第二話 出会い

驚いた僕を見て千春は

「どうしたの?」と聞く。

僕は、内心パニック状態になっていたが反射的に持っていた鉛筆と消しゴムを前に出した。「あ・あの・・これを」

それ以上言葉が出てこなかった。千春は

「あぁ、わざわざ返しに来てくれたんだ。明日でもよかったのに」

とそれを受け取り、立ち尽くしている僕の後ろへ歩いて行った。翔は気づかなかったが何かを確認するように一瞬振り返って・・・。僕は校舎を出て、家へ向かって歩いていた。ついさっき起こった事実を思い返しながら、

図書館に入る、誰もいない、図書館を出て歩き出す、図書館から千春が出てきた。何度考えてもつじつまが合わない、あの狭い図書館の中には確実に誰もいなかった。もし仮に、千春がいたとする。だとしたら誰かが入ってきたことに気づくはずだ。だったらなんでその時に声をかけなかったのか?

なぜ自分が図書館を出てすぐに千春も出てきたのか?考えれば考えるほど訳が分からなくなり、僕は考えるのをやめた。分からないことをいくら考えても答えは出ず、ただの時間の無駄であることを知っているからだ。

僕は家に帰り、いつも通り風呂に入り、夕飯を食べ、音楽を聴きながら受験のための勉強をした。そして、いつもより少し遅い時間に眠りについた。

朝、なぜかとても寝覚めが良かった。いつもは5分間隔で3回は鳴らすスヌーズも最初の1回で起きた。朝食を食べて家を出る。いつもと同じ、昨日までと同じだった。家から5分ちょっと歩いた、学校まで3分の2くらいの所でいつもとは違うことが起きた。

ちょうど丁字路になっているところに千春が立っていた。千春は

「おはよー」

と言いながらこっちに手を振っている。正直訳が分からなかった。なぜ彼女がここにいるのか?なぜこっちに向かって手を振っているのか?まさかと思って後ろを振り返ってみたが、一本道が続くだけで誰もいない。まぎれもなく彼女は僕に向かって手を振っているのだ。恐る恐る手を振り返してみる。

「翔君遅い!遅刻するよー」

と彼女が返してきた。僕はまたパニック状態になったが、とりあえずそのまま手を振り返し、小走りで千春の所まで行った。そしてそのまま二人並んで学校まで歩いたのだが、千春は色々話しかけてきた。テレビの話とか音楽の話とかたわいもない話だったと思うが、僕はよく覚えていない。とりあえずそれなりに話を合わせていたと思う。

それよりも昨日まで名前も知らなかった女の子となぜ自分は並んで登校しているのか?なぜ彼女がこんなに話しかけてくるのか?そもそもなぜ彼女が自分の通学路の途中で待っていたのか?そんなことを思いながら歩いていたらあっという間に学校に着いた。

学校に着き、教室へ向かうと教室の前に見覚えのある女の子が立っていた。千春が小走りでその子に近づく、何かヒソヒソ話しているようだ。あの子は確か昨日千春が図書館にいると教えてくれた・・・花音・・だったっけ。僕の頭が名前を思い出そうとしていると、

「あなた、昨日図書館に入ったの?」

と花音が聞いてきた。図書館というフレーズを聞いて完全に思い出した。彼女の名前は花音だ。僕は

「あ、はい」とだけ答えた。

「図書館の中で千春さんとは会えたの?」

と花音に聞かれ、

「え、あ、廊下で・・」

と答えた。なんでこんな質問をされているのか、わからなかった。

「そう、じゃあ何も見てないのね」

と花音が言って、反射的に僕は

「はい」と答えた。

数秒の沈黙の後、

「よかったわね千春さん、彼、本当に何も見てないわよ」

と花音が言って、千春は

「ふぅ」

と胸をなでおろしたようだった。僕の頭の中には?マークがいっぱいで、何が何だか分からなかった。目の前の二人に何か聞こうと思っても聞きたいことが分からない。そんな状況で無情にも1限目始業のチャイムが鳴り、何事もなかったかのように二人は教室へ入っていった。

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