で見比べるんです」

「なるほど...」


「そうするとですね、恐らく犯人グループのメンバーではないか? と思われる FaceBook のアカウントが浮かび上がって来たんです」

「それは、凄い! しかし、昨日の今日でそんなに調査できるものなんですか?」


「ヘヘ、実は最近 Excel や Apple Script《アップル・スクリプト》のスクリプト書きに凝ってまして、それでキーワードを入れるだけで怪しい人物の画像やテキストの投稿日時をネットから自動的に拾って来て、一覧表にするソフトを書いてみたんですよ。なので、膨大なデータを調べてはいるんですが、私がやったのは幾つかのキーワードを入れただけなんです」

「ふーむ、時代は進んだもんですねえ」


 感心する上森に、斯波は続けた。


「それで、絞り込んだアカウントの書き込みと、調査依頼のファイルにある犯行日時の関係をグラフにしてみると、面白い事が分かるんです。まず、これを見てください」


 斯波はそう言いながら、マウスを操作した。Mac の画面には表とグラフが表示される。


「これは Excel のグラフ機能とかですよね?」

「そうです。横軸が日付、縦軸が FaceBook や Twitter への書き込みの数です」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『グラフで分かること』:



「なるほど、書き込み数が時々ポーンと跳ね上がって、しばらくすると徐々にゼロになりますね。で、また突然増えて徐々にゼロになる... これを繰り返してますよね?」

「そうなんです。で、これに調査依頼案件にある犯行日と思われる日の横軸位置に、赤いマークを入れます。すると...」


 画面を見ていた上森は驚いて言った。


「犯行日の次の日くらいから書き込み数が増えてる!」

「そうです。で、その書き込み内容を調べてみると、高額の買い物をしたとか、ウナギを食べに行ったとか、東京デゼニランドで遊びまくったという内容が続くんです」


 上森は少し呆れて言う。


「ハァ〜、つまり犯行で騙し取ったお金を使って遊んでいる様子を書き込んでいると?」

「その通り!」


「なるほどねえ〜! 誰かを騙しては金銭をきあげて、豪遊を自慢。お金がなくなると、また犯行に及んでいると...」

「そういう事だと思いますね」


「うーん、悪質ですねえ」

「確かに。だけど迂闊うかつと言えば、迂闊です。お金が入った事なんて黙ってれば疑われる事もないのにね」


「確かにねえ。すると今までは、たまたま逃げ得をしていたってわけだ」

「そう思います」


「そうかー、これはやはりお灸をすえてやった方が良さそうですねえ」

「そうですね。そのあたりの判断は上森さんにお任せしますが...」


「でも社長に報告したら絶対『コテンパンにやっつけろ!』って言うでしょうから...」


 上森は笑いながら言った。


「社長、元正義の味方ですからねえ〜!」


「そうそう。ま、社長の意見は置いとくとしても、こちらでこれだけ情報も分かって来たわけですし、最終的には逮捕されて頂くとして、明日以降はちょっと世間の厳しさも知っていただきましょうかね」

「そうですね、明日は1934の食事会でしたよね?」


「ええ、そうです。長時間ターゲットと接触しますから、色々とこちらに有利な情報も引き出せるだろうと期待してるんです」

「なるほど。一応今の段階で FaceBook や Twitter で分かる雰囲気があります」


「雰囲気?」

「ええ、書き込みの内容を見ているとターゲット3人の中にも力関係の序列があるようなんです」


「ふむふむ」

「まず一番偉そうにしているのがシゲル、かけ子ですね。次がアキヒコ、受け子です。それから今回の案件では具体的な動きはないと思いますが、恐らく出し子のショウ。このショウが序列最下位、恐らく年齢も一番下の使いっ走りって感じのようです」


「なるほどなるほど!」

「あと、リコって犯罪に関わってない子は、どうもアニメファンのようで『星に変わってお仕置き』だの『真実はいつも一個!』とかしょっちゅう書いてますね」


 上森は笑いながら答えた。


「フム、それは色々とネタに使えるかも知れない情報だなあ...」


「オヤ〜? 上森さん、目が輝いてますよ!」

「え? 斯波さんだって盛り上がってるじゃないですか!」


 二人は思わず苦笑してしまった。


「ヨシ、明日は小野寺さんに三枝祐一役で登場してもらう予定でもありますし、ここは1934で一芝居打つ事にしましょう」

「いいですね。あそこの個室なら、こちらの自由にできますし」

「では高野君はギャルソン(給仕)、梶宮さんはレセプショニスト(受付)で入ってもらいましょう。特にギャルソンは執事役の実地練習にもなりますし、一石二鳥です」


「そうですね。高野君は最近、腐女子なお姉様に人気が出始めてますし、本格的なギャルソン修行は今後の芸のプラスになる事間違いなしですね」

「白三プロの新規事業で本格レストランなんてのも夢じゃないですね」

「それこそ『分室』の存在理由の『新規事業開拓』そのものですね!」


 二人は笑いながら明日の細かい作戦を練り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る