おまけエピローグ
帖文堂書店和合市駅前店前。
「はぁ……はぁ……なんとか間に合った……」
作中で何度女の子を喘がせたら、気が済むのかはさておき……。
「ここがあの女のサイン会場ね。この日をどれだけ待ち望んだことか……」
本来もろに変装しても、その鮮やかと言うまでの金髪を覆い隠すのは、至難の業ななわけで……。
「ここまでしたら絶対にバレないわよね」
だから、ヘアスプレーでその金色に輝く髪を正反対なまでの黒髪に変貌させ、帽子の中に収めれば絶対にバレることはないと確信に浸るエセハーフの女の子。澤村・スペンサー・英梨々。
「サインを貰うだけなんだから」
とはいえ、一つあることに気づいてしまった……。
「あ、宛名どうしよう……」
それはそうと、英梨々は意地張って、サインもらいに行けないだろ、というツッコミは、なしでお願いします。
サイン会場。
「次の方どうぞー」
「あ、はい!」
ついに回ってきてしまった。
今日ぐらいは、本音で話そうと、英梨々は決めていた。
「『恋メト』の時からファンだったんですが、前回のサイン会を逃してしまって……。やっと来れたので、あたしも嬉しい限りです。新作も心待ちにしていました」
「女の子のファンもいるのね。私も嬉しい限りだわ」
よし、気づかれていない、と心のなかでガッツポーズをする英梨々。
えーっと、慢心って、言葉をご存知でしょうか?
「あたしもこういう趣味の話ができる女の子が身近にいなくて……」
「あら、そうなの? だったら、今度お茶でもどうかしら?」
「えっ いいんですか?」
「私みたいな庶民で良ければだけれど。それで、宛名はどうします?」
今更だけれど、宛名って事前に決めておくものでしたね。
いや、もうそういう整合性突くのやめよ。誰も喜ばないから。
「え、えーっと、さわ……『沢城英梨子』でお願いします」
「ふふっ。私と倫理君の愛の結晶をここまで喜んでくれるとは思ってもいなかったわ」
「もしかして、この言い草……」
「ちゃんと本名で書いといたから、もっとバレないような名前にしなさいよ。澤村さん」
「なんでバレた……」
「それでね、差し支えなければ、あなたの描いた『恋メト』の同人誌に――」
「ちょっと待ちなさい! 霞ヶ丘詩羽!」
「人が喋っているのに話を遮らないでくれるかしら」
「あんた、いつから気付いてのよ」
「初めからよ。何か問題があったかしら?」
「は、はじ……初めからって! あたしだってサイン会ぐらい、すぐに開いてみせるから覚えておきなさいよ!」
「でも、いいのかしら。澤村さんがサイン会を開くとなると、今まで築き上げてきた化けの皮が剥がれて本性がバレるけれど、あなたがそれでもよかったのなら、期待はせずに楽しみにしてるわ」
「黙れええええええええええええ!」
「えーっと、二人を止めなくていいんですか?」
「あー、いつものことだから、気にしないでくれると有難い……」
「それにしてあのコ、えっと澤村さんでしたっけ? めちゃくちゃ可愛いですね! 新キャラですか?」
「お前はいつか必ず潰す」
そんな英梨々の眼光鋭く威圧的な発言に、臆することなく天才肌なのか、天然なのか真由は言い返す。
「なんだかそう言うと、負け犬っぽいですね」
「なんで初対面の人に、いきなりそんなこと言われなくちゃならないのよ! ふぇぇぇぇぇん、倫也ああああ!」
まぁ、あっさり倫也にすがりついてしまうんだけれど……。
「あ、言ってなかったけど、俺が一回コテンパンにしても平気だったから、嵯峨野さん相当強いぞ」
「梯子外さないでよ!」
「ほら、もう泣かないの澤村さん」
でも、最後に手を差し伸べて子供をあやそうとするのは、いけ好かなくて一番嫌いで駄目な女の子……。
この後、英梨々からサインを貰えるといいですね、詩羽先輩。
霞んだ宝石《おもいで》の終いかた @kt32
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