第五話 千春
次の日、当然千春はいつもの場所で待っていた。そして
「おはよう」
も無しに昨日の話の続きをはじめた。えーっとたしかホームズとワトソンが何とかだって言ってたな。大体本って読むためのものだろ。いちいち作者の気持ちとか、何でここをこう書いたかとか、私だったらこう思うとか、そんなことまで考えて読まなきゃいけないのか?などと考えていると、さすがに話を聞いていないと思ったのか
「翔君?大丈夫?」
と千春に聞かれた。とっさに
「うん、聞いてるよ」
と答えてしまったが、
「大丈夫?」に対して「聞いている」
と答えたのでは聞いていないと答えたのと一緒である。
「なんか疲れてる?もしかして私の話し、迷惑だった?」
と千春が聞くので
「そんなことないよ」
と答える。すると千春が
「翔君、本読んだことないんでしょ」
と聞いてきた。(見抜かれていたか、)と思い
「ごめん、昨日図書館へ行ったのはたまたまで・・」
と僕が言うと
「そうだよね。うん。」
と千春は黙り込んでしまった。
「でも、本読んで見ようかな」
沈黙に耐えられずに言ってしまったこの一言が僕と千春の運命を変えた。千春は最初
「いいよ、気を使わなくても」
と言っていたが、僕が
「なんか初心者でも読める本って無い?」
と聞くと、「それなら」
といくつかの本をすすめてきた。タイトルや作者はもちろん、簡単なあらすじなどがスラスラ出てくることに僕は少し驚だいた。2冊や3冊じゃない10冊以上だ。僕が
「もういいよ、その中から選ぶから」
と言わなかったらいったい何冊出てきたのだろうか。千春はちぎったノートに10冊の本をリストアップしてくれた。僕はそれを見ながら一冊の本に決めた。放課後、千春と一緒に図書館へ本を借りに行こうとすると
「私一人で行くから」
と断られた。
「でも、それじゃぁ」
と食い下がると
「それじゃあ図書館の前で待ってて」
と言われた。図書館に着くと
「絶対に中に入らないで、ここで待っててね。」
と念を押された。意味が分からなかったが、あまりにも千春が真剣な顔で頼むので
「わかったよ」
と言って図書館の前で待つ。千春は5分ほどで帰って来た。僕の選んだ本と、自分で読むのだろう別の本を2冊持って出てきた。
「そういえばここの図書館って貸し出し業務とかって誰がやってるんだ?」
と聞くと、
「わたし。図書委員だし、図書館使うの私だけだし。」
と千春が答えた
「それはまぁ、なんとも合理的だな」
千春は楽しそうに
「1ヶ月に1度先生と一緒に本の確認をするんだ。蔵書リストと照らし合わせてね。だから盗んだりはしてないよ」
僕がちょっと意地悪気に
「疑ってないけど、リストの改ざんとかもできるんじゃないか?」
と言うと
「そんなことしてまでほしい本がこの図書館にあると思う?」
と千春が笑いながら言った。
「たしかに」と二人で笑いながら帰り道を歩いた。
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